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第8話 ローラの選択

 お座りしているワンコ霊に二礼、そして周囲に音を立てないよう柏手を二回行い、最後に一礼。

 先日、朝に見かけたときや、化生に飛び掛かった時に比べ、明らかに穏やかな顔をしている犬の霊だった。


 「簡単なものしか用意できなくて悪いな」


 そうして取り出したのは、小さな器に入った米や酒、塩などだ。それを犬の前に置き、祭詞を読む。

 その最中、頭を過るのは、遠い日のルーシーの言葉。


 ――お主という人間は、生者と死者、生と死の相違すら曖昧なまま、この世に生を受けてしもうた。お主にとっては生者も死者も同等にしか認識できん。

 だからの。お主はそれを学ばねばならん。それができねば……、お主はこの世界でまともに生きていくことすらできぬ。

 ワシと共に来るか? 少なくとも、その程度は教えられるぞい。


 幼い俺はルーシーから差し出された手を取り、そして――


「おーい! はよ終わらせんか!」


「……祭詞を途中で遮るな。犬一匹とはいえ、送ってやりたいから静かにしてろ」

「おこかの?」


「…………」


 俺が本気で怒っているのを察したのか、いつの間にか乱入していたおロリ殿は黙って目を閉じ、祈るように手を合わせている。行儀よくしているのならそれで良い。

 そうして少しすると、周囲が澄んでいくような感覚を覚える。


「……? すごく空気が綺麗になってるような?」


 ローラも一緒にいたらしい。というか、パジャマのまま連れ出してやがった。後でルーシーを説教しなければ。

 そんな俺のイラつきとは関係なく、ルーシーが解説を小声で始めていた。


「功はの。生まれつき、霊やそれに類するものを『見て』、『触れて』、『会話までできる』のじゃよ。そして、この国ではあらゆるものに神が宿るとされておる」


 ローラさん、おそらく半分も分かっていないとは思うが、真剣に耳を傾けている。


「『会話』……、つまりは意思疎通じゃな。その辺に宿るとされる神……、まあワシからすれば神と呼べるかは分からぬが、それらから少しずつ力を借りることができるのじゃよ」


 このロリ魔女、()()はそんなに見ていないはずなのに、すぐに看破しやがったよ。


「あの……、犬って千佳ちゃんのお家の?」


「ああ……。『道』はできた。あとはあのワンコが行くだけだ」


 一通り手順を終わらせた俺がローラの問いに答える。


「そこにいるの?」


「ん? まだいるな」


 ローラは霊を視認できているわけはないが、俺が周囲に張り巡らせた気については察知できていたようだったので、その辺はあのロリ婆の子孫といったところだろう。


「コウ? どの辺にいるの?」


「んー? この辺だな」


 ローラの手を取って、犬の霊がいるあたりに導いていやる。今、彼女の手は犬霊の頭を撫でているような状態だ。

 犬霊はやはり最初にあった時に比べて、かなり大人しい。あの時は主人達の危機ということで、気が立っていたのだろう。せっかくなので最後くらいは撫でてやりたいなと俺もワンコの頭に手をやると――


「ガブッ!! ガウガウ!!」


「いってえええええええ!?」


 思いっきり力いっぱい噛まれてしまった。その光景を目撃し、霊が見えるルーシーは腹を抱えて笑っている。


「こーうーーー! おぬし、なにやっとるんじゃああああ。ははははははは! ひー! 腹がよ、よじれ……」


 くっ! こんな行動は想定外だ。少しとはいえ、共に戦って友情くらい芽生えたっていいじゃないか!

 こうなったら、先日の教訓を生かした最終兵器の出番だ!


「ほーら、わんちゃん? おいしいおいしいビーフジャーキーですよー。どうぞ!」


「ガルルルルルルル!」


 なん……だと!? ジャーキーでは不服と申すかこの犬!?


「……あー。功? そのな? その犬、供えるなら缶詰に入ったしっとりした肉がよいと言っておるぞ」


 何で犬語分かるんだよ、この婆。


「ワシ天才じゃからな。動物の気持ちを理解するくらい容易いわ」


 俺の心も読んでんのかよコイツ


「顔に書いてあるぞよ」


「さいですか」


「ついでに言うと、その犬、うちのご主人達に色目使ったら許さないとか言っておるぞ」


「何で!? 俺そんなのしてねーぞ!!」


 藤田さんちのわんこにいつの間にか濡れ衣を着せられてしまっていたらしい。

 その後、何とかわんこを引き離し、天へと還る様を見届けた。

 何とか騒動は終息し、一息ついたルーシーはローラの方へと向き直る。


「さて、ローラよ。お主もこういった世界の理を覚えて貰わねばならん。自身の身を守り、周りの人間を守るためにの。幸い時間はある。そして、その間にお主を守る人間もここにおる。どうじゃ? やるか?」


「……もしできるようになったら……、パパとママのところに帰れる?」


「お主次第じゃな。できなくとも一生こやつに守ってもらうという手もあるが」


 ……何故そこで俺を引き合いに出すのやら。


「……やる。どうすれば良いの?」


「そう急くな。今日はもう遅い。家に帰って寝るとしよう」


「……うん」


 ローラの目には決意が宿っていた。この娘が何で日本に来たのかはまだ聞けてはいないのだが、どうやらかなりの霊的なトラブルに巻き込まれたらしい。

 そして俺がふと、わんこに噛まれてしまった部分を見ると――


 ……? 何で血が出ている? 今まで痛みは感じても、こんなことは一度もなかったはずだが……?


「……すまんの。その傷について、後で話がある」

 

 俺にしか聞こえないくらいの小さな声でルーシーが呟いていた。

人物紹介

坂城(さかき) (こう)

本作の主人公。高校1年生。生まれつき持つ霊体に対する直接的な干渉力によって、生者と死者の区別が曖昧だったという幼少期を持つ少年。ルーシーから数えて八代目の子孫にあたる。現在は人に害成す霊や化生への対抗組織、『魔霊対策室』の見習い扱い(本人希望。正式に所属すると高校を退学する必要があるため)

戦闘に関しては日本由来の術や剣術を駆使して戦う。


ルーシー・ウィザース

齢236歳を数える魔女であり、功とローラの先祖でもある。現代にあってはほぼチートとも言える能力を持つ。本人は現代に馴染みすぎていて、文明の利器を用いて色々と楽しんでいる。

見た目が長い銀髪で青い瞳の10代半ばであるため、功からは『のじゃロリ』、『偽ロリ』、『破天荒ロリ』などと呼ばれている。


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