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      岡っ引き銀吉の受難 其の二

「お、可愛い娘がいるな」

第一声は、随分軽い男のものであった。


「お花ちゃん。あんたの無実を証明する人を連れてきたよ」

次の声は小柄な丸い男からである。


「や、清島の旦那、大堀の旦那。どうしたんでえ。こんな朝早くから」

面食らったように昇吾は男達を見た。


そして、その後に控えていた小柄な老人を見てアッと声を上げた。


「ぎ、銀さん・・・」


銀吉は昇吾の顔を見て笑みを浮かべる。

「昇吾よ、おめえ、とんだ人ちげえだよ。そのお花は付け火なんてしねえ」


ぽんぽん、と古い十手で肩をかるく叩きながらにやけている老人を見て、今度は一真が声をかけた。


「元気そうだな、銀さん。それにしても何でこのお花が犯人じゃないとわかるのか?」


「そりゃあ、おめえ・・・」

銀吉が今にも噴出しそうなくらい笑いを堪えながら口を開けた瞬間、下駄が銀吉の頭に命中した。


「銀じいっ!!」

下駄を飛ばしたままの姿勢で、お花は真っ赤になりながら銀吉を睨んでいた。


「いいじゃねえか。言わなきゃおめえ、火炙りだぞ」

銀吉は頭をさすりながらお花を見た。


「火炙りの方がまだましだ!言ったら一生恨むぞ!」

下唇を突き出して、銀吉を睨みつけたままどっかりと座り込んだ。


「おまえっ!銀さんに向かってなんてことしやがるんだ。ほんとに女らしさのかけらもねえ」

そういって昇吾がお花の頭をこづいた。


「旦那、この餓鬼は火炙りがいいって言ってるんだ。さっさと小伝馬でも小塚原にでも連れってってくれよ」

昇吾がつながれている縄を握った瞬間、お花は昇吾の腕に噛み付いた。


「いでっ!この餓鬼っ!」

昇吾も拳を振り下ろし、二人はもつれあったまま殴り、噛み付く。


「あちゃあ、こりゃあどうしたものかね」

頭をかきながら兵庫が言った。


「そのうちおさまるさ」

冷静に一真が突き放したが安次郎が首を捻る。


「どうだか。あの昇吾はめ組の纏い持ちだが、俺たちと同い年のまだまだひよっこだからな」


そのとき銀吉がのっそりと近づき、二人の頭に十手をガンッ、ガンッ、と振りおろした。


そして、二人の間に割ってはいるとまず昇吾の胸倉を掴みあげた。


「いい加減にしねえか、昇吾。纏い持ちがこんな餓鬼相手に本気になるんじゃねえ」

銀吉は凄みを持たせた言い方で昇吾を威嚇した。


銀吉はくるりとふりかえり、今度はお花の髪をぐいっと掴んで上を向かせた。


「てめえもてめえだ。意地ばっかり張りやがって。ちったあ、しおらしくしやがれ」

そういって頭を小突いた。


シュンとなった二人の前に立ち、銀吉は話し始めた。


「昇吾。そしてそこにいる旦那衆も聞いとくれ。このお花は、俺の昔馴染みのいる長屋に住んでるんだがなあ、連中よおくこぼしてるんだ。このお花って餓鬼は・・・」


「ぎ、銀じいっ!」


お花は、ばたばたと体を動かしながら抗議したが、銀吉は構わずに言う。


「火打石がつかえねえ。女らしくもなくっておまけに十三歳にもなって火打ちが使えねえんじゃ嫁の貰い手がねえって、こいつの親が嘆いてるそうだよ」


「にゃろおっ!!」


お花が甲高い罵声をあげたのと銀吉の顔が引きつるのはほぼ一緒であった。

縛られているお花の唯一自由である足は、銀吉の股間をめがけて蹴り上げられた。


思いっきり蹴り上げられた銀吉は、白目をむいて擦り切れた畳の上に倒れこんだ。


「なるほど火打ちが使えないとなると、今回の付け火犯ではないな。今度の付け火は現場から油瓶と火打石が見つかっている。お花じゃないとすると別の人間が、何かの目的のために・・・」


「冷静に分析してる場合かよっ!銀さんだいじょうぶか!?」

慌てて安次郎と兵庫が銀吉の頬をぺちぺちと叩き無事を確かめる。


お花は下唇を突き出してそっぽを向いていた。



「大丈夫?一人で帰れるか?」

番屋の前で安次郎はお花のくちゃくちゃになった髷をなでつけてやりながら優しく声をかけた。


「ったく、旦那はよくやるなあ。こんな餓鬼にまで色目をつかうもんですかねえ。俺にはまねできねえな」

苦笑まじりに昇吾が言った。


「餓鬼ったって、数年すればものすごい美人になるぞ。火打ち石なんか使えなくったって、お花ちゃんは大丈夫だ。とても可愛いからな。俺がお嫁にもらってやってもいいくらいだぜ」

お花は耳を少し赤らめながらふん、とそっぽを向いた。


「おい、昇吾。お花を家まで送ってやれ」

一真が昇吾に声をかけると昇吾は露骨に嫌な顔をした。


「冗談じゃねえですよ。こんな女らしくない餓鬼、つれて歩いてたらお天道様から笑われらあ」


しかし、一真は無表情に言った。

「お前が間違えて連れてきたんだ。それくらいはしてやれ」


そして昇吾の肩を自分に引き寄せ小声で話した。

「それに、付け火の犯人は別にいるんだ。お花は付け火犯を見ていないようだが、相手はそうは思わないかもしれない。念の為、だ」


昇吾の表情に少し険しいものが走った。

無言でうなずくと、お花の頭を軽く小突いて「帰るぞ」と声をかけた。


出てゆく二人の後姿を見送りながら、一真は感嘆のため息を少しばかり吐いて、ぽつりと呟いた。


「あのお花という娘、結局一度も泣く事はなかったな。たいした気の強さだ」


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