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第85話 決着

 距離を取りつつ偽ロリの使い魔と対峙する。俺が様子を伺っているのを認識している様に、あちらも俺らから視線を逸らさずに微動だにしていない。

 いきなり仕掛けてくるかも……と考えていたのだが、そこまで迂闊ではないらしい。


「おい……、あいつ、動かないぜ?」


 忍も銃口を相手に向けながら警戒していたが、俺と対峙してる使い魔の様子を観察しながら、そう呟いていた。


「対策室のルーキー、そいつはちょっと違うぞ」


 その場に残っていた権田原さんが忍に対して説明を始めていた。


「坂城の位置はおそらく、あの……使い魔だか化け物の間合いの一歩外側だろうよ。そこからヤツが攻撃しようとすれば、どうやっても動きを悟られる。そっからの坂城の攻撃を警戒してるぜ、ありゃ」


 とりあえず、俺の役目は足止めとヤツを捕縛して動きを封じること。そのために必要な事を順次こなしていく。


 俺が自動小銃の銃口をヤツに向け、そのまま引き金を引く。足元、胴体、頭部などの全身に向けて弾丸を発射する。


 ……とりあえず軽微だがダメージは通る……か。頭部と胸部に関しては防御したということは使い魔を創造している核になっている物のような弱点がある可能性が高い。


 ヤツの行動を後ろで観察していた隊員の方々も通信で情報共有を図っているようだ。


「グルルルル……」


 唸り声をあげて使い魔が迫りくる。そのスピードは予想していた通り、俺との間合いを一瞬にして潰す。

 ヤツが足を踏み込む前に弾切れになっていた自動小銃を投げ捨て、装備品として渡されていたナイフを抜き放つ。


 これらの装備は量産品とはいえ月村さんが考案した物ではあるので、ある程度の対魔戦闘にも耐えられるはずだ。

 自分用の拳銃だけは持って来ているが、本当ならフル装備と馬鹿にされた際の駄蛇刀や羽織もあったりすると便利だったのだが、無い物ねだりをしても仕方ない。


「ちょ!? 何か援護しなくていいのかよ!?」


 忍が単身で使い魔と戦う俺を目の当たりにし、少しばかり困惑していた。


「つってもな……。ここからの射撃じゃあ坂城まで巻き込んじまう」


「そこは全員で接近戦すれば……」


「それこそアイツの邪魔になっちまうぞ? お前らの助けが必要になる時には、ちゃんと合図を出すだろうさ。それまでは相手を観察しとけ」


 銃口をこちらに向けて、その時を待つ面々を背にしながら俺は使い魔の攻撃を捌いていた。

 四肢の先から生えている爪に抉られては俺も隊員達も無事では済まない。それを紙一重で躱し、時にはナイフで受け流しながら、相手の隙を伺っている。


 ……思っていたよりも攻撃が重い。しかもご丁寧に物理干渉までできるようにしているとか、あの年寄り達……、容赦ねえ!?


 こちらはナイフを装備しているとはいえ、体格は相手が圧倒的に勝る関係上、間合いはあちらが広く、こちらの攻撃はほとんど有効にはならない。


 ……師匠せんせい羽衣ういみたく『鎌鼬乱舞』でも使えればヤツにダメージを通すことも可能なんだが……。


「……あの攻撃を捌ききってる!?」


「対策室のルーキー供、お前らだって術者の端くれだろ。坂城のナイフをよく観察してみな」


 権田原さんの言葉の通り、二人は俺の握っているナイフに対して目を凝らしている。


「ナイフが完全には相手に触れていない?」


「俺は術にはそこまで明るくはないが……覚えは無いか?」


 そこまでで二人は、はっとした表情を浮かべていた。


 そう神屋家秘伝の『風薙斎祓かぜなぎさいふつ』。その基本的な技能の一つだ。ナイフの刃に風を纏わせて、相手に直接触れさせずに破損しないようにしている。

 それでどうにか耐久戦ができてはいるのだが、その間にふと昔の事が頭を過ってしまった。





 ――功、お前ぇは二度とあんな真似はするな。あんなのは命の投げ捨てでしかねえからな。


 それは六年前の戦いで回復してから彌永いよながさんに懇願にも似た説教をされていた。


 ――確かに、あの時はお前のおかげでどうにかなったがな。あんなのは勇気でも何でもねえからな?


 彌永いよながさんは片膝をつき、俺に目線を合わせながら肩に手を置きながら語っていた。


 ――どれだけきつくても苦しくても耐えて耐えて後ろの人間に繋げるんだよ。それだって勇気なんだぜ。


 その言葉に対して俺は何も言えずに彌永いよながさんの眼を見続けるしかなかった。


 ――それにな。オレは大人になったお前とも一杯飲みてえんだよ。そのくらい叶えてくれたってばちは当たらねえだろ?


 人懐っこい笑顔でそう言ってくれたことを今でも鮮明に思い出せる。







 ああ……。分かってる。俺だってあの時のままじゃない!


 ヤツの攻撃を弾きながら後退しつつ、ナイフの刃先をヤツの足の爪の目掛けて全力で投擲する。

 そのナイフも弾かれたが、ヤツの爪にはヒビが入っている。


「縛魔・錬巻鎖れんかんさっ!」


 魔力を使って二本の鎖を作り出す。それぞれをヤツの両腕に巻き付けて、もう一方の鎖の先を忍と美里さんに投げ渡す。


「二人とも、その鎖に魔力を流して維持。俺は後退してヤツの捕縛のための結界を構築する」


「俺らはどうすりゃいい?」


 権田原さんからも指示するように要請があった。


「俺の拳銃の発射後、目標に向かって一斉掃射を。数秒時間を稼いでください」


「おう! 聞いたな。お前ら!」


 それに合わせて、隊員達が自動小銃の引き金へと指を添える。


 俺は後ろに飛びながら、左足太もものホルダーにある銃を左手で掴み、そのまま6発をヤツに向かって放つ。

 それはヤツに命中せずに地面へとめり込んでいる(・・・・・・)


 俺が権田原さん達の位置まで下がると同時に、隊員全員での一斉掃射が開始される。銃声が辺りに響き渡る。ヤツにとっては大したダメージにもならない攻撃ではあるが、それでも自分の敵と認識をして、足を踏み込みこちらへ一足飛びで接近しようとする……が――


「そのスピードを産み出す脚力なら、足にかかる負担は相当だろ? たかがヒビだと思って油断したな」


 先ほどナイフでヒビを入れた足の爪がヤツ自身の脚力によって完全に破壊されてしまっていた。

 予想しない傷、そして一斉掃射のせいでヤツはその場に数秒その場に釘付けとなっている。


「捕縛用の結界起動」


 その様子をモニターしていた屋内の面々から、特にローラは驚きの連続であったらしく、色々と思い出すこともあったようだ。


「あの銃弾って、確か結界の起点にするための物って……」


「ん? 覚えておったか。普通なら跳弾でどこかに行きそうなものだがの。そこは真司がうまいこと作ったようじゃな」


 のじゃロリも真剣な表情のまま俺らを見守りながら、ローラに説明を行っていた。


「コウ……、右利きだったはずなのに、いつの間に左手でもあんな?」


「功は元来、お前みたいに戦闘向きじゃあねえ。手札を増やすのに色々とやってたんだぜ」


 ねーさんの疑問には彌永いよながさんが感慨深そうに答えていた。

 

 そうして捕縛が完了した現場では、権田原さんから更なる指示が出される。


「よし。坂城が結界を維持している間、あいつを囲んで護衛。敵さんが追加される可能性だってあるからな」


「「「了解」」」


 その指示に一班の人員が俺を囲んで護衛をしてくれていた。俺の死角になりそうな場所にも目を光らせてくれているので、何かあっても即座に対応可能なのは大きい。


 その数分後、月村さんから通信が入る。


「こちらは準備完了です。位置を送りますから、射線軸からを退避をお願いします」


「了解した。カウントダウン頼むぜ」


「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、……0」


 ゼロカウントとなる前に、全員がその場から退避する。それと同時に――


 バアン!!


 拳銃や自動小銃とは比べ物にならない程の巨大な銃声が辺りに響き渡る。


「ガッ!?」


「胸部への直撃と貫通を確認。もう一弾、発射する」


 月村さんの連絡でまたしても響き渡る銃声。そして今度は弾丸が使い魔の頭部を吹き飛ばす。

 その後、警戒していたがヤツが戦闘を続行する気配もなく、魔力の塵となって周囲に霧散していった。


「対魔用長距離大型狙撃ライフル、『ハヤブサ』。銃身に取り付けた『包気晶ほうきしょう』に込めた魔力を発射する弾丸へ移して標的を撃ち抜く。実験兼実戦使用での効果も確認できた。まずまずってところだな」


 弾丸が発射されたビルの屋上からは、月村さんが使用した身の丈ほどもあるライフルの銃口から硝煙が立ち上っている。








「ちょ……!? ねえ、アレ何!? あんなのアメリカでも見たことない!?」


「意外だな。あっちの技術者の方が、兵器との融合とか早そうなもんだが」


「むー……。あっちだと噂くらいは聞いたことあるけど……、ルーの使い魔を倒せるくらいって、そこまでのじゃなかった」


「まっ。そこらは月村の功績さ。あいつだって遊んでたわけじゃないってことだ」


 のじゃロリの使い魔を倒すまでの一連の流れをモニターしていた屋内の面々、特にレイチェルねーさんからは、驚愕の声が上がっていたらしい。

 そんな中、偽ロリが彌永いいながさんに微笑を浮かべながら話しかけていた。


「演習は今日で終わり。明日はクリスマスイブ、うちはクリスマス当日にパーティーをするからの。20年もののヴィンテージワイン開けるから、一緒に飲まんか?」


「ああ……。そうだな……。お邪魔させてもらうぜ……」


 少しばかり目に涙を滲ませていた彌永いよながさんは、満足そうにその誘いを了承していた。

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