9.『 鎖刃のサギリ 』
小枝を踏み、斜面を上がって行くと細い路面に出た。
一つだけのベンチに、街灯の灯りだけが照らす、寂しい空間。
黒園は、辺りを見渡すが何も異様な感覚は感じさせない。
道なりに、路面を歩いて進んでいく中で、ポケットの中にある宝石の一つを握りしめる。
「こんな所でスフィアにでも会ったら最悪なんだけど………………」
注意深く周囲を見て歩くも、風も吹かない丘まで続く道。
展望台まで行ってみる気持ちで歩いている時だった。
雪の降る音が、聞こえてくる。
鈴の音にも聞こえるような、音が増えて行く。
黒園は、振り返るも何も無い。
ただ暗く、奥まで続く道のみ。
「何よ、、、虫の音かしら?」
ホッと息を着いて、前を向いた。
その時だった。
眼前に、目が窪んだ左右じんわりと滲んだ青黒い瞳に、ニタリと笑う全身白い浮遊した中性の顔。
「ひッ!!??」
思わず、絶句して驚きさがる。
そこで気が付いた。
「ぅそ、、、、、これも魔術!?囲まれてるんだけど!!??」
気付いた時には、複数の白く浮遊したソレが黒園を囲んでいたのだ。
時計回りに動いて囲み続ける。
「さっきの音、、、コイツ等なのね、、、、、、でも、魔力は感じるけど、、、、、魔術の類?」
不可思議で見た事も無いソレに、手を伸ばし構える。
「キラキラ………………サラサラ……………………」
「シンシン……………………リンリン……………………」
「フフフフ……………………ハハハハ……………………」
「「「「「「「 ハハハハハハ…………………… 」」」」」」」
四方八方からの声に、黒園は標準を定めながら見渡す。
「何なのよ!!『豪傑な大地すらも、更地となり犠牲と成せ』――――!!『代価の風発』ッッ!!!!!」
黒園は、宝石の一つを投げかける。
そこへ、炎弾を投げ入れるのだった。
炎が接触したと同時に、弾けるような小さな音と共に風を起こす爆発が起きた。
風圧に追いやられるも、先に後方へと逃げていた黒園は走って展望台まで向かう。
白く漂うソレが、窪んだ青黒い瞳が一気に大きくなる。
合図のように、他の同じソレが黒園を追いかける。
手も足も無い状態で笑顔だけは変わらず、それだけが不気味だ。
「ハハハハハ――――――――!!!」
「何よ!浮いてるって事は、ゴースト?なら、エレメンタル体で仮定すれば……………………」
ポケットから、取り出した宝石は宙を舞う。
振り返って立ち止まった黒園は、宙に舞った宝石を右手で横に手で掴み取る。
(今握った中には、魔力を収められる限界以上に溜めさせてやったわ。つまり、もう少しで耐えられなくなった器は……………………)
「幽霊だからって、魔術が効かないとは限らないものね!さっきのは、練習こっちが本番よ!!!!」
目の前に迫って来る先頭の腹部に、野球投手の様に投げ入れる。
宝石は見事に、表面を貫通させた。
(物質は透過させても、爆ぜて外に漏れた魔力はどうかしらね?)
笑みを浮かべる黒園。
目の前では、限界を達した宝石が粉砕して先頭の内部で砕け魔力と共に爆ぜた。
内側からバラバラになった、ソレは破片が仲間たちにめり込んで煙が払われるように穴などを見せる。それに、凹凸のように形が歪だ。
それでも、ちょっとずつ黒園の方に進んでくる。
「嘘でしょ!!??」
その状況に心の声が漏れる。
後ろに下がるが、ソレは途中で蒸発したように姿を消していく。
最後は、先頭にいたソレの頭部の片割れの目が細めて不気味に笑うかのような表情を見せると煙の様に蒸発して消えるのだった。
力が抜けたように腰が引けて、膝からガックリと落ちる黒園。
焦り意気切れる呼吸を整えて、安堵の溜息をする。
「な、なんとか………………なったわね……………………ちょっと、、、休憩、、、、、、、、って!あの正体が分からないけど、襲って来たって事は―――――――ッ!!!!」
そこで、今自分が置かれている状況に重ねて、一緒に行動している桐野を思い出す。
落ち着いていた心が、一気に飛び跳ねて焦り立ち上がるのだった。
ミシミシと音を立てて木が後方に折れて倒れる。
振動と共に、煙が視界を遮ったかと思えば右足を持ち上げて蹴り上げた。張っていた鎖が緩んで力が抜けるのを感じた直後、桐野は頭突きをする。
サギリの額に痛みが走り、後ろに上反りそうになる。
そこで、桐野の拳がサギリの頬を捉えた。が、サギリの方が早く反応していたのか、短刀を左手に持ち替えて、上に伸ばした。
伸びた反動で、堅く垂直に張った鎖が拳を止めたのだ。
「届かないか――――――ッ!」
「中々ですね。けど、次はありません」
「次が無いなんて、、、、、誰が決めるんだぁ―――――――っよ!!!!!」
意識が拳に向いていると、桐野がサギリの身体を抑えて前に押し倒す。
転がった二人の身体は、途中でサギリの足蹴りで互いが距離を取るように離れる。
「く――――――ッ」
転がった身体を勢いで立ち直す桐野。
目の前に、飛び込んできたサギリと振るう短刀。
腕を防ぐように前に構えると、刃が接触した。
威力が増していたのか、サギリが全身で振るった刃が下へと押し込むと、防いだ桐野の足元の地盤が凹んだ。
「刃が通らない?」
「俺の魔術は強化系らしいぞ?」
サギリはハテナ顔だ。
何が、疑問に思ったのかサギリは力を緩めて後方に跳ねて、短刀を持ち直す。
「強化とは、肉体を常人の倍にさせる。極端に言えば、そういった効果を持ちます」
そこで、サギリは独り言の様に呟く。
桐野は構えるも、声に耳を向けて姿勢を低くさせる。
「しかし、私程の刃を、あぁも容易く防いで刃を通さないとなれば――――――それは、本当に強化の魔術なのでしょうか?」
「どういう意味だよ、、、それ」
「いえ。私はただ、本当に貴方の魔術が強化系なのか疑問を提唱しているだけにすぎません。戦っていて、貴方の口から直接聞いて、私の知っている強化の魔術の概念が覆ったように思えます」
「つまり、俺の魔術はもっと別の何かってことか?」
「確証に至りません、、、、が、どうなんでしょうね」
「俺だって、、知らねぇよ!!!!」
桐野は、力一杯に握った拳を振りかざし走る。
その行動にサギリは、すかさず短刀を投げるが、途中で桐野は地面に殴りつける。
「何を――――――」
疑問を持ったサギリが声を出した途端に、地面が桐野の殴った部位から直線にサギリの方へと日々が入って行き盛り上がる。
表面が盛り上がり吹き飛ぶように、地盤が膨張したのだ。
風圧に鎖が空中で曲がり、短刀の刃先も桐野の方向から逸れる。
サギリはバランスを取る為に、離れた木へと乗り移ろうとした。
その時だ―――――
「俺は、前の戦いでなんとなく四肢の使い方を知った。そして、今回の戦いで、俺が動ける範囲を知れたよ……………………ッ!!」
「何で、、、、其処に、、、、、、ッ!!??」
動揺するサギリ。
その顔が、初めて見た驚く顔だったため桐野は、嬉しくなってほんの僅かに笑みを浮かべる。
「ただ、飛んできただけだよッ」
「常人離れした以上に貴方は――――――ッ!!!」
サギリの瞳に移る桐野の腕。
それは、神経を辿った魔術回路だった。
白く眩しく輝きながらも、薄っすらと蒸気を発するその腕。
謎の異彩を放ちながら、魔力を纏っているように見えた。
「歯ぁ、食いしばれ!!!!」
桐野は全力殴り飛ばした。
サギリは、すぐさま手元に戻った短刀を上に上げようとした。
しかし、間に合わない。
防ぎきれずに直撃したサギリは、今まで以上に吹き飛び次々と木々を倒しながら体ごと霊園の白い柵にぶつかる。
思い切り凹み、ひしゃげた鉄の音が響いた。
と、同時にサギリの小さく淡白な悲痛な声が漏れる。
「くぁ―――――ッ!!!!!」