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1.『 平凡から非平凡に 』

手を伸ばす誰かの影。


そんな様子を、俺は遠目から見ていた。

いや、近くで見ていた。


それも、激しく先が見えない、誰も結末を予想ができないほどの戦いの最中だった。


一体、誰だったんだろう。

考えても、考えても思考が定まることは無かった。

ただただ、俺は傍観しているだけの存在にすぎなかったのだから。




「や~しの!やい、や~しの!」


オチャラケた様な名前の呼び方でふと目が覚める。

顔を上げると、其処は高校の自分の教室の自席だった。

窓際の最高席と言われる位置を獲得した自席。その廊下側の席と席の間には、同じクラスの知り合いが立っていた。


「お、やっと起きたかよ」

「おぅ、おはよよ」


眠い目を擦り手を伸ばしながら欠伸をする。

そんな俺の姿を見て、『十亀 与一(とがめ よいち)』は呆れた表情を見せる。


「おはようじゃないぜ?今はお昼だよ、、、って、もしや授業中ずっと寝てたか?」

「ぁ~……………………いや、四限目の途中から睡魔がな」

「寝てんじゃねぇかよ……………………ま、いいや、飯食いに行こうぜ」


ウインクして、学食がある方向へ親指を向ける。

「あぁ」と端的な返答をして、十亀と学食へ向かった。


お昼休みに入ったばかりで、全学年通して相変わらず学食の人通りは多い。

その中でも、席を確保するには難しいのだが、俺達二人は迷うことなく座る席は事前に用意されている。

というか、後輩が席を取ってくれている。

いつもの日替わり定食を手に歩いていると、テラス近くのテーブルで大きく手を振る女子生徒が呼びかけていた。


「こっちですよ~!先輩!!」


相変わらず元気な後輩だ。

疲れを吹き飛ばすほどの満面な笑みを見せる、明るい茶髪でショートヘアに小さく両サイドに髪を下ろす後輩『天空 幸(あまぞら ゆき)』だ。


「こっちこっちぃ~!」

「席取ってくれてありがとな、幸」


遅れて十亀も隣の席に座ると三人で昼食を取り始める。


「なぁ幸。コイツ、授業中寝てたんだぜ?」

「はぇ~珍しいですね先輩」

「それに、凄い寝言も言ってったんだぜ?」

「え!?俺、寝言なんか言ってたのか!?」

「あぁ、確か『待ってくれ』って言ってたような~?なかったようなぁ?」


その会話を聞きながら幸は焼き魚を丁寧に開いて食べ勧める。


「はぇ~、先輩でも寝言言うんですね~」

「感心して聞かなくて良いから!恥ずかしぃ……………………」

「え、可愛いじゃないですか!」

「何処が!!??」


すると、十亀が背中を繰り返し叩く。


「まぁまぁ、疲れてんだよ~。ま、夜何してるかは聞かねぇけどな~」


その言葉を聞いた瞬間に、幸が一気に顔を赤く染め上げると口元を手で覆う。

その様子に気づくと、瞬時に十亀に振り向く。


「ばッ!!馬鹿言ってないで昼食!!というか、やましい事はしてないからな!」

「お、隠すのが余計に?」

「十亀!」

「はいはい、冗談だよ冗談~」


昼休みは、あっという間に過ぎて午後の授業に入った。

食事をとった後の授業は異様に眠い。

俺を寝てたと話題に挙げていた十亀は、勿論眠っている最中だ。

そういう俺も、眠気はあるが昼前の授業で寝てしまったせいか眠くなかった。窓に目を移すと、丁度人学年下のクラスの体育でグラウンドを走っていた。

その中に、幸の姿も見える。

陸上部に入っている分、体力もあって余裕そうに軽快な走りをしていた。

その後に、一瞬目が合ったようにも思えたが十亀が先生に注意された声に驚き振り返る。



「いやぁ~終わった終わったぁ~」

「十亀ってば、怒られてたな」

「ほんっと、あの先公は遠慮ってのが無いんだよな。体罰だぞぉ?」

「寝てたお前が悪いんだろ?」


その言葉に、十亀はムッとした表情を見せる。


「お前だって寝てた路?こんにゃろ~」

「バレなければ大丈夫だろ」

「言うじゃねぇの」


やっと迎えた放課後。

玄関を出ると、グラウンドでは幸達陸上部が物品の準備をしている最中だ。

体育の後でも、部活でそれ以上に動くのだから大したものだ。


「よくやるよな幸の奴」

「まぁ、幸は選抜に選ばれてるんだ。それだけ気合が違うんだろ」

「ほぅ~そういうもんかね」

「そうだよ」


校門を二人で出るとき「あ」と、十亀が声を出す。

足を止める十亀に合わせて、その視線に振り返る。


「なんだよ十亀」

「いや、学校一のマドンナと言われてるお嬢様が御帰宅になられてるな~って思ってさ」

「ん?―――――あぁ、確か『黒園 沙耶(くろぞの さや)』だっけ?送り迎えじゃないんだな」


十亀は黙り込む。

その様子を不思議に思い十亀を見ると、なんとも言えない顔を見せていた。


「なんだよ?」

「いや、お前って純粋なんだよな~って思ってさ」

「どういう意味だよソレ?」

「べっつに~、でも黒園って家は大きいらしいけど一人暮らしって話だぜ」

「それって、、、」

「深くは知らねぇよ。けど、そういう話は聞いたことあるってだけだよ」


言い終えると、十亀は足を前に出す。

道中、駅の前に来ると十亀は買い物があると言って別れる。

そこからは、真っすぐ家に帰るだけの時間だ。

雲しか見えない空に、少しだけ肌寒いそよ風。白い息が出るまでは、もう少しの日数がかかるだろうか。

今年の夏も、あっという間だったな。なんて、心の中で、一人語りの様に歩く。


家はアパートの三階。

中でも広い空間ゆえに家賃が一番高い場所である。が、元々家族事情も複雑で一人身であるという事に関しては他の人に対しては何も言えない。

ただ、金銭に関しては残っていた使い切れない額の相続が自分にあるという事を知ってからは、家賃はそこから出している。


「生まれが平凡で両親共に平凡なんてことが夢なんて、、、、、絵空事だな」


制服を脱ぎ私服に着替える。

そこで、十亀が言っていた黒園の事を思い出すとタンス内に家族が残した箱を思い出し懐かしむ様に取り出した。


「あったあった……………………しっかし、改めて出してみたわ良いけど、いつぶりだろ」


中は、本だらけだ。

それも、傷ありでホコリを被った古そうな物ばかり。


「なんだよコレ?あっても、意味ないだろ、、、、こんなの」


訝しげるように、ある本を床に置いて中を試しに開く。

しかし、中の内容は円形の図内に文字が刻まれている。その横には、小さい文字で説明文のようなのが書かれているが、英文でそれも旧字体で読めない。

指でなぞっていくも、理解しれない絵ばかりだ。三角形の中で分割された図体、魔物の姿にローブを羽織った人物に加えて、フラスコも出ている。


「意味が分からん……………………これって、何の為の本なんだろうな」


本を閉じて厚く堅い表紙の上を手で滑らせた。指先に付着する埃が集まる感触を直で、右手薬指に針が刺さったような感触がした。


「っつぅ!?」


思わず手を放して、感触のあった指先を確認するが傷跡も何もない。

しかし、そのままにして菌が入るのも怖いので鮮明台で洗い流し、本をまとめて箱に詰めると元の場所に戻すのだった。


「ま、遺品整理だと思えば良いのか……………………あとは」


冷蔵庫の中身を見るも、全く食材が無かった。

すっかり買い出しを忘れていた自分に溜息をつく。


「買いに出るしかないよな」


上着を羽織って、靴を履いたらアパートを出た。

目の前の路上を右側に、都内より離れた丘近くのコンビニに歩いて行く。

季節の夜と言うのは不思議だ。

夏の夜は、明るい黒。しかし、飽きに入ってからの夜は藍色の暗い黒に見えるように思える。

寒さ暑さで色が変わっているのかもしれない。

星空も見えない空ではあるが、そうした感想を持っていると星が出ていなくても楽しめると言うモノだ。

云わば、風情がある。そんなところだろう。


コンビニで買い物を済ませると、外に出る。

車の無い駐車場から、道路に出て来た道を曲がろうとした時だった。

誰かとぶつかる感覚がした。


「ぅおっと、、、、ごめん、大丈夫ですか!?」

「悪いわね―――――ッ!」


制服の姿と私服姿では区別がつかない時があるが、いつにもなく学校でも話題に上がるほどに一瞬で分かった。

相手は、あの『黒園沙耶』だった。


「アンタは……………………って、それどころじゃない。ぶつかったことは謝るわ、気を付けて帰るのよ!」

「えぇ!?おい!どこに……………………」


声をかけるも、黒園は振り向くことせず走って行ってしまった。


「そっちは、何も無い所だぞ?」


特に仲がいいわけでもない。

学校内ですれ違う時、数度挨拶したくらいで他は今のが最近の会話くらい。

別段気に掛けることもないので、空腹の方が優先される。だから、早く家に帰ろうと買った袋を手に持って歩いて行く。


アパート前に着いた頃、カチカチと音が鳴った。

見上げた街灯の灯りが不具合を起こして点滅していたのだ。

寒さもあっての現象だろうと、思い込んで中に入ろうとした。


その時だった―――



「汝。吾人の不作法を許してくださいませんか」

「え?」


なとも奇怪な話方だろう。

最初に思った印象はソレだった。


風格故か、怪しいの言葉に尽きよう。

白い手袋をした人差し指を立てて右手を顔前に持っている。

そして、点滅した街灯の真下に立っているせいか、雰囲気もあって、白髪が照らされて明るく見える。肩くらいまでの長さに、紅色の布スーツを羽織り、両肩には膝まで垂らした黒マフラーだ。ただ、目元はどうかと言えば同じ紅色のハット帽で陰って見えない。


「あの、、、、何か、用ですか?」

「えぇ、汝へ。お一つお伝えせねばならぬ事がございます故」

「はぁ……………………?」


無視して行けばよかったかと心の中で思いながらも、相手へ体を向ける。

その様子を見て、相手も僅かに微笑む。


「汝―――――――――、死にますよ」

「え?」


バチンッ!

街灯の照明が破裂し割れた音が響いた。

思わず驚き、街灯の方を見上げるがすぐに、目線を落した。

しかし、そこには男の姿は無かった。

さっきまで明るかったせいか、今の外の暗さは目に慣れない。


「な、なんだったんだ?悪ふざけにも程があるぞ……………………たく」


アパートの方に体を向けて塀の中を潜ろうとする。

すると、袋の音とは違って金属と違う音が聞こえた。


「なんだ?」


袋の方を見てみると、自身の買った袋に引っかかっていたのか青白い宝石片が乗っかっていた。

さっきまで歩いていて気づかなかった。


「これって、、、、買った記憶ないんだけどな……………………」


青白い宝石片を手に持った。


「見つけたぞ」

「―――――――ッ!?」


右耳側からの生暖かい息のかかった声。

驚き、振り向く。

其処に、黒い男が居た。

見えるのはただ、白い肌を覗かせたガチガチと歯を鳴らす口元だけ。


「だ―――——」

「アビスを覗く者よ」

「人違いじゃないですか?」


余りの異質さ故に、後ずさりする。その刹那、背後で街灯が地面に落下して破損した。

何も無い所での、落下に加えて街灯の首元が斜めに切断されていたのだ。

その光景を見て、さらなる恐怖が襲う。


「私の手で、御眠り」


伸びた爪に羸痩な手。

鼻先へと近づくが、あまりの恐怖に全力で走り出す。


「ぅああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!」


目の前のブロック塀を右へ。

直後、曲がった塀の角が切断して頭上に落ちてくる。


「何が、、起きてるんだぁ!!!!」


躱しながら走るも、破片が袋に引っかかる。

破けて手元から全てが落ちて行く。

走って来る様子はないが、確実に迫っているのだけは分かる。

理屈ではなく本能で察知する。


しゅぴッ


空を切る、高い音。

顔を下に向けると、その上を通過して目の前の街灯を切断した。


「さぁ」

「な――――———ッ!!??」


耳元でささやかれた声に、思考が完全に停止するのだった。

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