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第三幕 額の傷 其の一

一方、お花は再び蔵に戻されていた。

今度は只戻されたのではなく、縄でしっかりと縛られている。


蔵には同じように縛られ、柱にくくりつけられているお穐がいた。

お穐は、お花の額を見てサアッと顔色を変える。


「お花どうしたのよ、その傷!大丈夫なの!?」

お穐はお花の傷に思わず涙ぐんだ。


お花はお穐の無事な様子を見て人知れずホッとする。

「こんなの平気さ。あんたも大丈夫そうだね、よかった」


「お前ら、ちっとは静かにしやがれ!」

お花を連れてきた大男はお花達を怒鳴り散らした。


「ったく、冗談じゃねえ。俺がこんな餓鬼のお守りなんてよ。剣斬丸め、事がすんだらただじゃおかねえからな」

お穐と同じように柱にお花をくくりつけながら男はぶつぶつと文句をいった。


「?」

お花はいぶかしんだ。


この盗賊団の頭は剣斬丸だ。それは間違いないだろう。

しかしこの男の言い振りは、手下というよりは対等な立場のようだ。


それに事が済んだらとはどういう意味だろう。

単純にお花たちが売りとばされた後という意味だろうか。


「あんた、剣斬丸の手下なのかい?」

お花は尋ねた。


男はあからさまに嫌な顔をしてお花を睨んだ。

「ちげえよ。俺は火事場泥棒と空き巣が仕事の鬼目一派だ。あんなえげつねえ奴らと一緒にすんじゃねえ。今は鬼目親分が捕まっちまって仕方がなく手え組んでるけどよ、あいつら、いつかぶっ殺してやる」


ベッ、と唾を吐き、ついでにお花の頭を小突いた。

「おまえら、金輪際逃げようなんてするんじゃねえよ。俺達はともかく、剣斬丸は餓鬼殺すも蚊を殺すも一緒だ。次に逃げたら命はねえ」


お花もお穐も青ざめながらうなずいた。


「でもまあ、こうしておけば今度は簡単には逃げられないだろう」

括りつけ終えて、男は満足そうに腕を組みながらお花達を見下ろした。


そのとき別の男が蔵へ入ってきた。

「おい、作戦が変わったぞ。そっちのとろいほうの餓鬼はどうやら大店の娘らしい。身代金をゆすりとるって算段を今、剣斬丸たちが考えている」


「へえ、みかけにゃあよらないもんだなあ。こんな餓鬼が金持ちの娘とはな。まあいい、外でゆっくり話を聞こうじゃないか」

そういって男達は蔵の扉を開け、外へでていった。



蔵の隅で、小さく縮こまった二人はなすすべもなく下を向いている。


それまで目に涙をためて怯えていたお穐が、足元に石を見つけた。


お穐は、ふっと希望を見つけたように目を輝かせた。

お花のほうを向いて小声で耳打ちをする。


「お花、見てよ。火打石だわ。きっと、お店の人が忘れて残していったのよ」


お花も言われてお穐の足元を見た。

くすんで泥だらけだが、確かに火打ち石だ。


お穐はそうっと足を伸ばし、火打石を自分に寄せた。


「火打石なんてどうすんのさ」

お花の胸に不安がよぎった。


しかしそんなお花の思いに全く気付いていないお穐は、縛られている腕をうんと伸ばして石を拾おうとしている。

「そんなの決まってるじゃない。火をつけるのよ。煙が見えたら、町の人たちが集まってくるわ。そしたら賊も逃げる、私達も見つかる。もうこれしか方法がないじゃない」


「そ、そんなことしたら私達だって死んじまうよ!」

お花は声を上げた。


「しいっ!声が大きいって。火がおこれば、その火が小さなうちに縄を焼ききればいいじゃない。それで、火事だあ!って叫んで、おまけに煙が上がっているのを見たら、賊だって慌てるでしょ。その隙を見て逃げるのよ」


お穐はそういいながら伸ばしきった指と指で火打石を一つ拾い上げた。


「やった!」


お穐はそういってお花の手に火打石をのせた。

「あたしにもたせてどうしようってのさ」


お穐は構わずに、さらにもう一つの火打石を拾い上げようと腕を伸ばす。

「こんなに縛られてる状態じゃ一人じゃ打てないわよ。あんた持っとくだけでいいから、あたしに手を貸しなさい」


「やだよ、そんなに簡単に行くもんかい。火口もないのによ」

お花がごねている間にお穐はもう一つ火打石を拾い上げた。


「じゃあ、他に名案があるっていうの?それこそ教えて欲しいものよね。火口なんて燃え残ったものがそこらへんにいっぱいあるじゃないの。大丈夫、私こう見えても竈仕事は得意な方なのよ。燃えさし一つあれば火くらい簡単につけられるわよ。さ、わかったら言うとおりにして」

得意げにお穐はいった。


お花はなおも不安に思いながらも、お穐に石を掴んだ手を差し出した。

お穐は小さな木の燃えさしを拾いあげ、お花の手の辺りを確認すると、片手に石と燃えさしを持った。


「いい?いくわよ」


カチッ、カチッ、カチッ、と石をあわせる音がして、程なく燃えさしに赤い小さな火の粉がついた。


「やった!」

お穐は笑みを浮かべ、燃えさしを軽く振って火勢を上げた。


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