二年生? あれ? 一年生?
先輩:
やぁやぁ、ただいまさね。
こんばんは~。
ハリネズミ:
こんばんは。
sloth:
おかえり~!
ハリネズミ:
さて、全員揃った事だし……。
僕の話を聞いて欲しいんだ。
sloth。今日は何月何日だい?
sloth:
は?
なんだ?
俺がカレンダーの読み方を間違っている、なんて話でもする気か?
三月二十九日だろ?
ハリネズミ:
そう。
今日は、三月二十九日なんだ。
この時期になると、僕は考えてしまう。
怖いよね。
sloth:
なんでだよ?
ハリネズミ:
わからないのかい?
良く考えてみるんだ。
sloth:
またかよ。
もったいぶらずに、さっさと話せ!
ハリネズミ:
いいかい?
これは、一九九四年にウソ・ツッキー博士が発表した論文の話だよ。
この論文は、物理法則や時間軸を無視した現象、つまりは奇跡と呼ばれる現象の考察から始まるんだ。
何故、そのような現象が起こりえるのか? とね。
そして、シンクロシニティ、つまりは『偶然の一致』の考察に続くんだ。
そんなにも、偶然が起こるのは何故か? とね。
最後に、複数の作者、あるいは単数の作者、などの可能性を示し、こう結論付けているんだ。
我々の住む世界は、誰かに作られた世界ではないのだろうか? とね。
これで、僕が恐怖している理由がわかっただろう?
sloth:
わかんね~よ!
俺にわかったのは『俺たちって、誰かの創作物語?』って事だけだ。
ハリネズミ:
それで良いよ。
君にもわかるように、更に説明しようか。
僕たちは高校生だ。
そして、学生の創作物語は、大きく二つに分類される。
一つは非現実的な設定が濃い作品。もう一つは、現実にもありそうな設定の作品。
更に、別の見方でも、二つに分けられるんだ。
一つは、日曜夕方のアニメのような、ある期間内をループする話だ。
僕たちに言い換えると、永遠の高校一年生だね。
もう一つは、スポーツマンガに多いかな。
現実世界と連動するかは別として、物語の中でも時間が進むタイプだよ。
あぁ、恐ろしい。
sloth:
だから、もったいぶるな。
お前は、いつもいつも前置きが長い!
何が言いたいんだよ。
ハリネズミ:
まだ、わからないのかい?
僕たちは、高校二年生になれるのだろうか?
気付かないうちに、『入学式を楽しみにする新入生』になってしまうのではないか?
と思うと怖く無いかい?
そう考えると、毎日行っている『寝る』なんて行為が、恐ろしく思ってしまう。
いや、寝る必要すらないのかもしれない。
ある瞬間に、僕の記憶と認識が、書き換えられるのかもしれない。
ね? 年度の切り替えである、この時期は、特に怪しいと思うんだ。
sloth:
お前は、本当に面倒臭い奴だな。
そんな事ばかり考えているから、『萌え』が理解できないんだ。
もっと、気楽に構えないと、人生楽しく無いぞ!
それよりさ、『お茶碗』って不思議じゃない?
ご飯を食べる目的で使われる食器なのに、なんで『お茶』って言葉が使われるんだろうな?
ハリネズミ:
また、君は直ぐに脱線する。
いいかい?
良く考えてみるんだ。
卒業アルバムを見ないで、小学生のクラスメイトを全員思い出せるかい?
あるいは、去年の……。そうだな、十月二十五日に、自分が何をしていたかを、直ぐには思い出せないだろう?
僕が『卒業アルバムを見る』と言う行動を起こした時点で、僕の過去が作られているのかもしれない。
僕が過去を思い出そうとする事で、初めて、僕の過去が作られているかもしれない。
そもそもだ。
僕が、『高校一年生をループする』なんて考えて、君に説明する行為自体が、作者の思惑なのかもしれない。
読者、視聴者、プレイヤー……。
どういった形式かはわからないけど、とにかく観察者に対し、物語の説明をしている可能性がある。
『僕たちの物語は、ずっと高校一年生だよ』ってね。
そう思うと、ウソ・ツッキー博士の論文は、間違っていないと思うんだ。
更に、ループするだけならいい。
僕自身が、その現象を体感できないのなら、大した恐怖は無いさ。
でも、何かの手違いで、僕だけループしている事に気が付いてしまったら?
その恐怖は、計り知れないと思わないかい?
sloth:
そうだな。
それよりさ、『湯のみ』には『お茶』って言葉を使わないのが、もっと不思議だ。
先輩:
やぁ、ただいま~。
何の話をしているんだい?
ハリネズミ:
おかえりなさい。
sloth:
え?
先輩、さっき挨拶しなかったけ?
今、ハリネズミの『この世界は創作物語説かもね』って講義が終わった所だよ。
先輩:
sloth君は、変な子だね~。
私は、今帰ってきたとこさね。
ハリネズミ:
全くだ。
君は寝ぼけているんじゃないのか?
君が「ゲームする」と言ったから、僕たちは何も会話していなかったじゃないか?
sloth:
はぁ?
ログをたどってみろよ。
お前の長ったらしい講釈で、一杯だから。
ハリネズミ:
だから、何も会話していなかったよ。
君は、可笑しい人だね。
先輩:
まぁまぁ、喧嘩はおよしさ。
それより、もう直ぐ、二人は入学式だね~。
高校の制服は、買ったかい?
ハリネズミ:
えぇ。
買いましたよ!
sloth:
いや、俺たちはもう直ぐ二年生になるはずだって……。入学式は去年やったはず……。
ちょっと、まって。
席はずす。
ハリネズミ:
いってらっしゃい。
先輩:
了解さね!
sloth:
ただいま。
親に聞いてきても、入学式がなんちゃらって……。
ドッキリだよな?
俺を騙そうとしているんだろ?
そう言ってくれよ!
ハリネズミ:
さっきから、君は何の話をしているんだい?
先輩:
sloth君。
落ち着きなよ。
人の記憶って言うのは曖昧さね。
夢と現実の区別を、混合してしまう時ってあるんだね~。
きっと君は、ゲームをしながら、ウトウトと居眠りしてしたのかも知れないよ?
sloth:
夢……。
そういうことか!
夢落ちかよ!
それじゃ、俺は起きるために寝るわ。
バイバイ。夢の中の住人たち。
ハリネズミ:
良くわからないけど、君は疲れているのかもしれない。
そういう時は、寝るのが良いよ。
おやすみなさい。
先輩:
お大事に。
おやすみさね!
sloth:
止めろよ。
リアルに挨拶返すなよ。
夢の中の住人な癖に。
おやすみなさい……。
slothさんがログアウトしました。
先輩:
いや~。ビックリするほど成功したね~。
ハリネズミ:
はい。ドッキリの協力ありがとうございました。
こうしないと……。
『五月蝿いな。バカだな。面倒臭い奴だな。それよりさ、スーパーマーケットを略してスーパーって変じゃない? マーケットの方が意味として大事なのに』
なんて脱線する、slothの態度は見えていましたからね。
しかし、まだ問題提示しかしてなかったのに……。
僕の話は終わったと言い出すなんて、slothは腹立たしい奴です。
先輩:
まぁまぁ、続きは私が聞くさね!
それにしても、良く騙されてくれたね~。
ハリネズミ:
slothの交友関係は狭いですからね。
両親、友達、その他。
口裏合わせは完璧です。
先輩:
でも、新聞とかテレビを見られたらアウトさね。
ハリネズミ:
それも大丈夫です。
あいつは、新聞なんか見ない男ですから。テレビだってアニメばかり見る男ですよ。
この時間は、slothの興味ありそうなアニメも終わっていますしね。
何より、アイツは臆病な男ですからね。冷静でいられる訳がありません。
先輩:
ハリちゃんは意地悪だね~。
ハリネズミ:
先輩もですよ。
随分とノリノリでしたね。
先輩:
sloth君は、可愛い反応するからね!