第17話「注目とざわめき」
白星の発芽から数日後。菜月のハウスには、静かな熱気が広がっていた。
「順調に育ってる……この子、強いかもしれない」
菜月が目を細めて見守る先には、双葉を広げた白星の苗。根の張りも良く、茎も太くしっかりしていた。まるで数十年の眠りから目覚めた命が、その力を証明するように。
「これ、ブランドとして育てられるかもしれないな」
志帆がつぶやいた。
そんな中、地元の新聞社が菜月の白星プロジェクトを取材に来た。記事は小さな地方面だったが、「幻の苺、蘇るか?」という見出しは読者の目を引き、SNSでも少しずつ話題になっていった。
数日後──。
「ねぇ、志帆、これ……!」
みのりが興奮気味にスマホを見せてきた。そこには「農業女子特集」と題されたネット記事があり、その中で「白星苺」についても触れられていたのだ。
しかも、記事のコメント欄には──
《この苺、東京のレストランとコラボしてたよね?》
《どこで買えるの?》
《幻とか言ってるけど、ちゃんと管理されてるの?》
と、好意的な声とともに、疑問や懐疑的な声も混じっていた。
「仕方ないよ、名前が広がるってことは、いろんな目にさらされるってことだし」
志帆は冷静に言った。「でも、疑問に答えるには、“本物”を育てるしかない」
その数日後──。
菜月のもとに、知らないアドレスからメールが届いた。
《初めまして。農業法人・アグリノートの研究開発部に所属している者です。
白星という品種について非常に興味があります。もし可能であれば、一度お話を伺えないでしょうか?》
「アグリノート……」
志帆が名前に反応した。「都内にある農業ベンチャー。資金力も人材も豊富。いわば“農業界のスタートアップ界の星”みたいなとこよ」
「そんな会社が……私たちに?」
「芽を出した白星が、いままさに“価値”を帯び始めてるってことよ」
メンバー全員が集まり、話し合いを重ねた。
話を聞くべきか、それとも今は静かに育てるべきか。
「……でも、私は会ってみたい」
菜月が口を開いた。「私だけのものにしたいわけじゃない。ただ、この苺の“過去”を知ってる人がいるかもしれないし、話せば何かが広がる気がして」
「だったら、行こう」志帆がうなずいた。「うちらが、ちゃんと未来に向き合う番だよ」
こうして、菜月と志帆は東京へ向かうことを決めた。
だが、この決断が、農ガールズに新たな風と波紋をもたらすことになるとは、まだ誰も知らなかった。