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第75話 想定外の襲撃

 気を取り直し、目的地の家屋へと足を進めようとしていた時、カメラに映らないように同行していた社長さんが俺に手招きをしていた。

 何となくだが、用件については察しがついている。


「ここは心霊スポットじゃないはずなんだけどね……。けど、あんなのが撮れてしまったし……。続けて大丈夫だと思うかい?」


「さっきの写真を見る限り、フラッシュがその辺の草や木で反射して人っぽく見えてるだけですよ。まあ、曾祖母は配信を盛り上げる為にああ言っているみたいですが」


「そういうの、分かるの?」


「……理系に関しては、いいだけ叩き込まれましたから……。俺と同じ年で複数の博士号取得した人から、嫌になるほど!」


 俺の怨念が籠っているような声色に、社長さんの顔が少しばかり引きつっている。


「意外だねえ。神主の修業をしている割に、そういったことにも詳しいとか」


「その人が言うには、確かに不可思議な現象はあるかもれないけど、何でも霊のせいって決めつけるもんじゃない、だそうです」


「へえ……」


「原因が分かるなら、ちゃんと説明できるようにするもの職務の一環だろ……。なんてさとされた挙句! 何で大学レベルの数学だの物理だの化学だの叩き込まれなきゃならなかったんだ! あの野郎!」


「落ち着いて! うん、落ち着こうね! まずは深呼吸を」


 いきなり俺が激高してしまったので、あちらも狼狽うろたえてしまっている。俺としても困らせるつもりはないので、言われた通りに深呼吸をする。


「大丈夫そうなら続行しようか。あの娘達にも説明を頼むよ」


 社長さんとしても安心したようで、さっきと同じ説明を視聴者さんには分からないようにアイドル達へと説明をすると、安堵したような表情となっていた。


「くっくっくっ。嘘も方便だなあ。処世術もうまくなってるじゃねえか」


 カズさんが俺達の様子を後ろで見ながら、そんな感想を零している。一応、偽ロリから何かの指示が出た場合、俺がお祓いもどきをするはずなので彼女達から少しばかり離れながら一番前を歩くことにした。

 10分くらい歩いた辺りで、こちらに視線が集まっていたのを感じていた。


「おい、気付いてるか?」


「ん。俺がこんな服装だから、そこらの霊に警戒されてる……かな?」


 現在、神職の服装の俺はそこらの霊からすると、お祓いに来た不届き者と捉えられても仕方ないのだ。


「いんや。確かにこちらは向いているが、敵意はてめえにじゃねえ。これは――」


 カズさんがいつもの余裕な表情ではなく、眉間にシワを寄せて俺へと注意を促そうとした、その時に後ろからおかしな声が聞こえて来ていた。


「ねえ? 寒気がしない?」


「うん。ちょっとだけ……」


 マズい。これはマズい。さっきのカズさん心霊写真は彼がふざけてやっていただけなので特に何も無かったのだが、今回は完全に霊障だ。この辺は霊的トラブルは起こっていないのは、俺自身も確認済みなのに……だ。


 配信中にこれは完全に想定外だ。とはいえ、このまま何も対処しないわけにもいかない。

 振り向いてアイドル達に近づいた後で、ここから動かないように指示を出したのだが、その直後、前を向いた瞬間——


 ガンッ!


 どこからか勢いよく飛来した拳大の石が俺の額を直撃していた。着用していたお面は一部割れ、額から血が流れだしている。


「ちょ!? えっ!? 何!?」


「嘘……。何で!?」


 アイドル達も何が起きたか把握できずに、どうしたらよいか分からなくなってしまっている。


 騒霊現象ポルターガイストか。いきなりこれとか血の気の多い連中れいだな。


 撮影しているカメラには、俺に石がぶつかった瞬間が映っており、配信を見ていた視聴者さんからも多数の動揺したコメントが寄せられていた。


『何か鈍い音聞こえたぞ!?』


『神主さんうずくまってないか!? お面も割れてるぞ!?』


『また何かあったのか!?』


 などなど彼らも現在起きている事態に対して画面に釘付けとなっているのが見て取れる。

 そんな中、俺のスマホに偽ロリからのメールが送られていた。膝をつき、地面の方を見ながら確認をする。


『対処可能かの?』


『問題なし』


 短い文ではあったのだが、それで意思疎通は十分だ。

 立ち上がると小学校の七不思議、『落ち武者の霊』のおっちーさんと似た格好の霊が複数こちらを睨んでいる。


「きーさーまー……。見間違うはずはない……。おわりのうつ――」


 何か言いたい事がありそうだが、とりあえず連中を大人しくさせるのと同時に、後ろの人達にも被害が行かないようにしなければいけない。しかも本当に霊がいるとは気づかれないように……だ。


 パァン。


 柏手を一回だけ打ち、奴らの視線を俺へと集中させる。その直後、一歩、また一歩とゆっくりと前へと歩みを進めて行った。


 そうしながら霊全員に対して、わざと目を合わせてやる。俺にはお前達全員が『視えて』いるぞ……と意思を込めて。


「てめえも仲間か!」








 俺も障害と認識した霊達が襲い掛かって来る。その様子を配信で見ていた自宅の面々はというと――


「嘘。ゆっくり歩いているだけなのに……相手の攻撃が全然当たらない……」


「それだけじゃないぜ……。あの霊達、攻撃してるはずなのに、何で後退してるんだ!?」


 美里さんと忍が信じられない光景を目の当たりにしたような声を上げていたらしい。


「これって……前にコウが教えてくれた結界の基礎的な?」


「あ、ローラ教わってたんだ。それを戦闘に応用してるんだよ」


 ねーさんは元より、ローラも俺のやっている事に覚えがあったようだ。他の二人はどういう事かと耳を傾けている。


「えっとね。霊になっていても人間には違いないから、人間の習性とか行動原理に縛られちゃうって前に言ってた」


「そうだね。今、コウはただ歩いている様にしか見えないかもだけど、歩きながら攻撃を紙一重で避けつつ、自分を標的にさせ続けてアイドルの娘達から霊を引き離してるの。術を使わないで視線と歩幅、歩く速さの諸々を細かく調整して……ね」


 その解説で顔が引きつっている忍と美里さんだった。更に追加でねーさんから解説が入る。


「ただね……。例外もあって、カズさんみたいな霊だとうまくいかなんだよね」


「そうなの?」


「生前の行動に縛られるって事は、生前とは違う事をしちゃう霊は、うまく誘導できないの。カズさんみたいに霊だからって航空機から飛び降りるって、みんなはできる?」


 ねーさんの説明に自分が霊だったとしてできるかを各々が想像していた。そして出た結論は――


「「「無理!」」」


「だよねー。あたしも無理」








 ねーさんが俺の行動に対する解説を終えた頃、こちらも一段落つきそうな雰囲気となっていた。

 アイドル達からかなり引き離された霊の一人が更に一歩下がると誰かとぶつかってしまっていた。

 そこには坂城家を訪れてからとは全く違う鬼の形相をしたカズさんが佇んでいたのだ。


「ひっ!?」


 カズさんとぶつかった霊が恐怖から声を上げている。カズさんはこの場にいる霊達全員に対して怒りの籠った口調で口を開いていた。


「おい……。てめえら、生前儂等と戦って落ち延びたか? それともその時のいくさで死んだかまでは分からねえがな……」


 静かだが、威圧的に語り掛けているカズさんに霊達は一歩も動けなくなってしまっている。


「儂を恨むのは当然だろう。言いたい事の一つや二つはあるだろう。……が、関係ねえガキに手ぇ上げてんじゃねえぞ! 訴えがあるなら直接来い! 分かったな!」


 あまりにも恐ろしい程の気迫で威圧するカズさんに、霊達は恐れをなして退散していった。

 とりあえず霊に関しては一件落着と力を抜いていた。あとは適当に石が飛んできた理由をでっちあげる必要がある。……のだが、視聴者さん達から心配するコメントが寄せられていた。


『もうよした方が良いんじゃないか? どう思うBBA』


『だな。偶然だとしても不吉過ぎるだろ。続行しない方がいいって』


『終わりでいいだろ。これ以上怖い思いしたって仕方ない』


 などなど続行反対のコメントで占められている。それを確認していたらしい偽ロリからも配信を終わらせる旨の宣言がされていた。


「うむ……。これでは配信を続けるどころではないの。神主さんの治療もせんとならん。申し訳ないが、これで終わりとするが良いか?」


『BBAも撫娘さん達もお疲れ様。神主さんも気を付けて』


『これは仕方ない。早く治療してあげて』


 視聴者さん達も納得してくれたようで、社長さんに目配せをすると力強く頷いていた。これで終了で構わないとの合図だ。

 その後、帰り道の車の中で傷を受けた額の治療をしながら、家まで送ってもらったのだった。

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