表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/191

第89話 出撃前

 すでに室長室へと集合していた面々を一目し、師匠せんせいは重苦しく口を開いていた。


「全員、この新年早々に迅速に集合してくれたことに対して感謝する。今、室長室にいる者達だけでなく、後方支援を担当する者もだ」


 当然ながら、今回の案件に関しては現場で動く者だけでなく、このビルでの情報収集および解析などの後方支援を担当する人間の総員で当たることになる。

 この組織の長である師匠せんせいは、館内放送でその全員へと呼び掛けている。


「海外から襲来した怪異は、現在……室長室にいる少女を狙っているものと思われる。これから情報を整理し、各員へ通達する」


 そこまで言い終えると、師匠せんせいは俺達の方へと向き直っていた。


「ローラちゃんが日本にいることについて流出した原因は……、これだな?」


 師匠せんせいが俺達に対して向けていたのは、クリスマスライブ当日にローラがひったくりを投げ飛ばした後に、誰かがその場面をカメラで撮り、SNSに投稿した画像だ。


「でしょうね。まさかここまで動きが早いとは思いませんでしたが」


「そんな……。こんなので……」


 冷静に議論をしている俺達を他所にローラのみ真っ青な顔になっていた。


「そう落ち込むでない。この現代社会において完全に身を隠すとなれば、文明を拒絶しているような未開の地に行くしかないからの。遅かれ早かれこうなっておったじゃろ」


「そゆこと。それを見越して、この偽ロリは日本にローラを連れて来たんだから、そこまで気にすんな」


「うむ。むしろ、ひったくりを功がうまく捌いておれば良かったのじゃ。ローラの責任ではない」


「そうだね! ほんとにごめんなさい!」


 俺が少しばかりヤケクソ気味に謝罪すると、その場の大人達から、くすくすと笑いが零れていた。


「それで……数はどの位なの?」


 ねーさんが今回の案件についての詳細を知りたいようだ。


「それはもう少し待って――」


 美弥さんがそう言いかけた時、見覚えのある幽霊が俺達の後ろへと、その姿を現していた。


「それはそれがしから報告させてもらおう」


「おわ!? 小学校の忍者霊!?」


「まーた変なのが来たヘビ。蛇が通訳してやるヘビ。娘っ子(ローラ)、実体化を頼むヘビ」


 忍が突然現れた小学校の七不思議兼、『花子新聞』の記者として活躍している忍者霊のにんさんに驚いてはいたものの、やはり彼の隠形おんぎょうは常軌を逸した能力である。この場で声を掛けられるまで、おそらく師匠せんせいと偽ロリと俺以外の人間は認識できなかったはずだ。


「にんさん、突発的な依頼をしてしまって済まない。……で、規模はどの程度?」


 先ほど、ねーさんに頼んで飛ばしてもらった使い魔には、にんさんへの依頼を手紙にしていたのだ。忍者だけあって迅速に対応してくれた。


「怪異の数、約150体。百鬼夜行もかくやといった仰々しさですな」


「大群で来てくれたもんだ。こんなのにモテたってローラちゃんも困るだろうに」


 月村さんも襲来した怪異に対して苦言を呈している。


「150体ね……。家の中から視た感じ、本当に強力なのは数体ってとこだったかな」


「確かに……、わたしでもそうそう遅れをとることは無さそうでした」


 ねーさんと羽衣ういも先程、実力行使で家から突破しようとしていたので、その考えに至ったらしい。


「とはいえ、散り散りになって広い町中で戦闘ってわけにもいかないわ。一般人もいるから」


「そうなると……、封鎖区域におびき寄せるのが良さそうですね」


 美弥さんと俺が目を合わせて同じ結論に達していた。ローラのみ話について行けずに目をぱちくりしている。


「それって……?」


「ローラが霊視を覚えた辺りで、立ち入り禁止になってた場所に行っただろ? あそこだよ」


「あそこって……。そのための場所だったの? 不発弾でじゃくて?」


 その事実に対し、ローラだけでなく忍や美里さんも驚愕の表情を浮かべている。


「そうじゃ。そして、六年前にワシらが激戦を繰り広げた地でもある」


「噂には聞いていましたけど……、前室長が現役だった時に対策室が壊滅寸前まで追い詰められたって……」


「それはもう封印してあるからの。余程のことがない限り出てくることはないだろうて」


 そこまで話すと全員が室長の方を向く。あとは室長の命令を待つだけだ。


「戦闘準備後、封鎖区域で相手を迎え撃つ。権田原二尉にも応援要請。レイチェルは使い魔で怪異を誘導。功はその間、戦闘場所に好きなだけ仕掛けをしておけ。その他は封鎖区域にて戦闘に備えろ」


「お父様……? わたしも行きますよ」


 本来なら羽衣ういは対策室の一員ではないので、この戦闘に付き合う義理は無い。しかし。彼女からは自分もついて行くといった強い意志を感じる。

 すると、師匠せんせいはスッと立ち上がり、羽衣ういに自分の刀を手渡していた。


「なら、これを使いなさい。我が家に代々伝わる霊刀だ。必ず助けになってくれる」


 それを羽衣ういが受け取ると、今度は俺の方を向いている。


「娘をよろしく頼む」


「マズいと思ったら、すぐに逃がしますよ」


「本当にそうなったら、二人で撤退しなさい。いいな? その後は大人に任せればいい」


 師匠せんせい羽衣ういだけでなく、俺の心配をしているようだ。


「そうならないように頑張りますよ。大体、師匠せんせいの方が、アイツらより100倍はおっかないですしね」


 そう返すと、周りからまたしても笑い声が聞こえてきていた。多分、俺を子供の頃から知っている人達からすれば、その通りだということだろう。


 これから装備を整えて、出撃だと言ったところでローラが不安そうに俺の隣まで来ていた。


「わたしのせいでこうなったのに……、何で誰も怒ったりしないの……?」


「どうして怒るんだ?」


「だから、わたしのせいで――」


 そこまで言いかけたところで、片膝をつき目線を合わせながらローラの唇を人差し指でそっと抑える。


「そもそも、俺やねーさんもだけど、運悪くあの偽ロリの子孫に生まれついて、更に運悪く、のじゃロリの能力の一部が遺伝しちまっただけだ。誰も悪くないだろ。強いて言えば、そうならないように処置しなかった破天荒ロリが悪い!」


「おー。言ってくれるの。この雲孫うんそん。さっきの写真の件での仕返しかの?」


 少しばかり俺を責めるような視線を送っていた偽ロリは無視し、更に続ける。


「突然、日本に来ることになって、あんな連中と戦うすべを教わることになったんだ。ローラみたい普通に暮らしていた子が親元から引き離されて……な」


 この場の全員が俺の言葉を無言で聞いてくれていた。


「今まで本当に頑張ってただろ。帰りたいと思ったことだってあっただろ? だったら、アイツらを説得して諦めてもらうか、二度とローラに手を出す気にならないようにボコれば、それで元通りだ。後は俺らに任せろ」


 そこまで口にしたところで、ローラが大粒の涙をボロボロと流して大声で泣きだしてしまった。


「う……うわあああああん!」


「これじゃ俺が泣かせたみたいだなあ……」


「だって……だって……ひっく」


 そのやりとりを見ていた面々、特に忍と美里さんも、もらい泣きしてしまったらしい。

 そして、俺が携えていた駄蛇刀から顔を出している駄蛇がローラを慰めていた。


「娘っ子、泣くなヘビ。あんな無礼者どもは蛇がケチョンケチョンにしてやるヘビ」


 この駄蛇はどうやってそんなのやる気なのだろう?


「大体、この國に来るのなら、娘っ子の國で作ってるロマネコンティやクリュッグを手土産として持参して地べたに頭を擦りつけながら……、大蛇様この地に足を踏み入れることをお許しくださいと懇願しなければならないヘビ。それもできないなら死あるのみヘビ!」


(((この蛇はこのなりで、どうしてこんなに偉そうなんだ?)))


 この場の人間全員が視線で駄蛇にツッコみを入れている。

 ちなみにロマネコンティやクリュッグは、とてもとても値の張るワインやシャンパンである。


「というわけで、終わったら小僧はその酒を蛇に捧げるヘビ」


「あ、俺は基本バイト扱いだから、偽ロリが買ってくれるってさ」


 駄蛇の希望を偽ロリにキラーパスしてやる。すると偽ロリの顔が引きつっていた。


「功、それ酷くないかの!?」


「だって、俺は二十歳未満だからお酒が買えないんだ。そこは大人の役目だろ」


 これから出撃するといった場面で、このやりとりなのだ。


「ヘビさんもコウもルーシーもおかしいって!」


 さっきまで大泣きしていたローラも俺達の漫才みたいな会話で笑顔を見せてくれていた。

 やっぱりこの子には笑顔が良く似合う。

 これは気合を入れていかなければと気持ちを新たにするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ