第6話「苺が足りない!」
オンラインショップでの初回販売から数日後——農ガールズの元には、嬉しい悲鳴と共に、新たな課題が押し寄せていた。
「ご注文ありがとうございます!次回の販売は来週金曜日。予約開始は水曜日19時からです!」
志帆がSNSに投稿すると、数分でフォロワーたちが反応し始める。
《前回買えなかったので絶対ほしい!》《母の日のプレゼントにします!》
「……すごい反響だね」
ちさとが、スマホを見ながら目を丸くする。
「でも、これ……注文増えたら、うちの苺、足りるかな?」
みのりの言葉に、空気が一瞬止まった。
三人がそれぞれ育てる苺は、どれも品種も育て方も違う。それが“苺三姉妹タルト”の魅力でもあるが、逆に言えば、どれか一人の収穫が不調になれば成立しないということでもある。
「うち、今週の気温でちょっと収量落ちそうでさ……」
ちさとが申し訳なさそうに呟いた。
出荷に追われる日々の中で、手作業に頼る限界も見え始めていた。
「もう少し人手があれば……」
レナが言った瞬間、志帆が手を挙げた。
「実は、農業インターンに興味ある学生さんたちがいるんです。私、大学時代のつてで、ちょっと声をかけてみました」
後日、農園に現れたのは、都会から来た農学部の学生たち。慣れない手つきながら、真剣な眼差しで苗を見つめ、指導を受ける彼らの姿は、どこか初めての自分たちに似ていた。
「若い力って、すごいね」
ちさとが笑う。
「うちらも“育てる側”になったんだな」
みのりは少し照れくさそうだった。
作業効率が上がる中、志帆がひとつ提案を持ちかけてきた。
「今のチームで、農業法人を作ってみませんか?」
「法人……?」
三人は顔を見合わせた。
「このままでは個人事業の枠を超えられません。でも法人になれば、補助金や設備投資の幅も広がります。それに、ブランドの信頼度も上がる」
書類、制度、税金——未知の言葉が並ぶが、志帆の瞳には、迷いがなかった。
「ただの“仲良し農園”から、一歩進みませんか?」
その夜、みのりはノートを開いて書いた。
「農ガールズ株式会社(仮)」
まだ拙い文字。けれど、その筆圧は、未来に向けて力強く刻まれていた。