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4.『 夢のような本当 』


「翔也。どした?顔色悪いぞ?」


眠そうに虚ろ虚ろしていた翔也に声をかけるのは、十亀だ。


「あぁ、ちょっと寝れなくてな……………」

「なんだよ。最近ソレばっかだなぁお前」

「あぁ」


十亀とはいえ、昨晩の内容は相談もできない。

心配をかけるのは申し訳ないのだ。


「……………………あんま無理すんなよ?あれだったら、保健室いくか?」

「いや、其処までじゃないから大丈夫だ。問題ない」

「そうか?なら良いけど、無理そうだったら俺を授業中でも呼べよ?」


と、自信満々に十亀はガッツポーズして見せる。

翔也は察しが付く。


「お前もサボりたいだけだろ?」

「まぁな」


すぐに授業のチャイムと共に、教科担任が入って来る。

授業が始まって時が経つ中で、窓外へと目を向ける。

昨晩が夢だったんじゃないかと思うほどに、当たり前の変わりない日々。

四限まで終えると、昼休憩のチャイムが鳴り響いた。同時に、生徒たちの気の抜けた声に十亀が駆け寄る。

案の定食堂へのお誘いだ。


「今日は(ゆき)が、昼練で居ないから二人だな~」

「そっか、もう少しで大会なのか」

「らしいぜ。だから、部内でピり付いてるって話よ~」


雑談をしながら、廊下を渡って渡り廊下を通った先の階段を下った食堂に入る。

他の部活の人員たちも昼練なのか、人がいつもより少ない気がした。


「ラッキー!他の奴らも練習で居ないか~ちゃっちゃと注文注文~っと」


その時だ。


「おいコラ!!」


唐突に、十亀の頭上には竹刀が振り下ろされた。

強く振っては無いが、防具が無い状態で当たれば痛いだろう。

悲痛な「うげ!」と言う声が漏れるのだった。


十亀の後ろに立っていたのは、同じ別クラスの『大滝 真澄(おおたき ますみ)』だった。

癖っ毛で外跳ねした茶髪のセミロングヘア。女性の中では160台後半と身長は高い方だろうか。

キリっとした眉毛のせいか、瞳が威圧的だ。


「うわ、大滝じゃねぇかぁ!?」

「うわとは何だ!うわとは!私は首相として来たんだろうが!」

「なんだ?大滝が来たって事は――――」


桐野が話すと、その先を言わんでもその通りだといった表情で大滝が深く頷く。


「おっしゃる通りで思ってる通りで……………………ってなわけでさ、これから剣道部の練習でみっちり扱きたいから、桐野悪い!十亀借りてくね!」

「頷くなよ桐野ぉ!!俺を見捨てるなよ!?」

「いやいや、お前がすっぽかしたんだ。責任はちゃんと取れよ?男なんだからさ」

「何ィ!?」

「じゃ、そう言う事なんで、、、、ホラ!さっさと行くわよ十亀!」

「いやだぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


哀しい叫び声が食堂内に響き渡り、強引にも引っ張られていく十亀の姿を桐野は手を合わせて見送るのだった。

その後、桐野は一人きりになった時間を、定食を注文して珍しく外のテラス席で取ることに。

晴天の中、自然生い茂る校内に囲まれた神秘的な空間。

テラスのパラソルで陽射しの暑さも軽減され、微風吹き抜け心地が良い。

たまには、こういった時間も悪くないなと感じる桐野。


「あれ?先輩じゃないですか~!」

「あ?幸?」


声をかけてきたのは幸だった。


「今、練習中じゃないのか?」

「休憩ですよ~っと」


向かいの席に座る幸は、陸上選手っぽくユニフォームを着用して肌の露出が多めだ。

タオルで汗を拭きながら、狩ったばかりの冷え切った水をゴクゴクと飲みすすめる。


「はぁ~……………………こうも暑いと、色々と集中するにも難儀ですよね~」

「それでも頑張れてるの凄いよな。俺なんて、部活に入ってないからさ」

「じゃぁ、先輩も今日を機に入ります?」

「無理無理。今から始めたって体力もないし」

「何です?年寄みたいに~」


笑みを浮かべる幸に、翔也は苦笑する。

すると幸は、思い出したかのようにハッとした表情を見せる。


「あ、そうだ先輩!」

「どうした?」

「あのですねぇ、帰宅部である先輩に知ってるかどうかなんですけど」

「それはどういう意味だ?」

「まぁまぁ、深い意味は無いんですよ。ただ都市伝説的な?」

「都市伝説?」


怪奇的な言葉を聞くと、好奇心と言うモノが前に出ようとするのだ。

それが決していけないというわけではないが、そういったものに首をつっこむと、だいたい面倒ごとに巻き込まれるような気がする。


「噂ですよ噂。ソレが何故だか急に私たち内でも流行って……………………ぇっとですね、、、、、『赤眼(あかめ)』?だったような――――」

















「何よ、その都市伝説。聞いたことも無いわね」


あっさりと言い捨てる黒園。

放課後に校門過ぎてから合って一緒に下校する中で桐野は黒園に幸から聞いた話を教えるのだ。

しかし、反応はあっさりとした塩対応だった。


「何?桐野君は、そんなの信じてるわけ?」

「いうあ、信じるも何も今日初めて知ったわけだし……………………けど、魔術師が居るなら、可能性はあり得るんじゃないか?」

「だとしたら、すでに情報は魔術師内に回ってるわよ」

「結構、魔術師内でも回覧板的な感じなのか?」


すると、黒園は立ち止まり振り返ると桐野に歩み寄る。


「馬鹿な事言ってないで、早く帰るわよ」

「何処に?」

「決まってるでしょ、桐野君のお家よ!」


さも当たり前の返答に、言われるがまま桐野は自分のアパートという家に帰るのだった。

帰ると、黒園に出した茶をソファに座ったまま嗜む中、ふと桐野は思い出す。


「そういえば――――」

「ん?どうしたのよ」


黒園が後ろの方向に目を送ると、桐野は探している姿を見つける。

カップを置いて、桐野の元に駆け寄ると、桐野は箱を出すのだった。


「何よソレ」

「あぁ、これさ俺にも理解できない本ばかりで居れたままにしてたんだけど、、、、何か関係あるのかな?」


と、見せる本を見る黒園は、ジッと見つめる。

そして、指を顎に持って行き考え込む。


「コレ、、、、貴方の?」

「いや、多分俺の親かな?」


そっと指で本の表紙を撫でて、見開きを開く。

そのままページをめくって行くと、黒園は桐野の顔を見るのだった。

どうしたのか分からず、桐野は首を傾げる。


「なんだよ、、、、」

「コレ、、、魔術の本よ。それも、、、、全部が強化に通ずる物ばかり……………破けてる本が多いから何とも言えないけれど……………………」

「強化?なんでまた、、、、」

「さぁ、けど。これで確実なものとなったわね。元々の魔術神経が眠っていたのにも、血筋にも関与しているのが親からの遺伝だって事がね。つまるところ、貴方には魔術ができるはず」

「俺がか?」

「えぇ、そうよ」


できると言われても、今まで空想の世界の話だと思っていたのだ。

それに、昨晩ので魔術神経の蓋が開いたとしても感覚は変わらず普通だ。

それなのに、自分に何ができる?


「まぁ、とりあえずそこに座りなさいな」

「こうか?」


言われるがまま、床に胡坐をかいて背中を向ける。

黒園は、背中に手を置くと目を瞑るのだった。


「今あなたの中に眠る魔術神経の状態を見るから。少し静かにしてよね」

「分かった……………………」


手元から背中にかけて青白い神経が糸の様に全身に広がった。

体温が伝わるも、何か冷たいモノが走る感覚に、桐野は深呼吸して同様に目を瞑った。

黒園の脳内で、体内を血管と神経に沿って魔術神経が通っているのを一人称で体感しながら静寂な空間が続く。

入り組んだ道を休むことなく走り続ける感覚に、集中力が徐々に増していく。


(感覚としては、生まれもっての魔術師であるには間違いないわね。でも、何で?血管にすらも魔術神経が一体となって伸びている。ここまで深く根を張っているのに、当の本人は気づかづじまい。ましてや、魔術師として育てなかった親の考えも気になるわね……………………)


心臓、肺、脳へと至る神経回路ン加えての血管を辿り進めて行く。

そこで、途中火花が散る感覚に、黒園は力み始める。指先に加わり桐野も違和感を感じるのだった。

直後、背中と黒園の手の間に磁石が生まれたかのように反発しあうのだった。


「――――――今の、、、、拒否された!?」

「黒園!?大丈夫か!?」


振り返り黒園に手を伸ばすも、大丈夫と合図をする。


「問題ないわ。やっぱり、貴方の得意魔術って強化系であるのは確かだったわ」

「それは、どういった魔術なんだ?」

「まぁ、簡単に言っちゃえば身体を人間の強度の倍に増大させるって事なんだけど」

「……………………地味だな」


そこで、黒園は立ち上がりスカートのシワを手で伸ばす。


「そうでもないわ。実質、魔術師って近接だと弱いもの。距離を詰められれば終わりだと考えておけばいいわ。その中で、近接よりの魔術は有利性を持っているに等しいんだから」

「そうなのか……………………」

「けど、その前に桐野君は魔術の使い方を勉強しなければならないわね」

「でも、どうすれば良いんだ?」

「そうねぇ……………」


黒園は腕を組み考える。

桐野は本を読んでも英文は完璧に読めるわけでもない。

黒園は、元々魔術師の家系であるとなれば勉強も積まれている分英文を読むのには難儀はしないのだろう。


「最初に、魔術を行うにあたって詠唱が条件となるのよ」

「詠唱、、、、それが言えれば、使えるのか?」

「そんな単純な訳ないでしょうが。人には得意不得意があるのと同じように魔術師にも得意な魔術と不得意な魔術があるのよ」

「なるほど、、、、それで、俺が得意なのが強化系ってことか?」

「あら、察しがよろしい事で。っていうか、貴方には強化系の魔術しか備わってないだけなんだけど。そんな感じ。私の場合は、主に炎属性の魔法が得意なのよ」

「炎か、、、、強そうだな」


そこで、魔法石を目の前の床に置いていく黒園。

その中には、様々な色合いの宝石が混ざっていた。


「これらは、魔術を行うにあたっての代償と言えるべき代物ね」

「代償?」

「そうよ。魔術を行うのに、自身の魔力が必要不可欠。魔力量が多ければ多いだけ強力な魔術を使えたりするのよ」


宝石を手に取るも、何も感じない。

これがどう代償となっていくのか不思議だ。


「宝石っていうのはね、純度によって魔力の原石ともなる源が眠っているの。それを、魔術の詠唱によって反応させて、代わりに魔術を行う。それが、用途の意味よ」

「凄いな。こんなに小さくても、そんな使い道があるんだな。」

「でも、使いすぎると体内の魔力が減っていって代償が自分の生命力に関わるから。乱用なんて馬鹿な真似はしない事。それが戦う上での注意点かしら」

「――――――戦うって聞いて思ったけど、実感わかないな」


桐野の声に、黒園はしゃがむ。


「まぁ、私が巻き込んだようなものでもあるしね。師弟として、私達で頑張るしかないのよ」


覚悟を決めているのだろう。

彼女の声色は、その信念を貫いているように思えた。

「そうだな」と言おうとした時、黒園は立ち上がる。


「ど、どうしたんだ?」

「この魔力反応、、、、、、、近くで何かいるッ!?」

「昨日の男か!?」

「違うわ。それに、ここまであからさまな魔力の放出、、、、、、自信が無いとできない、、、、、、、、誘ってるつもりかしらね、、、、、、、」





煙が立つ丘奥の霊園。

墓が崩れ、窪んだ地帯の中で片手に首を掴んで折る男の姿。


「丁度良いわ。命立つ者、足元で眠るのに相応しいから、そこらに投げ捨て置きなさい」


白い肌に浮かぶ淡いピンク色の唇が笑みを浮かべ立っていた。


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