第6話
「待ってたよ。ルクス。その子が噂の連れ込んで、毎日、お楽しみの彼女かい? 流石、ルクス、可愛い娘を選んだね」
「……どうして、お前がここにいる?」
「あ、あの。ルクス、お知り合いですか?」
翌日、ルクスとシスティナが依頼主の商人から指定された依頼主の邸宅を訪れると依頼主以外に身なりの良い青年がソファーに腰掛けている。青年はルクスを見るなり、笑顔で挨拶をするが、青年とは対照的にルクスの表情は不機嫌そうであり、状況の理解できていないシスティナは首を傾げている。
「知らん。依頼の件に移ってくれ」
「残念だけど、こちらは窓口になって貰ってるだけで、本当の依頼主は俺なんだよ。ちなみに依頼内容も嘘。そんな事、わかっているんだから諦めなよ」
「……ちっ」
「し、失礼します」
ルクスは青年を無視すると青年の隣に控えている商人風の男性に声をかけるが依頼主は青年であり、ルクスは忌々しそうに舌打ちをすると青年の向かいのソファーに乱暴に座り、システィナは頭を下げるとルクスの隣に腰をかけた。2人が話し合いの場に着いた事に青年はくすりと笑うと手で男性に部屋を出て行くように促し、男性は頭を下げると部屋から出て行き、3人が部屋に残される。
「あ、あの」
「ああ。自己紹介が遅れたね。俺は『ティス=フィオール』」
「ティス=フィオール? ……あれ? フィオール? この街と同じ名前?」
「一応、この街の領主をさせて貰ってるよ」
「この街の領主様ですか?」
青年はシスティナの顔を見てにっこりと笑うと自分の名前を名乗る。『ティス=フィオール』の名前にシスティナは何か思ったようで首を傾げるとティスは隠す事なくこの街の領主だと答えた。システィナはこの街の領主と対面しているにも関わらず、特に取り乱す事はない。
「驚かないか。流石はシスティナ=フォミル第1王女」
「へ? ル、ルクス、まさか、私の正体を?」
「……話してない」
システィナの様子にティスは感心したように頷くと笑っていたはずの視線は鋭くなり、システィナを王女と呼んだ。彼の口から出た自分の正体にシスティナは慌ててルクスの服をつかむがルクスの表情は小さく首を横に振るだけである。
「ルクスには聞いてない。これでもそれなりにこの国の情報は集めさせて貰っているんでね」
「それは独立を視野に入れていると言う事ですか?」
「敵意を向けるのはかまいませんが、王女様、今のあなたにはフォミル王家の威光などない。ただの1人の新米冒険者だと言う事は理解した方が良い」
システィナはティスの言葉にフィオールに王家からの反乱の意思があると判断したようでティスを睨みつけるが、世間を知らないシスティナより、若くても1つの都市を治めているティスに敵うわけもなく、彼女の言葉は一蹴された。
「……落ち着け」
「で、ですけど」
「……少なくとも、その男の剣の腕はお前より上だ。それで、わざわざ、こんな面倒な事をした理由を聞かせて貰おうか?」
ひるみながらもティスに何か言い返そうとするシスティナ。ルクスは眉間にしわを寄せたまま、彼女を静止するとティスに向き合う。
「うーん。別に特に用はないんだけどね。知己であるルクスの顔を見たかったと言うのもあるし、何より、そんなルクスが王女様を囲っているって言うんだ。その噂を確認しないといけないだろ。心の友と書いて心友の俺としては」
「……知己にも心友にもなった記憶はない」
「照れるなよ」
「……そんな事実はない。帰るぞ」
「い、良いんですか?」
ティスは集めた情報から、ルクスを通じてシスティナと面識を持ちたかったのかルクスをからかうように笑う。ルクスの眉間のしわはさらに深くなり、これ以上、ティスの相手をする気もないようでシスティナに帰るぞと言い立ち上がり部屋を出て行こうとする。システィナは領主相手に引く事のないルクスの様子に戸惑いを隠せないようである。
「まぁ、ルクス、待ちなよ。まともに連絡を取っても来てくれないと思ったから、わざわざ、面倒な手段を取ったんだから、聞いてくれないと困るんだよ」
「……くだらない事じゃないだろうな?」
「俺がそんな事で君と連絡を取ると思うかい?」
「心当たりがあり過ぎるから言ってるんだ」
ルクスが部屋を出て行こうとする様子にティスは苦笑いを浮かべて彼を引き止めるが、ルクスからティスへの信頼感は薄いようで眉間にしわを寄せた。
「君と王女様にとっては有益な情報だと思うよ」
「ルクス、お話を聞いた方が良くないですか?」
「しかしな……前科が多すぎる」
「あの、ティスさんは何をしたんですか?」
「特に何もおかしな事をした記憶はないんだけどね……」
有益な情報と言う事でティスの話を聞こうと言うシスティナ。過去に何かあったのか、ルクスの眉間にはしわが寄ったままであるが疑われているはずのティスはまったく心当たりがないようで首を傾げている。
「……それで、有益な情報とはなんだ? くだらない事だったらわかっているな」
「落ち着こう。まずは剣から手を放すべきだと思うんだ。それに俺はフィオールの領主だぞ。何かあったら大問題だぞ」
「そ、そうです。ティスさんを手にかけてはダメです!?」
ティスの態度がかんに障ったのかルクスは腰の剣に手をかける。ルクスの様子は冗談には見えず、システィナは慌ててルクスに抱きつく。
「ほう……待った!? 流石に冗談だから、落ち着いてくれ!?」
「……本気で死ぬか? 俺は別にお前が死のうとどうでも良いんだ」
「お、落ち着いてください!? 剣を抜いたらダメです!?」
ルクスに抱きつくシスティナ。その姿にティスは口元を緩ませ、その態度がさらにルクスの怒りを買う事になる。
「まったく、ルクスは血の気が多くて困るよ」
「えーと、ティスさんに問題があるんだと思うんですけど」
「そんな事はないと思うんだけどね……さて、それでは本題に移ろうかな」
ティスの性格がつかめてきたようで苦笑いを浮かべるシスティナ。ティスは彼女の様子に小さくため息を吐いた後に表情を引き締めた。
「ルクスの事だから、当たりは付けているだろうけど、ランシルが本気で反乱を起こす。裏で色々と動きがあるよ」
「そうか。それなら、ランシルにはしばらく近付かない方が良いな」
「そ、そうかじゃないです。どうして、ルクスは落ち着いているんですか!? 反乱が起きるんですよ。大変な事ですよ」
ティスの口から持たされた情報はルクスが危惧したとおり、ランシルの反乱するというものである。その言葉にルクスは小さく頷くがシスティナは反乱など起こすわけにはいかないと立ち上がった。
「それで、火薬や爆薬の材料が高騰すると思うから依頼は増えると思うから、頑張って稼ぎなよ」
「まぁ、そうだろうな。戦争するなら必要だからな」
「そう、それでルクスも協力してくれない? ランシルの反乱が成功すると他の反乱も動きやすいから」
「ま、待ってください。どうして、ティスさんも反乱を起こす流れになっているんですか!? 領主のティスさんなら、反乱を思いとどまるように説得できるんじゃないですか?」
ティスはシスティナがいるにも関わらず、笑いながらルクスに協力を仰ぐがシスティナに取っては笑い事ではなく、ティスにランシルの領主を説得して欲しいと言う。
「いや、ランシルの領主はプライド高いし、俺の話なんか聞いてくれないと思うんだよね。それに正直、ランシルなら潰されてもどうでも良い。踊ってくれるなら踊り続けてくれてる方が、こっちも力の溜めようがあるからね」
「何を言ってるんですか!! 反乱が起きたら、多くの民が命を失うんですよ!!」
「……反乱が起きてなくても、この国では多くの民が死んでる。私腹を肥やすために戦争を起こす王族や貴族によってな」
ティスはランシルの民の事など知らないと言い切り、その言葉にシスティナはテーブルを両手で叩き、勢いよく立ちあがる。だが、ルクスは反乱が起きても起きなくても何も変わらないと言い切った。
「そんな事はありません」
「なら、お前のお兄様がどんな手でランシルの反乱を終息させるかをな」
「そうだね。力づくでくるか、他の手段でくるか、見物させて貰おうかな?」
「ランシルは貴族意識が強いから、何かある度に反乱企てようとするだろうからな。他の反乱を防ぐために見せしめとして皆殺しにする可能性もあるだろうけどな」
システィナは声をあげるが説得力はなく、ルクスとティスはシスティナの兄であるユリシスの手腕をみたいと言う。
「皆殺しなんて事をお兄様がするわけがありません!!」
「忘れるな。現国王は王位を手に入れるために父親と妹の命を奪うような人間だ」
「そ、それは……きっと、何かの間違いです。お兄様を操っている悪者がいるはずです」
システィナはユリシスは平和的に反乱を収めてくれると言うが、ルクスは彼が何をしたかを忘れるなと言う。システィナはまだ兄であるユリシスを信じたいようでユリシスを裏で操っている人物がいる可能性を主張する。
「仮にそうだとしたら、それもわからないお兄様は無能だ。それで、話はこれで終わりか?」
「そうだね。現状で言えば、これくらい、後はそっちでも何か情報を手に入れたらこっちに回して欲しい」
「情報の共有ね……考えておく。行くぞ」
システィナの主張にルクスはユリシスの手腕が試される時だと言うと、システィナに声をかけて部屋を出て行く。
「ま、待ってください!? あ、あの」
「現状で言えば簡単に反乱は起こさない。王宮の対応も観たいしね。ランシルだって反乱を起こすと言ってもまだ1枚岩じゃないから直ぐに落ち着くよ」
「わ、わかりました。それでは失礼します」
「待った。これ、今回の報酬」
ティスは現状では反乱は起きても小規模のものだと言い、システィナはその言葉に胸をなで下ろし、ルクスの後を追いかけようとするとティスがテーブルの上に依頼の報酬だと金貨を置く。
「報酬ですか?」
「そう、ルクスとお姫様に時間を取らせた事への対価」
「いりません。報酬とは労働に対していただくものです。少なくとも私はルクスにそう教わりました」
システィナは報酬を貰う事はしていないと言い切ると1度、頭を下げてからルクスの後を追う。
「うーん。それなりに見込みはありそうなお姫様だね。まぁ、金銭感覚をしっかり教え込んだルクスの評価をするべきかな? さて、お姫様は気が付いていないようだけどルクス=フリード様を味方につける事ができるんでしょうかね」
システィナが報酬を受け取る事を拒否した事にティスは楽しそうに笑う。