表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/192

第90話 戦闘開始

 装備品が格納されている倉庫に向かおうと室長室の出口まで差し掛かったところで、ローラが俺の袖を握りしめて、顔を見上げていた。


「あの……。これ、お守り持って行って」


 それは今日の昼間に俺がローラに渡したお守りだった。


「その……無事に帰ってきてね?」


 自分では、まだ何もできないローラが、何かできることはないかと思い悩んでお守りを手渡してくれていた。


「心配するなって。ただな……」


 俺が言葉を濁してしまったのでローラは首を傾げてしまっている。


「これ……、『学業成就』のお守りだから……、効果どうなんだろう?」


「あう!?」


 この場合って……、どのお守りが良いのだろうか。そんなのが一瞬だけ頭を過ったが、ローラなりに何かをしたくて差し出してきたんだ。受け取らないわけにはいかない。


「ま、後で返すから、今は使わせてもらうか」


 ローラの頭をぽんぽんとして、武器庫へと向かった。






「さて、ワシも現地に向かうかの」


「よろしいのですか? ローラちゃんの近くにいてあげては?」


 室長室には、るーばあ、師匠せんせいと美弥さんのみ残っていた。


「あの町の広大な一区画すべてを人除けやら怪異を出さぬように結界を張り、万が一アレが出て来ぬよう封印を強化して構築せねばならぬ。そもローラの件はワシが持ち込んだ厄介ごとじゃ。功にあそこまで言わせておいて何もせんわけにはいくまい」


 その代わり、やること多すぎて戦闘には参加できんがの。と説明を行い、るーばあは室長室を後にしようとしていた。


「美弥、神屋もローラを頼むぞい」


「ええ。承知しました」


 師匠せんせい達に背を向けながら手を振って、るーばあは単身で封鎖区域中心部へと向かって行った。








 装備品が置かれている倉庫で俺達はその装備を着用していた。鬼子母神の一件では偽ロリに大笑いされてしまったが、駄蛇刀の他に拳銃や先日の演習でも使用したナイフ、防具にはベストや手甲、金属製の脛当て。そして自分用に拵えた対魔用羽織も身に付けていた。


「二人の手甲……、俺のよりごっついな?」


「うん。月村さんがわたし達用に作ってくれたんだ。少し大きいけど重さはそれほどでもないんだよね」


 おそらく忍と美里さんの長所である接近戦の能力を高めるための物であるはず。


羽衣ういのサイズにぴったりの装備があって良かったね」


「ただ……銃火器はちょっと……」


「そこは『風』をうまく使って援護したげて」


  準備を終えた俺達、若輩組は月村さんや応援要請で駆けつけてくれた権田原さんの部隊と共に、封鎖区域に赴いた。










 現地では俺と羽衣うい、月村さんと権田原さん達、レイチェルねーさんと忍&美里さんがそれぞれの迎撃場所で待機していた。

 ねーさんはローラの髪を使用した使い魔を封鎖区域外に数体放ち、奴らをここまでおびき寄せている。

 俺はというと、戦闘になった際に怪異が町に逃走しないように、るーばあが区域全体に結界を張り続けてくれると連絡を受けたので、その他の仕掛けについて説明を行っていた。


「とりあえず、連中がみんなに接近する地点までのルートに捕縛用の術を張り巡らせてもらいました。これで三分の二から半分までは減らせるはずです」


「功……、どんだけやったんだよ?」


 通信越しに忍が信じられないような雰囲気で聞き返していた。


「俺一人だとこの短時間では無理だけど、月村さんや権田原さんの部隊が設置を手伝ってくれたからな。こういった場合の人海戦術ってほんと助かる」


「これも人間の強みってやつだ。統一された意思の元で多数の人間が一体の生き物のように動くのは、人類が積み重ねて来た強者への対抗手段だからな」


 俺達の通信を聞いていた権田原さんが、その心得を解説してくれていた。


 そこから十五分ほどで周囲の雰囲気がガラッと変化する。まるで異界に迷い込んだような異質な空気がその場を支配していた。


「来たか」


「小僧? 一つ聞きたいヘビが……、この悲鳴は気のせいじゃないヘビね?」


 現場で待機している人員&駄蛇の中で幽霊や怪異の声を聞きとれるのは、俺と駄蛇のみ。

 その駄蛇が、かなーり引き気味で俺へと質問をしてきていた。


「坂城。おーい。聞こえっか? 月村が造った霊視機能付きゴーグルで目標を確認しているが……、お前が術でのトラップを仕掛けた辺りで足止めてるぞ」


 権田原さん曰く、檻のような結界に捕らわれているモノ。虎ばさみのような術で動きを封じられているモノ。または地面から伸びて来た鎖の様な魔力で雁字搦がんじがらめにされているモノ。そして地面にめり込むようにされているモノ。

 などなど、ありとあらゆるトラップ用結界術で歩みを停止させられているらしい


「権田原さん、油断しないでください。あんなのは露払いです。強力な奴だけは抜けてきますよ」


くに連中かいいからしたら、小僧の方が悪魔に見えると思うヘビ! 娘っ子を手に入れる為にはるばる来たのに、とんでもねー目にあって悲鳴上げてるヘビ……」


 何故この状況下で駄蛇に批判されねばならないのか。


 そこから更に5分後、トラップを抜けて来た怪異が俺達の前に姿を現していた。見立て通り、150体の約半分はトラップで絡めとられてしまっているようだ。


「……あの悪質な罠を仕掛けたのは誰だ!?」


「ようこそ日本へいらっしゃいました。俺の歓迎には喜んでもらえたようですね。このロリコンストーカー軍団」


(((いきなり無茶苦茶……挑発してる!?)))


 俺の後ろにいる羽衣ういと、通信越しにその言葉を聞ていた面々は、同時に顔が引きつっていたらしい。


「最初は説得するとか言ってなかったっけ?」


「まあ……、とりあえずこっちの力をある程度は見せとかねえと、交渉にはならんからなあ……」


 権田原さんは頬をポリポリと掻きながら、一応は俺の味方をしてくれていたらしい。


「さて……、こちらとしては見ての通り、お前らを迎撃する手筈は整っている。このまま祖国に帰るなら追いはしない。後ろで動けなくなってるお仲間と同じになりたくなければ、回れ右してここから立ち去れ」


 その警告に怒髪天を衝くような怒りの感情をあらわにして、俺へと叫び声をあげていた。


「ふっざけるなああああ!! あの子供を出せ! さもないと……」


「さもないと……何だ?」


「貴様ら全員血祭りにあげ――」


 ヤツが全てを言いきる前に、この場に着いてから収斂しゅうれんを行い、貯めておいた神気を少し開放して無造作に殴り掛かる。


「がっ……!?」


 腹を殴られた奴は蹲り、その隙に鎖状の魔力で動きを封じてやる。


「……これって、交渉決裂で良いんですか? 月村さん……」


 美里さんが不安そうに月村さんへと問いただしていた。


「仕方ないだろ。あっちとしてもトラップにかかった時点でマズいと思ったら、ここまで来てないだろうしな。各自の判断で戦闘行動に移行しろ。ただし戦意の無くなったモノを無理に仕留める必要はない。これはあくまで防衛行動だ」


「「「了解」」」








 仲間をたった一撃で倒され、あまつさえ拘束されてしまった様を目の当たりにした他の怪異たちは少しばかり後ずさっていた。

 それを更に後ろにいた何者かがいとも簡単に引き裂きながら、俺の前に姿を現していた。


「やれやれ……。役に立たんな……。せっかく連れてきてやったというのに」


 ゆっくりと悠然に、まるで散歩でもしているかのような雰囲気を漂わせながら、それは目の前に歩いてきていた。


「人狼……」


「ルー・ガルーと呼んでほしいものですね。あの数で押し寄せれば簡単に事は済むと侮っていたことは謝罪しましょう。しかし、罠にかかった連中や退こうとした者たちは、おまけの様なものです」


 この人狼、おそらく押しかけてきていた連中のなかでもかなりの上澄みと見ていい。仲間がやられる様を目の当たりにして、この落ち着きようだ。


「あなた……、その気配。似ていますね……、あの魔女に」


「わんころだけに鼻が利くな。俺はルーシー・ウィザースの子孫ってだけだが?」


「成程成程。あの魔女の血筋はこんな東洋の島国にまで続いていましたか。しかも強者ときた。面白い!」


 そんな第三者が聞いたら他愛のない雑談にしか聞こえていないかもしれない会話の後、俺は、その神気を全開にして、目の前の人狼との戦闘を開始した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ