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6.『 主の先手 』


ぼやける視界の中で、黒園は見た。

目の前で立つ、桐野の姿を。

息苦しさが続く中、口元の血を拭いながら壁に寄りかかる時、桐野が横に回って、体を支えてくれた。


「桐野君……………………その体は何よ?」

「分からないけど。足以外にも腕に線が伸びたんだ。そしたら、ルーマってやつの腕を落すくらいには……………………」


その言葉を聞いて黒園は、一度目を見開き驚きで呼吸すらも忘れるところだった。

その後に、何故だか笑えてきて微笑する。


「まったく……………………魔術神経の蓋が開いたのは良いけど。まさか、土壇場でなんてね」

「黒園。もう休んでてくれ、後は俺がやる」

「ありがたいけど。貴方だけじゃ心配なのよ、、、もう少し休んでからね。だから、それまでお願いよ」

「まかされた」


すると、黒園は目を瞑る。

彼女の容態を確認し終えると、桐野は立ち上がり前に出る。

制服のブレザーを脱ぎ捨ててワイシャツの袖をまくると、拳の指の骨を鳴らす。


「こっちの準備は大丈夫だ」

「準備だなんて、戦力外が少し動けるようになっただけで、良く息巻けるわね」


スフィアの不敵な笑みは変わらない。

右腕を失ったルーマも、前に一歩出ると背後からスフィアの元で光り輝いた瞬間に失ったハズの腕が細い糸で巻かれて具現化されるのだった。


「なんだそれ?その男の魔術か?」

「何言ってるのよ。ルーマは魔術なんか使えないわ」

「何?」

「ただ私の、下部で従者なだけなんだから!」


手を前に出して合図をされた時、ルーマは動き出す。


(こっちだと黒園が巻き込まれるな……………………)


桐野は、横に走って広がった場所へと移る。

そこへ、ルーマが一気に姿勢を低くして加速し出す。

それに合わせて、振るう長い腕も横から薙ぎ払われるのだった。攻撃に反応して、咄嗟に出た腕の表面が爪が掠って防ぎきる。

しかし、威力はルーマの方が上なのだろう。

勢いに、体が後方へと下がりながら勢いに倒れそうになる。そこを突いてか、ルーマの腕は止まらない。


ようやく振りかぶった動作で隙が生まれる。

右から左腕で殴り掛かられる中、桐野は下から上に殴り返して腕を跳ね返す。


「らぁ!!!」

「――――――ッ!!!」


殴り返した腕は止まると、そのまま真下に振り下ろす。

横に移動してかわしきる桐野だが、次に一歩下がった足と同時に、ルーマの右腕が後頭部目掛けて殴りつけてくる。


「ッ!?」


しゃがみ込む桐野だが、目の前で振り下ろした左腕が顔面目掛けて伸び切るのだ。

手で受け止めるが、顔面に当たりフェンスまで吹き飛ぶ。


「かわすだけじゃ、私のルーマは倒されないわ!!」


嬉しそうなスフィアの声に、ルーマが吹き飛んだ桐野に向かって突進する。

伸びた両腕がフェンスを突き破る。


「ここだッ!!!」


左下に潜り込んだ桐野は、ルーマの腹部に向かって強く殴る。

しかし、怯む様子が無い為、左足で蹴りをくらわすが全くだ。


「な――――ッ!?」

「ゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!」


引っこ抜いた左手で桐野の足を掴み上げる。


「あっはは!!!!やっちゃってぇ!!!!!」

「其処までよ!」


声に、スフィアは笑みから真顔になり、振り向いた。

其処に立っていたのは黒園だった。


「そこの男!それ以上動くなら、アナタの主の頭を吹き飛ばすわよ!!」

「ぅぅぅぅぅ……………………」


黒園の言葉が効いたのか、ルーマの動きが止まる。


「なにしてるのよルーマ!早く、お兄ちゃんを殺しなさい!!」

「ぅぅぅ……………………」

「何してるのよルーマ!!」


指示をするも動きを見せないルーマに、苛立つスフィア。

その横で、黒園は鼻で笑うのだった。


「でしょうね。案の定、アンタが信頼している従者で戦闘力も申し分ないくらいだわ。けど、そのかわりに忠誠心がとてつもなく強いのよね」

「お姉ちゃん……………………本当に撃つの?」

「当たり前でしょ!ここで怯んでたら魔術師名乗れないわ!だからこそ、嫌な所をついて隙を作る。それくらいなら朝飯前なんだから」

「朝飯前なんだぁ……………………」


それでも余裕な表情を見せるスフィアに、黒園はムッとさせる。


「なによその言い方…………………良いわ!やったげる!『真なる(ことわり)よ、常世(とこよ)恵智(えいち)(もたら)せ、祝ふ……………………へぇぁ!?な、なんなのよぉ!!!!」


気の抜けた声に、足が引っ張られて横に転ばされるのだった。


「黒園ーーー!!!」


ルーマの腕から抜け出して桐野が、顔面を殴り飛ばすと、よろめいた足に向かって蹴り込む。

その隙を、走って黒園の居る場所まで走る。


「止まりなさい!」

「なッ!?」


スフィアの声に、足を止める。


「お兄ちゃんは聞きわけいいのね。嫌いじゃないわ」

「アンタ!これって、まさか、、、、、髪!?」


すると、自信満々にスフィアは長い髪を手で靡かせた。


「そう。私の魔術は髪に編み込まれた繊維一本一本をさすの。元々の詠唱も魔術神経回路に刻まれてる分、私のは詠唱なんてものは必要ないのよ」

「それって、、、アンタ自体が、、、、、、、ッ」

「さぁどうするの?何十にも重ねた魔術属性の髪の毛に向かって、お姉ちゃんの魔術が効くとは思えないけど。先に、穿つのは私の方かもよ?」

「人工生命体が……………………自我を持って参加してるなんてありえない!」


スフィアは、腹を抱えて笑い始める。

何が可笑しかったのか、黒園の言葉を聞くとすぐに笑いが込み上げて高笑いするのだった。


「ふッ、アッハハハハハハーーーー!!!魔術師は、有り得ない事を有り得るという事象に書き換えるものでしょ!?有り得ないなんて無いも同然なのよ!」


足を一歩前に踏み出して、笑いながらスフィアが足に絡みついた髪から隔てて黒園の真上に構える。

鋭く構えた髪を、下へと振り下ろす。


「感情高ぶって、回り見えてないんじゃないのかしら?」

「―――――え?」


黒園の声に、思わずスフィアは返した。

次の瞬間だ。

スフィアの足元が内部で発光して膨れ上がった。


「なに――――――?」

「私の魔術、アンタの髪には効かないらしいけど、属性を考えた方が良かったわね」

「どういうこ―――――――」


すると、スフィアの足元が吹き飛ぶ。

轟音と共に。


「大丈夫かよ黒園!」

「ナイスタイミング!良く分かったわね」

「いや、何か仕掛けてるとは思ったけど、、、、まさか、地面下の空気に引火させるなんて、この場一帯が吹き飛んでもおかしくなかったぞ!?」

「そうでもしないと倒せない相手ってことよ、、、、、、け~ど」


間一髪で桐野が走って、離れた場所まで抱えてくれていた。

桐野の腕から降りた黒園は、背筋を伸ばした後、爆発した電車下の場所をジッと見つめる。


「致命傷くらいは、つけれたでしょう」

「あぁ、あれだけすれば流石に――――」

「流石に驚いたわね」

「「―――――――――ッッ!!!!????」」


スフィアの声に、黒園と桐野は驚き見つめる。

爆炎から現した姿は、まさしくスフィアそのもので、傷一つ付いていなかったのだ。

それに、ルーマは体の半分以上が抉られて焦げている。

それでも、スフィアを守るように上から覆いかぶさって一緒に歩いてくる。


「あれでもダメなのか!?」

「嘘でしょ、、、、あれだけの爆発で傷一つ付いてないなんて、、、、、、」

「すっごく驚いたの。それに、見てよコレ。私の髪ったら、半分以上の加護を削っちゃったわ」


残念そうなスフィアの声に言葉を聞いて黒園は溜息をついた。

そして、苦笑しながら話す。


「あぁ、そういうことね。……………………ホント、頭が痛くなるくらいに憎い才能ね」

「え?ありがとうお姉ちゃん!褒めてくれて嬉しい!!」

「ようするにアンタ。髪への魔術神経回路が何十にも重ねているって、全てが守るための組織に組み替えられてるわけ。だから、あの衝撃でも軽々と身を守って生き抜けるって話なのね。それ、ほとんど神性級じゃない」


桐野にとっては何を言っているのかさっぱりだったが、凄い事は伝わる。

だって、黒園が悔しそうに恐怖心を感じさせながら話しているのだから。

それに、いつになっても、不敵な笑みを浮かべるスフィアも相変わらずだ。


「本当はね、今殺したかったんだ。昨日、一人殺せたから次は近くに居た二人だなーって。でも、今日はやめておく!」

「あら?見直してくれたの?それとも情け?」

「ううん。どっちでもない!見直すとは違うけど、興味は湧いたからね!だってよくあるでしょ?とっておきは最後にとっておくものだって!ね?」


満面の笑みで話すスフィアに、ゾッとするような悪寒ともとれる恐怖心を感じさせる。


「あらそう、本当にかわいくない子」

「お姉ちゃんも、可愛くない戦い方だよ?残念だけど、今日はこれで帰るね!」

「ちょっと、待ちなさい!!」

「ばいばーい!言ってた通り、面白いお兄ちゃんだったね!!」


手を振って、今にも崩れ落ちそうなルーマの肩に乗って消えてしまった。

その後、すぐにサイレンが聴こえてくるのだった。


「もう来たのね、、、、、行くわよ桐野君!」

「あ、あぁ!」


二人も、駆け出して桐野の家に戻るのだった。

三階の桐野の部屋に付いて、電気も点灯させる。

ようやく住処に来てからの安堵でか、黒園は息を吐いて膝から崩れ落ちる。


「ったく、まさか最初から狙われるなんて災難ね~……………………」


しかし、声かけに桐野からの返答は無い。

それが気になりもう一度訪ねる。


「ねぇ、聞いてるの?ねぇってば!―――――って、どうしたのよ!?」


そこには床で蹲り全身を抑える桐野の姿。

僅かに四肢から白い煙のようなのが出ている、思わず触れるが熱さで離すのだった。


「あっつ、、、、ちょ、桐野君!?ねぇ、桐野君!!」


呼びかけに、ただただ苦痛な表情をした桐野が横たわるだけ。

その夜は、黒園の名前を呼ぶ声だけがアパート内に響いたのだった。



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