大佛殿
礎石が在り、柱が立ち、梁が架かり、屋根が覆い、壁が囲む。
何が人の心に役立つか。何を以て人の心を救えるというのか。
牖が開き、柵が廻り、天蓋が垂れ、壇を積み、戸を設える。
何が悪徳に勝てるというのか。何を以て善の化身であると言うのか。
天王が睨みを利かせ、天女が舞い、観音が立ち、仏画幕幕、佛が座る。
何が経典か。何を以て誨えであるというのか。
鐘が響き、太鼓が拍たれ、数珠が擦られ、僧が唱え、信徒が倣う。
何が真摯か。何を以て己らが敬虔であるというのか。
欺瞞欺瞞、傲奢傲奢
欺瞞欺瞞、蒙昧蒙昧
だから我は嫌いなのだ。大佛殿という虚飾の権化が嫌いなのだ。
佛法者唯戒律矣。往々而不具象。
佛法者唯虚心矣。往々而不具現。
我は火を点けねばなるまい。空虚を葬るのだ。
私は火を点けねばなるまい。色妄を滅するのだ。
燃、二三日。
大佛殿は灰燼と為した。これで我は正しかったのだ。
正しかったのだ。何故にまた建てる。
何故にまた、礎石を埋め、柱を差し、梁を渡し、屋根を葺き、壁を塗り、牖を組み、柵を連ね、天蓋を懸け、壇を組み、戸を嵌め、天王二丈天女百数観音二基仏画十六篇如来一衝鐘打鼓数珠百八念仏念仏。
何をして彼の者らは目覚めぬのか。
老いて目が見えなくなっても、いつかは完膚無きまでに燃やしてやらん。
我の使命である。佛法は執着を嫌うのだ。
佛法の嫌う所は盡くを夷らげるのが我が役目である。そうで無ければ正しくなぞ居られはしない。
討つべし討つべし。
妄執を討つべし。




