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13 『挨拶』

夜は、『彩雲寺』の屋敷で腰を下ろしていた。

胴上げから解放された桐野は疲れた表情で、深い溜息を漏らしていた。

そんな彼に対して、桜外は「ほほほ」と笑っている。


「笑い事じゃないぞ、大変だったんだからな、、、それに、俺が主ってどういうことだよ」

「そうよ!そこからちゃんと説明する事!!!」


「お待たせしました。お夕食です」


黒園の声のタイミングで、式神たちが料理を運び込む。


「あら、ありがと」


夕食を準備してくれた式神たちに黒園がお礼を言うと、無表情でコクリと頷き戸を閉め切った。

箸をとって、食べ始めようとした時。


「ちょっと待ちなさいよ、アンタら」

「どうした黒園」


桐野が黒園に尋ねると、黒園は不機嫌で不満な表情を浮かべていた。


「どうしたもこうしたも無いわよ!!!何よコレ!虐め!!??」

「虐めって、せっかく作ってもらったんだから文句言うなよな」

「そうじゃそうじゃ。せっかくあ奴らが作ってくれたことに対して否を申すか?」

「ぅんん~~~~~ッ!!!そうじゃなくってェ!!コレ!コレェ!!!!」


黒園が指をむけた方は、食事だ。

ごく一般の和食と言ったものだろう。

茶碗の半分にご飯が寄せられて、御椀にも味噌汁。小皿には福神漬け。おかずには、シソの上に骨が抜かれたサバの塩焼きの開きだ。


「おい、美味しそうじゃないか」

「美味しそうよ!?けどね、アンタらの見てたらそうも言えないでしょうがぁ!!!!」


言われて、桐野は自分の食事に目を向ける。

ご飯は大盛で、味噌汁にはタケノコと具沢山だ。それに、小皿には煮つけに加えて福神漬け等々。茶碗蒸しが一品に、サバの味噌煮の器に、おかず用で手羽先が数本にサラダが一品。お好み用ソースが四つ並んでいる。


うん。


普通だ。


「それで何かあるのか?」

「アンタ人イラつかせるの好きね……………………?」


目が血走りピくつかせる黒園。

桐野は地雷を踏んでしまったと、焦る。


「いやいや、ほら。男は良く食うっていうだろ?それに女子って、体形とか、、、、、」

「何?私が太ってるとでも言いたいわけ?」

「いや、違います。。。。。って、別に良いじゃないか。食べれるんだから、普通に食べようぜ」

「ふん!まぁ良いわよ!ふん!!」


ムキになって食べる黒園に、申し訳なさそうに桐野も食べ始める。

途中、箸の音が止まったのは桜外だった。


「して、主の話であったな」


その言葉に、思い出したかのように目をハッとさせる黒園。


「そうよ!ソレ!その話を詳しく!桐野君だって、魔術師になったのは一週間も経ってない頃合いなのよ?どうして、あんな複数の式神が彼を主と認めたのかどうかって話よ」

「………………ま、小僧には素質があるからじゃろうて」

「素質って、そんな簡単な言い方。もっと、根本的なのは無いわけ?」

「そう言われてもなぁ……………………」


口を突き出して桜外は目線を上に考える。

しばらくすると、「おぉ、それじゃ」と小さく呟いて思いついた顔を見せる。


「あ奴らに確か、言った記憶があるな」

「言った?何を?」

「……………………なんじゃったかなぁ、、、、、ぅ~ん、、、、、思い出せんなぁ」

「はぁ……………………聞いた私が馬鹿だったわ。もう良いわよ」


諦めた黒園は食事を食べはじめる。

途中、桐野は軒の方へ顔を向けると、満月の明るい庭で式神たちが舞い上がっている。


「桜外。あの子達は何をしてるんだ?」

「んぁ?……………………あぁ、感情高ぶっておるのじゃろう。主を見つけて、誰が為にも尽くせる人を見つけたのじゃ。そりゃぁ、喜ばしいことじゃろうて」

「そっか」


微笑する桐野。

その横で、肘をつきながら黒園は、式神たちと桐野を交互に見つめる。


「ねぇ」

「な、なんだよ、、、、どこから見てんだ?」


声に反応して振り返ると誰も居ない。

そこで、桐野は少し下に目線を落したら、そこに黒園が下から覗き込む様に見ていた。


「良いじゃない。それより、桐野君はさ。彼女達が怖くないの?」

「どういうことだよ?」

「じゃぁ、桐野君は彼女たちをどう見えているの?」

「どうって、、、、短い、、なんていうんだ?おかっぱで、巫女の服を着た色とりどりな綺麗な目を持っている、、、、、」

「やっぱり」


その言葉に、桐野は言うのを止めた。

その言葉がどういう意味を持っているのか桐野は気づくこともできなかった。


「うん。私にも確かに見た目は分かる。けどね、貴方の様にハッキリとは見えないのよ」

「それって、、、、、」

「まぁ、正確に言えば。枯木が使っていた式神みたいに亡霊に見えちゃうのよね」

「けど、俺だって壮馬のは幽霊みたいに」

「簡単じゃ。ソレは、死体を使っていたか使っていなかったか。若しくは、魔術力の高い者、あ奴らに近しい者かじゃ」


まさか、黒園からはそんな風に見えているとは思わなかった。

実際に、桐野からみた彼女たちは、本当に普通の女の子なのだ。

変わりもしない、巫女服なんて着ないで、お洒落をすれば尚更、今の時代の少女達の様に平凡で普通に見える。

だから、あぁして庭で舞を踊っている彼女達が和ませた。


「小僧とワシは似とるのかもしれんなぁ」

「なぁにが、似てるよ。全然違うんだからね?」

「なじゃぁ?ワシに負けたくなくて意地張っとるのかぁ???」

「キィーーーー!!何よアンタぁ!!!表出ないさい!!??ほんっとに蹴りを着ける必要がありそうね!!!!」

「勝てもしないのにカッコつけて恥かくのはお主じゃぞ?小娘ぇ!!!」


賑やかな夜は、久々だった。

小太鼓に笛の音の中で、舞を踊る無邪気で楽しそうな式神たち。

まぁ、後ろでは黒園と桜外は手を掴んで取っ組み合いの真っ最中ではあるが、こうした何気ない一日が、桐野にとって一番欲しい物だったのかもしれない。

そんな思いを、黄昏ながら桐野は楽しむのだった。




「ここがそうなの?」

「あぁ、夜だから眠っちゃってるかもしれないけど、、せっかくだからさ」

「ふぅん……………………。ま、流石は住職よね。ちゃんと聞けば、場所分かるんだもの」


墓が並ぶ、彩雲寺の敷地内にある墓地。

もう一段高い丘には、多くの人が眠っているのだ。

その中には勿論、桐野の両親も。

中央にある一つの墓石。

その表面には、桐野の両親の名前が刻まれていた。

一本の花が手向けられているのを見つけると、桐野は手に取る。


「コレ。他にもお参りに来てくれていたのか」

「良かったわね。桐野君」


黒園は桐野を横から体でつつく。


「あぁ…………………」


二人でしゃがむと、手を合わせる。

静かな時間の中、満月も雲に隠れて行く。


「よし、帰るか」

「えぇ、何も言わなくても良かったの?」

「もう言ったさ。それに、長居してちゃぁ眠りの妨げにもなるだろうからさ」

「そっか、、、それもそうね」


石段を降りて、屋敷のある境内までたどり着く。

玄関の中に入り、畳の上に上がって行くと桜外は軒で日本酒を片手に舞を眺めているのだった。


「桜外。ありがとな」

「おぉ、もう挨拶は済んだのか?」

「あぁ。ま、寝てたかもしれないけど、、、」

「そうじゃな」


桜外は簡単に答えると、日本酒瓶を口に着けてガブガブと飲む。

微笑して、ジッと舞を踊る式神たちを眺める。


「なぁ、桜外」

「ん?」

「俺とアンタで一回会ったときあるか?」


その質問に、桜外は見向きもしない。

しばらく返答が来なかったが、息を小さく吐いた。


「合ってるんじゃないかの?ここは、寺じゃ。お主の両親の顔合わせで見ておるではないか?」

「……………………あぁ、そっか。それも、そうだな。悪い」

「なに、謝る事でもなかろうて」


そこで、式神の一人が舞を終えて駆け寄る。

残りの十数人も後を追いかけるように桐野の前で並び始めた。


「主様。もうお帰りでしたか」

「皆、今日はありがとな。楽しかったよ」


桐野が、そう言うと。

互いの式神同士が顔を合わせる。中では小さく跳ねる子もいるし、体を横に揺らしている子も見える。

同じ顔で同じ格好でも、中身は違い個性が色々あるのかと知ると、桐野は、思わず笑顔が浮かんだ。


「それでは、主様は、お家に御帰りになられるのですか?」

「そうだな。他にも色々とやらなきゃいけないこともあるからな」


申し訳無さそうに桐野は、頬を指で掻きながら答える。

すると、あからさまにガッカリしたように落胆して肩を落とす式神達の姿。


「でも、すぐに会えるから!会いに来るからさ!!」

「左様ですか?」

「勿論だ。主になったからには、会いに行くよ。必ず」


再び、式神達は小さく跳ねて、式神同士ワチャワチャと会話をする。

そこで、黒園はニヤニヤとしながら、桐野の後ろから前に出てくる。


「何よアンタら。もしかして主が居ないと寂しいわけぇ?」

「寂しいです」

「素直かッ!?」


直球で返答され、黒園は驚く。

すると、先頭に立っていた式神が懐から一枚の正四角形の紙を桐野に渡す。


「コレは?」

「その紙は、私達の名を記したモノでございます。もし、何かありましたら念じ下さい」

「ふぅん。いわば、簡易的な召喚術って事ね。まぁ、桐野君って魔術量も高いわけだし、出来るんじゃない?」

「おい、そんな簡単に言うなよな!」

「だって、本当の事じゃない」


桐野の手に持つ紙には、中心の丸から伸びた式神の数の名前が時計回りに記されていた。

計13人。一つ一つの名前を桐野は見て行く。


「私たちは、必ずや主様の為に、この命捧げると誓いました。絶対に、必要な際にはお呼びください」

「あぁ、絶対に―――――――――本当に、ありがとう」


桐野のお礼に対して、一斉に式神達が頭を下げる。

その光景を見ていた桜外は、微笑むと立ち上がる。


「ホレホレ!お主らが決めた主なんじゃろ?早く見送りせんかい!!」


その言葉に、舞の道具を式神達は急ぎ片付け始める。

桐野と黒園は見合って、何だか式神達が可愛く思えて笑うのだった。


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