第84話 訓練中のハプニング
「隊長……、彼らは一体何者なのですか? 先ほどの隊長ではありませんが、実質4名のうち高校生が3名の集団に、あそこまでの損耗を強いられてしまうなんて考えてもいませんでした……」
反省会後、演習に参加していた自衛隊員の一名が、信じられないといった雰囲気で伏し目がちに、そう疑問を口にしていた。
「お前はこの部隊に来て日が浅かったな。確か家族が怪異に襲われて、それがここに来るきっかけになったんだっけか」
「はい。その際は現室長の神屋氏に助けていただきました。もう数年前ですが」
その隊員の言葉に権田原さんも答えを返していた。
「その時、一緒に子供がいなかったか? もしいたのなら、その子供があいつだ」
権田原さんは何やら視線をこちらに向けている。どうせ俺の碌でもない噂話でもしてるんだろう。
「たまーにウチに来た時は揉んでやったもんだがな。それだけじゃねぇ、対策室でトップの術者達から鍛えられてきた奴だ。並の戦闘能力じゃねんだよ、あの野郎」
「あの歳で……末恐ろしいですね……」
「噂だと今の日本の若手じゃあトップクラスの術者って話だぜ。各地の術者が対応できない厄介案件を請け負う対策室で、13歳にして単独任務ができたくらいだからな」
権田原さんの説明にごくっと唾を飲み込んでいた隊員であった。
その一方、俺と月村さんは会議室にて口論中となっていた。
「真也には僕が作ったオリジナルの特撮ヒーローっぽい変身ベルトをクリスマスプレゼントにする!」
「っぽいって何だよ!? 変な機能つける気だろ! 何の変身ベルトかも分かんないのあげてどうするんだよ!? ここはオーソドックスに戦隊ヒーローの合体ロボのおもちゃとかで良いだろ!」
もうすぐクリスマスという事で、月村さんの息子さんである真也へのプレゼントについて協議し合っていた。それを見た先ほどの隊員さんは、ポカンとしている。
「あの人が……ですか? 日本の若手トップ層……?」
「凄まじく遺憾だが……そうだ」
権田原さんは頭を抱え、隊員さんは信じられないものを見る目となっていたらしい。
次の日、前日と同じ演習後にそれは突然起こった。
不審な気配を察知した俺と月村さんの表情が同時に険しいものとなり、その場の全員へと向かって叫ぶ。
「全員、その場から退避しろ!」
「警戒しつつ、銃火器は実弾を装填しておいてください!」
その気配のした方へと目を向けると、人をゆうに超える巨大な獣のような存在が出現していた。その巨躯から覗かせる巨大な牙や爪には人を簡単に貫くことが可能であり、筋肉質な脚の前には人の脚力では成す術もなく追いつかれる。
その場にいた全員がそれを目の当たりにし、緊張が走る。
「功、これは……?」
「偽ロリの使い魔ですね……。けどこのタイミングって……」
確かに偽ロリには演習用の仮想敵を出してくれるようにお願いはしていた。しかしこのタイミングで来るとは誰も聞いていないはずだ。
周囲を見渡しても、この状況を知っていたような顔をしている人間は皆無だ。そして、こんな事をしてきそうな人に心当たりがありすぎた。
「疲労困ぱいの状況でどこまでやれるか……とか……」
「突発的な接敵での戦闘訓練やらせそうな人は……」
俺と月村さんの思考が一致する。それと同時に、これを仕掛けた張本人への罵倒を叫ぶ。
「「彌永さんの鬼いいいい!」」
俺達の声が完璧にハモってしまう。その頃、屋内にてこれを仕掛けた面々はというと――
「今頃、非難轟々《ひなんごうごう》だろうなあ……」
「まあ、大怪我する事はあるまい。あの二人が揃っておるし、無理と判断すれば、ワシの使い魔を拘束して撤退くらいは可能じゃろ」
お年寄りコンビは、お茶をすすりながら、そんな会話をしていたらしい。
「ヘビさん届けた方が良いんじゃ……」
現在、駄蛇も待機組に混じり、一緒にお茶とどっかの基地名が入っているサブレを口に入れて舌鼓を打っている。
ローラのみ訓練とはいえ突然の出来事にあたふたしている。
「嬢ちゃん、少し落ち着けって。刀一本無いくらいで駄目になるような鍛え方はしちゃあいねえ」
「彌永よ。アレ結構強い奴を出したのじゃが……、お主も結構なスパルタよの」
「このくらいクリアできなきゃ……、これから先やっていけねえだろ」
屋内の客間でそんなやりとりがあった頃、俺達と自衛隊の部隊は使い魔に対して銃口を向けながら後退して距離を取る。
「坂城、月村。どうだ?」
「現状だと火力不足です。目標を拘束してから撤退を推奨します」
相手と自分達の戦力差、そして自分達の消耗を加味したうえでそう進言すると、権田原さんはニヤッと笑みを見せつつ俺の肩を組みながら、こう口を開いた。
「優等生の返答だな。それ自体は悪かねぇ。実際、実戦ならその判断もありだろう。相手の動きを封じ時間を稼ぎつつ、撤退してから対策を練るのもな」
権田原さん、これはやる気って事なのだろうか?
「だがな。これは訓練だろ? ならもし負けたところで次はある。お前の見立てだと長期離脱や再起不能、死亡はありえそうか?」
「アレは、ウチの偽ロリが使える中でもかなり上位の使い魔ですが……、そこまでにはならないように加減できるようにはなってると思います」
俺の推測にまたしても笑みを浮かべる権田原さんだった。
「ならよ……。負けても次に繋がる経験になる。勝てたとしたら、彌永さんやあの魔女さんの鼻を明かせる。どっちにしたって俺らの得しかねえよなぁ?」
「先輩……、やる気ですか……? はあ……」
月村さんが溜息をつきながら、彼の意思を確認している。とはいえ、俺としては無策で戦うのは避けた方が良いと考えている。
「功、お前の言いたい事は分かる。だが、先輩はこうなったらテコでも動かないからな。こうなったら丁度良い。ここに持って来ていた武装を試してみるか。本当はお前の結界ぶち抜けるかを試す気だったが、良い的が転がり込んできたしな」
もう月村さんでさえ、その気になってしまっている。
「でしたら狙撃手は誰がやりますか? 俺はここで足止め役しなきゃなので無理です。忍や美里さんだって銃火器の扱いは慣れてません」
「そこは……、部隊の誰かと言いたいところだが、僕が担当しよう。何せ作ったのは僕だから。この中じゃ一番あの武装を理解している」
そこまで話が決まったところで権田原さんが全員へ指示を出す。
「よし! 月村には二班随行。武装の運搬と狙撃までの護衛と準備! その他は術者による目標の足止めを援護だ」
その声と共に部隊が二つに分かれる。その一方で屋内にいた使い魔の主もその光景をその場の人間に伝えていた。
「ほう……。やり合う方を選択したかの。あの隊長、印象の通りの豪胆さよな。何者じゃ?」
「高校時代、月村夫妻と一緒に怪異が絡んだ事件に巻き込まれたらしいがな。まっ……、そん時は美弥君がどうにかしたらしい」
「お主のとこの人間は良い縁に恵まれておるの。そこは本当に羨ましいぞい」
「勝つにしろ負けるにしろ、どうやって戦うかは見ものだな」
年寄り連中は俺達を期待しながら見守っていたのだそうだ。
その一方、レイチェルねーさんとローラは――
「コウ大丈夫だよ……ね?」
「あたしも参加しちゃ駄目なのかな……」
などなど、かなーり心配していたらしい。




