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一月も終わろうとしていた頃、私は学期末のテストにまた追われていた。計画的に学習することはいつもできず、半年間の勉強を一気に詰め込む(これが終われば念願の長期休暇だが、それまでが異様に長く感じる)。
講義が終わり、この日もテスト勉強をしなければならなかったが、私は少し気晴らしがしたかった。そこで正門の前にある以前モクと会った書店に久しぶりに行くことにした(本屋にはよく行くが、そこは在庫が少なく、ほとんど行かなかった)。
入口の扉を開けると、偶然にもモクが立っていた(後ろ姿であったが、リュックを見てすぐに彼だとわかった)。下はいつものようにジーンズを履いていたが、上はさすがに冬なのでジャンパーを羽織っている。モクはレジで会計をしていたので、商品を受け取った頃合いを見て、私は彼の名前を呼んだ。彼は首だけをちらりと後ろに回して、私の姿を確認すると身体ごとこちらに向けた。
お互いの近況について少し言葉を交わした後、私は“何の本を買ったんだい”と尋ねてみた。彼はMという作家のKというタイトルを挙げた。私はその本をすでに読んでいたので、話しの核心を避けつつもその本が持つ魅力を語った。彼の一歩先をゆけたことに少々得意げになっていた(無数に本はあるのだから、私が読んで彼が読んでいない本なんていくらでもあるのに。ましてその逆なんてさらに多いだろう)。だが彼は、私のそのような態度を気にしておらず(いや、そういった振りをしていたのかもしれないが)“それは読むのが楽しみだ”と私に合わせてくれた。その言葉を聞き、私はようやく自分の出しゃばったまねに気付き頭が冷えた。そして、彼に既視感について聞きたかったことを思い出し、モクに“今から時間はあるか”と尋ねた。帰ってテスト勉強をしなければという考えが一瞬(ほんの一瞬)だけ流れたが、目の前にいる彼と次にいつ出会うかわからないし、根を詰め過ぎるのもよくないといったように、様々な理由をこじつけて自分を納得させた。
彼は“大丈夫だ”と言って私の誘いに乗った。モクも当然期末テストがあるはずだが、これと言って勉強しなくても、彼は単位を落とさないように見えた(あくまでもこれは私が勝手に持った偏見だが)。私達は本屋を出て、隣にあるあの喫茶店へと向かうことにした。