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 次に私がモクと出会ったのは、食堂での出来事からおよそ一カ月経ったある日のことだった。場所は大学正門の近くにある本屋で、突然の夕立をやり過ごすために入ったら、たまたま彼の姿を見つけた。モクは、この日も食堂で会った時と同じような服装だった。彼も私のことを覚えていたのか(失望はされていなかった)、目が合うと私の近くにやってきた。そして“時間はあるか”と訪ねる。私は本屋に用事はなく、雨が止むまでただ時間を潰したかっただけなので、“暇だからいくらでも付き合う”と答えた。彼は満足したのか、口元をわずかに上げ、“ついてこい”と言って本屋を出て行く。私も彼に従って外に出た。


 外は相変わらずの雨だった。地面に当たった雨粒は五センチは少なくとも跳ね返っているように見える。それくらい激しい夕立だった。彼は隣にある喫茶店に目を向けた。だが隣と言っても、入口は本屋から十五メートルは離れている。またその間には何もなく、雨を遮るものは見つからない。当然私は傘を持っておらず(持っていたら多少濡れてでもまっすぐ帰っていた)、モクもまた同じであった。しかし彼は、早足をすることも、濡らさないようにリュックを抱え込むこともせず、水たまりがあろうとお構いなしに目的地までの最短距離を突き進んだ(その彼の姿を見ていると、雨が降っている方が間違っているかのように思えた)。私はしばしその姿を凝視していた(見惚れていたといった方が正しいだろうか)。誰かの歩いている姿を見て、そんな状態になったことはその時が初めてである(テレビでファッションショーを見かけても、何も感じはしない)。

 やがて彼は喫茶店の扉の前に着く。そして、髪や服に付いている雫を払うことも、また私がついてきているかどうか確かめることもなく、重々しい木の両扉を開け、中へ入って行ってしまった。私はなるべく水たまりを避け、小走りで喫茶店へと向かった。

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