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高校の入学式の話

前世のおかげでメンタル鬼な碧くん





「ふぁ〜いい天気。眠くなりますねぇ・・・」

「朝ご飯ちゃんと食べないから頭が働いてないんだよ。せっかく咲ちゃんが作ってくれたんですがねぇ」

「いいのいいの。母さんはお前に食わせたくて作ってんだから」



ぴっかぴかの学ランを身に纏い大きなあくびをこぼす僕は前世で辺境伯の息子としての記憶を持つ橘家長男橘碧である。


前世で全くと言っていいほどツイてなかった僕の今世はまず産まれたときからツイていたと思う。割と裕福な家庭に生まれ、両親は優しい。顔立ちも悪くはなく、中学生の頃に背もグンっと伸び175センチだ。辺境伯の息子としてなら足りないと怒られるかもしれないが現代では充分すぎるほどである。そして何より八才年の離れた弟が素直で可愛い。『にぃに』と笑顔で寄ってくる姿はまさに天使。


あと



「方向音痴くん。どこにいくの?」



この隣で人を小馬鹿にした笑みを浮かべながらも共にいるこいつは狼谷優。幼馴染というやつで昔は手がつけられないほどのやんちゃ坊主だった。


目の前に人がいれば誰にでも殴りかかる。僕だって殴られた。もちろんその場で大泣きしたし、家に帰って母さんに抱きしめられながらも泣いた。今世でも殴られないといけないのか?!と途中からはその理不尽さに怒り泣き、結果熱を出した。



「あの日スグに殴られた僕は歯が一本折れた」

「そうだったね。乳歯で良かった」



そう。二日後、熱が下がって気がついたのが歯が一本抜けていたと言うこと。殴られる前から歯がグラグラしていたがどうにも怖くて抜くことができなかった当時のストレスの元凶。


僕は大喜びで両親に報告し、そのまま家を飛び出した挙句優に殴られた場所である公園に向かった。


傷だらけのやんちゃ坊主な優はその日もいて、一人ブランコをする彼にニィーッと穴のあいた歯を見せまさかのお礼を言ったのだ。

今考えると能天気にも程があるがそれだけ当時の僕からしたら嬉しかった。



きょとんとした顔の優はその後すぐにものすごい勢いで『頭おかしいだろ!』『消えろ!』などと罵倒してきたがストレスから解放された僕はルンルンで優のブランコの後ろに勝手に乗り漕いでみせた。


よくよく考えれば殴られた時はあまりにもいきなりだったので驚きのあまり大泣きをしたが前世に人の皮を被った悪魔のような父親を持つ僕からしたらなんてことなかった。

痛いには痛かったし、しっかり頬は腫れていたが慣れたものだった。


そこから仲良くなるのはあっという間だった。優といるのは新鮮で面白かった。両親に『僕の頬を殴ったのこいつ!』と紹介した時には優は顔を真っ青にしておろおろして、両親は見たことないくらい口をあんぐりとあけて何も言えずにいた。見たことない三人の姿に大笑いして、そんな僕を見た父さんが優に『もうこの子を殴らないでね』と言いながら頭を撫で『今日はお好み焼きなんだ。君も手を洗ってきなさい』なんて。ごめんなさい、とお好み焼きを食べながら涙を流す優に僕はその日大好きなエビを一つだけ分けてあげた。



「なんか昼はお好み焼きが食べたい気分」

「お、いいね。終わったら行く?」

「いや、母さんに連絡する。スグは何枚くらい食える?」

「・・・たくさん?」

「だよな!」



僕はずっと友達が欲しかった。今隣を歩く高校生になった優を見てやっぱり僕は今世とてもツイてるなと嬉しくなる。


こんなにいい友達、なかなかいない。5才で出会えたんだから最高である




「ほら、碧。学校ついたよ」

「うひょー徒歩はつらいぜ〜これからチャリ、に・・・」

「お、しかも同じクラスじゃない。よかったね。今年一年とりあえずよろしく」

「お、おお・・・」



お好み焼きを催促していたスマホから顔を上げれば言葉が出ない。

県内屈指の馬鹿高であるとは聞いていたがそんなことどうでもよくなるくらいのボロさ。

なぜ学生が過ごせるのか不思議なほど窓ガラスは各所で割れ、外壁も剥げてる。

門から少しだけ見える靴入れも何箇所か蓋がなくなっている。訳がわからない

しかもクラスも二クラスしかない。中学は四クラスあったのに。高校ってそんなもんなのだろうか。まぁ二分の一が外れなくてよかった。ぼっちはつらい




「あれま、蓋がないね」

「いや、お前かい!」


靴しまうのに蓋がないなんて無理すぎる。可哀想なやつは誰だと思っていればまさかの友。ちなみに僕のはしっかり蓋がついてる。なぜか刃物でつけられたような傷があるけどもはやそのくらいどうってことない。


「スリッパ入れる仕切りもないけどよかった。これなら靴が入るや」

「え?!お前なんでハイカットスニーカー履いてきてんの?!ローファーじゃないの?!」

「今はスニーカーの方が多いと思うよ」



仕切りがないとか関係なく靴箱から踵がはみ出た優の靴を見てこいつマジで蓋なくてラッキーじゃん。と感心してしまった。

昔からでかい方がかっこいい!と言いふらしていた自分の足より少し大きめの靴を履いてる僕の影響か優の靴も少し大きい。ちなみに優は僕より背は少しばかり低い。本当に少しだけど


「碧はローファーなんだね」

「学ランにはローファーだろ。かっこいい」

「それも個人的美学?」

「そう。曲げられない僕の美学だよ」



ていうか一週間前くらいに母さんが僕の学生手帳見ながら『まぁ〜靴はローファーかスニーカー。スニーカーはハイカット禁止なんですって』やら『髪の毛は原則黒のみとするなんて碧ちゃんどうするの〜!』なんて言っていた気がする。僕の髪は綺麗な碧色なので心配した母さんが次の日黒染めを買ってきていたから覚えている。


僕は自分の名前が気に入っているのでわざわざ中学卒業と同時に髪を碧に染めたが昔おしゃれができなかった僕は大満足である。今度は赤もいいかもしれない。本当は小学二年くらいで親に髪を染めたいと言ったがさすがに真顔で『禿げるぞ』と宥められた。その日の夜はランドセルを背負った僕が剥げた姿で出てきて少し泣いた。



「教室くらい綺麗だといいな」

「まぁ、さすがに机と椅子は使える状態がいいよね」

「使えない状態って何」



室内履きのサンダルをパタパタ音をさせて廊下を並んで歩く。窓ガラスがほぼ割れているので風通しがいい。僕は重度の花粉症だから少し辛いが鼻水が垂れてたら格好つかないと鼻の薬を飲んできて良かった。花粉の薬より鼻の薬のが花粉症には案外効くんだ



「せめて教室の窓は無事でありますように!」

「ダメだったら明日ビニール袋持ってこようか」



ガラガラガラ。


ガヤガヤと廊下からでも騒がしかった教室がドアを開けた瞬間からピタッと静まり返った。開けた本人である優も動かない


「す、」

「狼谷ィィイ!!!」


声をかけようとした瞬間ガシャンッ!と大きな何かが倒れる音がしたと同時にものすごい勢いで優に右へと引かれた。え?何事?と肩越しに見えたのは大柄な男が拳を振り下ろした姿。

あのままだったら優は殴られ、倒れた体に僕もぶつかっていただろう



「スグ?」


声をかければニコッと笑みを向ける優にあらま。怒ってるなと他人事の僕

なんてそんなこと考えてる間にブチギレ大柄男は優に殴られ吹っ飛ばされていた。その大男の元へ行き馬乗りになって顔をボコボコに殴り続ける優。

そう、優は今もなおやんちゃ坊主なのである。僕や僕の両親には優しいけど普通に不良だし中学の頃だって行き帰りで喧嘩を売られ相手をボコボコにしていた。

優と仲がいいからと僕も一度不良に連れ去られたことがある。変な工場跡地みたいな所に連れて行かれたがまあ無事ブチギレ優により救出された


その後僕は不良に絡まれることは無くなった。



「スグ、もうやめろ」

「・・・クソ雑魚が」


優の肩を叩いて喧嘩を止める。大男は顔面血だらけで気絶している。まわりの生徒は黙ったままだし、ごく、と誰かの唾を飲む音が聞こえるほど静かだ。



なんて学校だ。まだ入学式前だぞ?



「おーい、大丈夫か?おーい!」

「碧、なんでそいつにハンカチ貸すの?俺だって手痛いのに」

「いや、お前ハンカチ持ってんだろ。母さんがうさぎのハンカチ持たせてたのちゃんと見てたからな」

「そういうこと言ってるんじゃない」



生意気な優の相手をしつつ延びてる男の顔をハンカチでふいてやる。鼻血すごいけど骨折してたらどうしよう・・・さすがに過剰防衛だ。喧嘩を売られたにしても優は殴りすぎの拳が赤くなってるだけで傷ひとつない。有罪である



「う、ぐっ・・・ぐ」

「お!起きた!大丈夫か?」

「だ、れだテメェ・・・くそ、触んなチビ」

「僕は決してチビではない」

「碧、やっぱコイツ殺そう。うざすぎ」

「やめておきましょうねまだ初日です」



さすがに初日、しかも入学式前に一人入院、加害者退学なんてなったら困る。僕はぼっちになったら死んでしまう、寂しくて。




「君たち、今から説明したのち体育館に移動します。・・・はやく席につきなさい」



後ろから聞こえた声に振り向けば丸メガネをかけたボサボサ頭のおっさん。スーツはよれよれ。倒れてる男に目を向けるもスッとそらし話を続ける。


こいつ!見て見ぬふりをしやがったぞ!



「ッチ!どけ!」

「あいたっ」

「碧、大丈夫?」

「お、おうともさ・・・」



起き上がるのに僕の肩を突き飛ばして廊下に出ていく大男。席につけと言われたのに、ヤンキーすぎない?

そんな男にふれることもなく『はやく空いてる席につきなさい』とボサボサ頭。教師であろうこの男は僕と優が席に着く前に体育館の場所の説明を始めた。


てか、席ってどこでもいいんだ。普通名前とか番号とかふってあって決められた席に着くとかじゃないんだ。高校ってこんな自由なのか


一人うんうんうなづきながら右から二列目の前から三列目に座る。横で僕の隣の席に座ってる坊主頭を脅して無理やり席を奪ってる優のことは知らんぷりしながら

僕は少しさっきの男が気になった。明日学校に来たらもう一度声をかけてみようと思う。

なんで優に喧嘩をうったのか、名前はなんなのか。




「仲良くなれると良いな。待ってろ大男」

「お人好し通り越してもはや病気だよそれ」




てか、原則黒髪とするってなんだったんだよ。ほぼ金髪じゃねえか






橘碧 たちばなあお 狼谷優 かみたにすぐる

橘翔 たちばなしょう(父)橘咲 たちばなさき(母)

橘翠 たちばなすい(弟)


お好み焼きの中のエビを探して一個あげた

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