第88話 新年の大騒動
クリスマスライブから数日経ち、今日は元旦。ウチの偽ロリはどこからか持って来た女子全員分の着物を彼女らに着せ、新年の挨拶をしていた。
「「明けましておめでとうございまーす!」」
「あ……あけまして? おめでとうございます」
ローラのみ日本式の新年の挨拶に慣れておらず、たどたどしく挨拶をしている。
「明けましておめでとうございます」
俺も四人に挨拶しながらぺこりと一礼。そのまま偽ロリを真剣な眼差しで見詰め、一言。
「おばあちゃん! お年玉おくれ!」
それに対して、目を逸らしながら申し訳なさそうに、偽ロリは釈明を口にしていた。
「済まぬ……。子供達の着物を調達するためにカツカツになってしもうての。この綺麗どころの着物姿が……、お年玉という事にしてくれい」
だろうね! どうせ貰えないと思ってたけど、言ってみるだけタダだから試しただけさ!
「オトシダマって何?」
「日本では新年に大人から子供へ、お金を渡す風習があるんですよ」
「はえー。そうなんだ」
お年玉について知識のないローラに対して羽衣が説明をしてくれていた。
「では蛇にはお年酒を渡すヘビ」
「そんな風習は日本には存在しない」
「だったら、今作るヘビ!」
この駄蛇は新年迎えてもいつも通り過ぎる。
俺と駄蛇のやりとりを笑いながら眺めていたねーさんから、お出かけの提案があった。
「じゃあどうする? このまま初詣に行ってみる? 神社にお参りだよ」
「良いですね。兄様も行きましょう」
着物姿の羽衣が俺の服の袖を引っ張って、そのまま近くの神社へと繰り出すことになった。
神社ではお参りの他に、おみくじを引いたり出店を周ったりと楽しい時間を過ごし、家に帰る。
すると、留守番していた偽ロリが俺宛の宅配便を受け取ったらしく、その箱を俺へと差し出していた。
「おっ。届いたのか。意外と早かったな」
「ワシ宛の酒のお歳暮かとも思ったのじゃが、やけに軽かったでな。しかも神気を感じるしの」
「どこの誰がお歳暮で酒を送ってくるんだよ。これはローラと羽衣のだ」
「わたし達の?」
二人は不思議そうな表情を浮かべていたのだが、箱を開けて中身を彼女達に手渡す。
「これ、お守りですか?」
「ああ。学問の神様を祀ってる九州の神社から送ってもらったんだ。もうすぐ受験だしな」
「コウ、ありがとう!」
荷物の中身の説明を終えると、偽ロリがまじまじとそのお守りを観察している。どうやら気になることがあったらしい。
「……このお守り、量産品とかではなく、地元の術者がきっちり作り出したやつじゃな?」
「流石に分かるか。そこの神様の力も申し訳程度だけど宿ってるはずだ」
「ほーう。ふーん。なるほどのぉ……」
ニヤニヤしながら何やら言いたげな偽ロリに少しばかりカチンと来てしまった。
「なんだよ?」
「いやの? 姉大好き系シスコンだとは思うとったが、妹大好き系シスコンにも足突っ込んどったんじゃなー……と」
「誰がシスコンだ! 誰が!」
思わず否定してしまったが、それに対して更なる否定がローラ以外の二人から飛び出ていた。
「コウって、十分シスコンだよ?」
「そうですよ。一般的な感性から言えばシスコンだと思います」
なん……だって!?
「ここの家は女所帯じゃから、仕方ない気もするがの。こんなにも可愛らしい姉妹同然の娘達がおればシスコンにもなろうというものじゃ」
「では、わたしは違いますよね。血縁はありませんから」
羽衣のみ自分の優位性を主張してはいるが、そこにねーさんからの反論があった。
「羽衣だって義妹になってたかもだから似たようなものだと思うよ。幼馴染って意味だと、あたしと変わらないしね」
「そ……そんな……!?」
ねーさんの意見に愕然としていた羽衣であった。
「なあ? 何で新年初っ端からシスコン談議になってるんだ?」
「お主がお守りなんぞ発注したからじゃろ。しかもオーダーメイドの特注品を」
「それだけでシスコン扱いした偽ロリが悪い!」
などなど新年から我が家は騒がしくなっていたのであった。
その夜、トイレのために目を覚ましたローラが窓の外を向くと――
「ひっ!?」
「あまり騒ぐな。この家は安全だから」
悲鳴を上げそうになっていたローラの口を塞ぎ、落ち着かせた後で手を放す。
「あれ……あれ……は!? わたしのお家に来てた……!? あの時は視えなかったけど、同じ雰囲気の……」
家の門周辺には凄まじい数の怪異が群れを成して押しかけている。幸い、数体が門を潜ると発動するトラップ型結界に引っ掛かってしまったようで、それを確認した他の怪異は門を通ることを躊躇っているようだった。
おそらく、ローラが口にしていた『わたしのお家』はここではなく、フランスで暮らしていた時の家のはず。
家を取り囲んでいる連中の視界に入らないように居間へと向かうと、全員が異変を察知したらしく集合していた。
「コウ、どうする? あたしの能力で強制的に道を切り開く?」
「わたしも一緒にやれますよ」
「ねーさん、羽衣も待って。住宅街で騒ぎもマズい。こんな時のために、この家にはこんなのもある」
居間のカーペットをずらしてやると、地下に通じる扉が姿を現す。
「ねーさん、使い魔で連中の注意を引き付けてもらえるか?」
「ん。ローラ、悪いけど髪の毛ちょっとだけ頂戴」
ねーさんがローラの髪を数本だけ引っ張って千切ったあとで、形代と髪の毛でローラと同じくらいの背丈の使い魔を作り出していた。本人の髪を使っているだけあって、怪異からすればローラに近い気配に感じるはずだ。
その使い魔を外の地下通路出口の反対方向へと放ってもらい、俺達は地下へと降りる。
「コウ……、何で……日本に……あれが……」
恐怖でブルブルと震えながら歩いているローラだった。
「とりあえず詳しい話は後。対策室のビルに行く」
「そうじゃな。全員警戒を怠るでないぞ」
偽ロリの一言に、地下通路出口を出る前の俺達全員が頷く。こちらの思惑通り、怪異たちは使い魔の方を追って行ったらしく、周辺に気配は無い。
好都合なので、少しだけ手を打たせてもらう。
「悪い、ねーさん。この小鳥の形代の使い魔をローラの学校まで飛ばしてくれ」
「りょーかい」
その小鳥の使い魔が飛び立ったのを確認し、再び対策室へと向かっていった。
特に戦闘になることもなく対策室のあるビルに辿り着いて中に入った瞬間、待ってましたとばかりに月村さんが俺達を出迎えてくれていた。
「早かったな。もう少しかかるかと踏んでいたが」
「月村さんこそ。まだ連絡してなかったはずなんですけどね」
「外国から日本に降り立つ航空機に相当数の怪異がへばりついてたって報告があってな。これはと思い至って美弥と一緒に来たわけだ」
月村さんの傍らには奥様である美弥さんの姿もある。
「みんな、とりあえず入りなさい」
美弥さんを先頭にして室長室の中へと通される。師匠は不在であったが、そこから十分ほど待つと忍と美里さんが合流。
そして更に十分経過したあたりで、師匠も室内に戻ってきていた。
「さて、戦闘可能な人員も集合したことだし、まずは状況を整理しようか」
真剣な眼差しの師匠が、全員に向かってそう言葉を発していた。




