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      半纏の中の鯉 其の二

一真は鯉口を切ってニ、三歩進んだ。


剣斬丸も片腕で大刀を握り締め、数歩前に出る。

同時に剣斬丸は大刀を高々と持ち上げた。


それを合図に、半焼だった母屋のあちらこちらから火の手が上がる。


「ただ、斬り合ったっておもしろくねえ。早く決着がつかねえと江戸は火の海って寸法さ。

油屋に盗みに入って、油だけはタンと手に入ったんだ。この風と、燃え残った木材、それに、この囲われた空間だ。取り返しのつかねえほどの火柱を上げるぞ」

ゲッゲッとまた笑うと、大刀をぶんぶんと振り回した。


一真は後ろを振り返って叫んだ。


「昇吾っ!早くお花達を探せ!この風じゃあ、他の火消しを待っている間に火の海だ」


「で、でも旦那は!?」


「俺は大丈夫だ、こいつを捕らえてから追いつく。早く行け!」


一真はそういうと、一つ息を吐いて目の前の敵に向かい合った。

青白い炎のような殺気が一真の体から放たれているのがわかる。


「行くぞ。こうなったら一真はてこでも動かないからな。兵庫は外に知らせて来い。俺達はお花ちゃん達を探す」

安次郎達は一斉に駆け出した。


剣斬丸はそれを止めようとするわけでもなく、ただ薄笑いで眺めている。

やがて一真と二人きりになると、顔を歪めて笑った。


「この広い庭を目標もなくあちこち探してまわって、餓鬼どもにたどり着いた頃には火の海よ。それにこれだけの火勢だ。今更町に火事を知らせても、もう遅い。火消しが着いて、火を消し始める頃には、黒こげの墨になっちまってるよ。それより早くおっぱじめようぜ。俺たちまで墨になっちまうぜ」


剣斬丸が刀を振り上げ、乱暴に構える。


一真は刀を中段に構えた。

その途端に、剣斬丸は一真の懐に飛び込んできた。


片腕がないとは思えないほどの素早さである。


一真は素早く交わすと、自分も剣斬丸に向かって切り込んだ。

紙一重で剣斬丸も一真の刀をかわす。


かわすと同時に剣斬丸が下から切り上げてくる。

一真もまた紙一重で剣斬丸の攻撃を避ける。


そうしてニ、三合渡り合った後、二人はまたにらみ合い、間を伺っていた。


そのとき、剣斬丸の手下が剣斬丸に合図を送る。


それを見ると剣斬丸は、後に下がって間合いをはずして刀を収めた。


「どうした。まだ勝負はついていないぞ」

一真は構えを崩さずに言った。


にやりと剣斬丸は顔を歪め、げっげっ、と笑った。

「げっげっげっ。やっぱりお前と渡り合うのは楽しいな。もっと遊んでいたいが時間切れだ。そろそろ火事に人が集まってくるだろうよ。火事の混乱に乗じてさっさと逃げるって計画がぶち壊しだ。この火が大きくなりゃ、仲間達のいる小伝馬の牢も開けられる。嫌々組んでいた別の賊達ともおさらばさ。俺の一味がまた大きくなった頃、また会おうぜ」


剣斬丸がくるりと後を向いた。


「まてっ!」

慌てて一真が追おうとしたが、燃えた柱が一真の目の前に倒れ、行く手を阻んだ。


気がつくと既に母屋は大きな赤い炎を上げ、空を焦がしていた。

「まずいな、本当に大火事になるかもしれない」


一真は母屋を離れ、お花を探し始めた。


母屋からの煙は、庭に充満しており視界を遮る。

目を凝らすと、母屋以外にも赤い火が見えている箇所があるようだった。


「全部燃やすつもりなんだな。ご丁寧に、瓦礫にまで火をかけてやがる」

一真は、悪態をつくように呟いた。


「お、一真。剣斬丸は?」

その時、見知った声がした。


「安次郎か。剣斬丸は逃げたよ。それより昇吾はどこだ?はぐれたのか」


「二手に分かれて探してる。何せ火の回りが早い。一度燃えたものも、また真っ赤に燃え上がってるぜ」


カン、カンと早鐘の音が鳴り響く。

知らせに走っていた兵庫がようやく自身番小屋へついたのだ。


ふと、一真は地面に血のあとを見つけた。


「おい、これ・・・お花ちゃんたちのものじゃあないだろうな」

安次郎もそれに気付くとさあっと青ざめた。


「わからん。とにかくたどってみよう」


血のあとは、てん、てんと続いている。


感覚が長いことから重傷ではないようだが、それは側の厠へ続いているようだった。


「まさか、厠の中ってことはないだろうが・・・」

一真は焦げた戸をあけた。


とたん、信じられないものを目にする。

一真は一瞬息を呑んだが、すぐに厠から出てきて叫んだ。


「安次郎、蔵だ。お花たちは蔵の中にいる!」


そして、空に向かって、叫んだ。


「昇吾!聞こえるか!?お花は蔵だ。蔵に閉じ込められているぞ!!」


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