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11.『 彩雲寺 』

「クソクソクソクソクソクソォ――――――ッッ!!!!クソがァ!!!!!!」


壮馬を、抑えられず溢れだす怒りの感情が襲う。

蹴り飛ばされた木製の椅子は、壁に当たると一本の足が音を立てて折れ、木屑が飛び散り扉際で立って待つサギリの所へ落ちる。


「なんで、、、、、なんで、俺があんな奴らに!!!!」


テーブルに手を着き、歯ぎしりをする。

その中で、目線はサギリへと矛が向かうのだった。

目線を向けられているのが、自分だと分かるも顔色変えず無表情のままサギリは立ったまま。

彼女の前まで歩き、苛立った表情で睨みつけながら壮馬は目先へと指差を向ける。


「元はと言えばなぁ、お前がアイツに負けたからだろうが!!!!お前が負けさえしなければ、俺は恥をかかず黒園ごと殺せたんだよ!!!戦犯はお前なんだよ!従者如きの分際がァ!!!!!!」

「申し訳ございません壮馬様」

「謝るくらいなら、心臓止まるまで戦えよなァ!」

「申し訳ございません」


相変わらずの、感情が乗っていない返答。

散々聞いてきた返答だ。壮馬は、サギリの腹部に、そのまま握った拳で叩く。

その刹那、サギリの表情が苦痛に浮かぶも、元の平常な表情に戻るのだった。

しかし、壮馬にとってその変化が少し変で可笑しくもあり、そのまま同じように拳を腹部に着けると、殴るのではなく、じわじわと力を入れ込んでいく。


「そっか、ここだったな?桐野にやられた所ってのは、、、、、流石のお前でも痛いか?あぁ?痛いのかァ??」

「……………………申し訳ございません」

「…………………………………………チッ。つまんないねぇ、ほんっとにさぁ~……………後で、この式神ってやつも、文句言ってやる」


テーブルへと戻ると、置かれていた式神の紙を手に取り握りしめる。

グシャグシャになった紙は、床へと投げ捨てると部屋を出て行くのだった。

部屋から出てすぐのカーペットの廊下では、壁にかかった絵画を眺める叔父が立っていた。


「叔父さん…………」

「壮馬。此度の戦い、順調か?」

「も、勿論!なんたって、枯木家を代表とする俺だよ?ま、サギリがへまをしなければの話だけどね?」

「そうか。お前は、この次期当主なのだ。ゆめその事を忘れるな」


言い終えると、絵画から目を離して玄関のロビー中央の階段を湾曲に二階へと登って行く。

すると、壮馬は舌打ちをしてズボンの両ポケットに手を入れ込む。


「たかだが、拾う子が何の役に立つって言うんだよ。サギリよりも有能なのは、俺なんだ。俺より有能な奴なんて認めてたまるか――――」


そこで、壮馬の脳裏には黒園の言葉が過る。

『私、天才だから』

不快で、煮え立つ苛立ちが再度込み上がる。


「絶対に、、、、、殺す。殺してやるからな―――――ッ!!!!」















桐野と黒園は、翌日の早朝に『彩雲寺』へと向かって階段を登っていた。

最初の階段を登り終えると、散歩コースにもなっている竹林の中の通路を見渡しベンチに腰を掛ける。

用意していた水筒の口を開けると、黒園は水分補給をして一息つくのだった。


「しっかし、『彩雲寺』とはな」

「まぁ、ここも魔術とは違っても、おんなじ魔力を使っているのには変わりないのかもしれないものね」

「魔力か、、、、、けど、陰陽師っていうのは印を書いたり札を、、、こう~投げて出したりとかするんだよな?」


桐野は札を持つふりをして投げる動作を見せる。


「まぁ、大まかにはそうなのだろうけど。一つ違うってのが、向こうは神の信仰を重んじているって事かしらね?それに、妖と言われる異形を従わせるとか」

「そっか……………………」

「ん?どうしたのよ」


目を横に向けると、黒園が近くで桐野の顔を覗いていた。

女子に至近距離で顔を近づけられたのが初めてで、思わず頬を染めて目を背ける。


「いや、、、『彩雲寺』って、俺の両親が眠ってる場所なんだよ」

「そうだったのね」


踏み入った無いようになってしまった事に、黒園はどう言葉を掛ければ良いのか、迷い空を見つめる。

しかし、何かと桐野は何とも思ていなそうな顔をしている。

本当に良かったのか?そう感じながらも立ち上がり、桐野の前に立つ。


「ま、なんにせよ。私達は、今を乗り切るしかない。死なない為にも勝つ為にも、一緒に行きましょ」

「……………………はは、そうだな黒園」


手を取り桐野も立ち上がると、更に上へと続く階段を登って行く。

登った先には、大きな鳥居を模した門が聳え立つ。

周りを囲む様に高い白い壁が続く中、前で黒園と桐野は見上げるのだった。

決して高く上に伸びた建物でもなく、平たい寺。そして広大な庭だ。


「やっぱり、凄く広いな」

「ま、この街の象徴ともいえる寺だもの。こうでなくちゃぁね。とりあえず、手始めに私が入ってみるわ」

「いや、ここは俺も行くぞ」


そこで黒園は、桐野の肩に軽く手を置くと自信満々な顔を見せる。

その意図が組み取れ桐野は眉をひそめた。


「見てなさい。魔術師が簡単に話をできるわけではないのよ。それに、戦場の上。何があっても不思議じゃないわ。もし、他に狙うモノが居れば桐野君、貴方に任せるわ。それに、私を誰だと思ってるのよ!」

「わ、わかった!」

「よし、じゃぁ行ってくるわ」


門を潜り前に歩き出す。

自信に満ちた後姿を目で追いながら、門横の影で桐野は辺りを注視する。

広い庭の中の真ん中の一本道。

小川の流れる涼しい音が聞こえてくる中、風で揺れる木々の音。


真ん中まで歩いてきた時――――


「そこで止まれ」

「来たわねッ」


聴こえた声に、微笑する黒園は零す。

その声の先には、賽銭箱後ろの階段で立つ小さな少女の姿。

薄っすらと春風のような桜色の後ろを結んだ髪に、小枝の簪。

白い巫女服の隙間に見える紅色の下袖を揺らして、右肩に垂れて揺れる側頭髪。


「貴女が『彩雲寺』の住職さんね?」

「そうじゃ。いかにも、わしが『彩雲寺 桜外(おうがい)』。して、貴様は誰じゃ」

「私は『黒園沙耶』、魔術師よ」

「ほぅ―――――」


垂れた髪を後ろに靡かせる桜外。

その都度、簪の揺れる金属が風鈴の様に綺麗な音を奏でる。


「しかし、貴様が軽々しく立ち入るなど。恥を知るのじゃ」

「何よ。枯木家に力を貸してる時点で、恥も何も無いんじゃないのかしら?」


黒園は、焦る事も無く微笑したまま桜外へと話すのだった。


「ほぅ、口は達者なようじゃな」

「口はじゃなくて、魔術もなんだけど?」


その言葉に、桜外は目を細める。

暫くの沈黙。

風で揺れる木々の音が響く。

そんな光景を桐野は驚きながら覗き込んでいた。


「あの人が住職だって?まだ子供じゃないか……………………でもあの二人、何で話さなくなったんだ?」


静かに黒園は息を吐く。


(力を借りる。それは、向こうだって感づいているハズ……………………そう簡単に聞き入れてくれるはずが無いのは確か)


身体を横に、足を後ろに構えると地面の砂利が鳴る。

その動きに桜外は、袖を揺らして両手を前に出して横に広げる。

風を切る音が止んで、また、沈黙の時が流れる刹那、上空に木々から抜け出した鳥が飛び立った。

翼を広げて動かす嵩張った音が聞こえる。

ソレが合図に、黒園は走りだす。


「推抑上々!『野望を持て(アンヴィシャス)』!!!『纏う二つの利害(ステーク・トゥアー)』―――――!!!!!」


黒園の右腕には炎の魔法因子を纏い、左腕には水の魔法因子を纏う。

両手に握られた、魔法石を強く掴み、黒園は桜外へと走る。

しかし、目の前に居た桜外は、階段から一歩踏み出しただけなのに、距離が可笑しく感じる程に、目の前に足が飛び出してきたのだ。


「く、るッ!!!!」


咄嗟に、言葉が詰まる黒園は、右腕で守り切る。

当たった足は上斜めに上がり消えて行く。

地面に影った桜外の姿。影は、まさに黒園の真上だ。それに、足が飛び出ている。


(また、蹴りがくる――――!)


振り返り、左腕を振り上げた。

拳と、桜外の足がぶつかる。

しかし、すぐさま桜外は逆さまに腕を掴む。


「おぉ、冷たッ。この時期には少々体に応えるのぅ」

「なによ、なら温めて上げようかしら?」


左腕を下に振り下ろして桜外は、地面へと着地する。

そこへ、黒園の右手で顔を狙い振りぬくも、軽々とかわされる。左腕を振り払い、投げかけた腕と共に右足で蹴り飛ばす。

それも、両手で足先を掴まれる。


「なぁ―――――!?」

「ほぉ~れ」


掴まれたまま、黒園の身体は地面に落ちるのではなく。

桜外の力技でか、遠心力によって空中を円を描くように振り回されるのだ。


「目が回るじゃろ~~」


面白そうに話す桜外に、黒園は下へと右腕で狙いを定める。


「ざっけんじゃぁ、、ないわぁ、、、、よ!!!!」


すると、黒園を投げ飛ばす。

勢いに乗った身体は、池へと入って大きな水しぶきを上げる。

一方で、投げられたと同時に放たれた黒園の炎魔術は、桜外に首を曲げて避けられ地面へと曲がり落ちて小さな爆発を起こす。

風圧に、吹き飛ぶ砂利たちに、黒園を濡らす池の水たちは後方へと飛んでいく。

中で、黒園は立ち上がって、左腕を構えていた。

それを見た桜外は、小さく口を開き感心した表情を見せるのだった。


「なんじゃ、貴様。案外、器用なんじゃな」

「そんなの最初からよ!二つの属性使ってるときにでも気づきなさいよね!」

「別に、其処じゃなくてな」

「行くわよ!最大火力!!!!」


(炎と水の融合。これなら、完全に蒸発による水爆を当てられれば、、、、、、)


左腕に右腕を掴んで、指をさすように桜外へと向ける。

右腕に流れる炎の魔力因子は左へと流れて、青色と赤色交互に指先へと集中して行くのだ。


(この身体なら、魔術において必須な詠唱も関係ない。だから、すぐに攻撃を仕掛けられるけど、、、、、その分、長くはもたないのよね、、、、、だからこそ、今ここで!!!!!)


「『炎水の矢(イグアニス・アロー)』!!!」


膨大に膨れ上がって行く魔力弾。

一気に解放するように放たれる先に、桜外は呆然と立ち尽くすのみ。


「そんな余裕そうで良いのかしらね?」

「ふん」


その光景に、思わず焦る桐野。


「おい!ちょっとソレは―――!!!!」


このままでは、一帯を吹き飛ばすだけじゃ済まない。

門の中へ焦って入り込んだ桐野。

しかし、余裕そうに桜外は微笑んでいるだけ。

目の前に、魔力弾が迫る。そして、一気に凝縮したかと思えば、白色に光って爆発する。


「『天結びの加護』我に恵みを預けたまえ―――」


桜外の世kに伸びた右手の先に白く連なった紙が飛び出た。

地面は、砂利だけなハズ。しかし、砂利の中から木々の根が細く伸びて紙に絡みつく。それらを、前に振り投げると、爆発して周囲に自身に被弾する前に、球体状に絡まりまとわりついた。

そのまま、一気に小さい点になるまで凝縮していくと、光も漏れなくなり爆発せずに事なきを得るのだった。


「ぅそ、、、、、そんな事、、、、、、、、」

「ぃだ!」

「えぇ!?桐野君!?なんで出てきてんのよ!!!!」

「す、すまん!つい、、、、、」


勢いに走って出てくる桐野は、その場で転んでいた。

起き上がると、そこには何も無かったかのように頬む桜外が立っていた。


「なんじゃ、こんなもんかい」

「ま、まだよ!!」

「もうよい。これ以上続ける必要もなかろうて」

「な!?ちょっと待ちなさいよ!!!」

「待たぬ」


そう言って、桜外は寺の中まで歩いて行くのだ。

追いかけようとする黒園に、桐野も一緒に動き出す。


「黒園、今日はやめよう。次にでも」

「いいえ、まだ戦えるわ!私だって、、、、」

「小僧の言う通りじゃ。そ奴が正しい。」

「そんなの諦めきれるわけないじゃない!」


その言葉に、立ち止まる桜外。

そこで、不思議そうな表情で振り返る。


「諦める?なんのことじゃ」

「へ?、、、、、、アンタに力を貸してもらう為の、戦いを、、、、、、」

「別に、力を貸さんなんていっとらんぞ。それよか、小僧を出しとけば、こんな事をせずに済んだのかもしれんけどなぁ?にっひっひっひっひィ~~~~~」


桜外は、口元を手で隠して黒園を馬鹿にするような笑い声を発するのだった。

それを見た黒園は、唖然として固まるも、最後に馬鹿にするような言い回しに笑い方に血が上ったのか顔を真っ赤にしている。

思わず桐野は、肩に手を置く。


「ど、どんまい、、、、」

「な、なによ!!あったまに来るわね!!!」

「まぁまぁ、、、、、、」

「許せないわよぉ!アイツ一体なんなのよ~~~~~~~!!!!!!!!」


精一杯に、黒園は心の声を叫ぶのだった。

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