第69話 ハロウィン? に来た男
本日は11月1日。昨日はハロウィンという事もあり、というか我が家は家族の四分の三が欧米出身ということで、仮装をした女性陣が『トリックオアトリート』と言いながら俺にお菓子を所望していた。
約一名、『トリックオアブランデー』とか『トリックオアワイン』とかピンポイントで、おもてなしのやり方を希望していたのもいたが、そこは無視してお菓子を山盛りでくれてやったら渋々と食べていた。
そんなハロウィンの翌日。羽衣とのビデオチャットでの家庭教師後に、その様子について雑談していた。
「そちらは楽しそうですね。賑やかで羨ましいです」
「俺も去年は一人暮らしだったしな。その頃は今年ハロウィンやるとは思ってなかった」
「兄様は町中のイベントには参加されていなかったのですか?」
羽衣の疑問も最もだろう。一人暮らしだからってイベントに参加しちゃいけないといった決まりはない。
だが、これにはれっきとした理由があるのだ。
「ハロウィンの仮装って……怪我したふりとか妖怪とかやったりするだろ? そうすると……本物なのか仮装した人なのか見分けがつかない時があってだな……」
「あー……。兄様ってそういう方でしたね……」
人ならざる存在が当たり前に『視えて』、『触れて』、『会話できる』俺にとって、訳分かんねー事になるので、ハロウィンイベントは遠慮していたのだ。
「たまにガチで妖怪とかが混じっていたりもするからややこしい」
「普段は隠れてるのも出やすいんでしょうね」
そんな一般人が聞いたらカオスどころではない会話を数分続けた後で、本日のビデオチャットは終了となった。
その後、居間へと行くと一杯やりながら上機嫌な偽ロリが話しかけてきていた。
「今日も家庭教師ご苦労じゃの。羽衣とローラの二人分頑張るのじゃ」
「……師匠からは羽衣の勉強を見る分の月謝は貰うことになったけど……、るーばあはくれないのか?」
「同居している妹同然の子の勉強を見るのに月謝が必要かの?」
ぜってー払う気はないな、コイツ。
「まあ、期待はしてなかったがな。その分、生活費は貰ってるわけだから」
「コウも一人暮らし始めてから、お金にはシビアになったみたいだね~」
ねーさんの言う通り、なんだかんだでお金って大事なんだと学んだ数年間だった。
だって、るーばあは仕送りくれなかったし。
「その分、生活能力はきっちり身に付いたようだの。これも教育の一環じゃよ」
ぜってーめんどかったとか連絡取れない所にいたとかだ。間違いない。
偽ロリの思惑とかを想像していたその時、自宅の門を潜る人以外の気配を察知した。
「……誰だ? ってか門を過ぎた辺りからあんまり動けてないな? ゆっくり玄関には近づいてはいるけど……」
「この家の結界って凶悪だからね~。誰がこんな意地の悪いの教えたんだか」
はい。ねーさんの言う通り、我が家の結界は人間以外が門を潜った段階で凄まじい重圧がかかる特別仕様である。
ローラが来日した頃は、狼の化生である真神も碌に動けなくなっていた。
「とりあえず外に行ってみるかー。間違って何かが迷い込んだのかもしれないしな」
一応、警戒しなければならないので駄蛇刀を手に持ち、玄関のドアを一気に開けて構えを取る。
「動くな!」
侵入者に対して警告しつつ相手を見据えようとしていると、玄関先にうつ伏せでピクピクしている霊が一体。
作りの良い少しばかり傷と焼けた跡がある着流しと、ちょんまげを結っているどう考えても現代を生きた人間ではない存在であった。
「と……、とりっくおあとりいとおおおお!」
頑張って顔を上げながらそう叫んだ幽霊であった。その顔には見覚えがあるものの、何でこんなことしてんだ、コイツ? といった感想が先に出てしまい固まってしまった。
「あー。お侍さんだ。……誰?」
「コウのお友達?」
ねーさんとローラも玄関に顔を出していた。二人には初見の人物なので、どうするべきか判断に迷っているようだ。
「おい……、せっかく『はろうぃん』とやらに合わせて来てやっというのに、この結界は酷くないか!?」
結界の重圧で動けなくなっている幽霊は俺を見るなり苦悶の表情を浮かべながら苦情を入れていた。
「……まーた珍妙な人間霊ヘビ。小僧の知り合いは変なのしかいないヘビ?」
「誰が変なのじゃ! てめえこそ変な蛇だろうが!」
「この偉大なる八岐大蛇の分御霊が変なはずないヘビ!」
なんか霊と駄蛇が口喧嘩を始めてしまった。とりあえず家に入れないと、収まらないような気がするので、その霊を引っ張って家屋内に入れてやった。
「ふう……。全く……酷い目にあったわ。というわけで、改めて……とりっく――」
「……ハロウィンは昨日だが?」
「へっ……!?」
ポカンとしている霊ではあったが、すかさず反論が飛んでいた。
「そんなはずはない! 儂がいたところは10月31日だったぞ!?」
「どこいたんだよ?」
「太平洋のどっかの島?」
あんなとこからどうやって日本まで来てんだよ、コイツは。
「……日付変更線を跨いだんじゃないのか?」
「なん……だと!? じゃあ本気と書いてマジのマジで今日は11月1日なのか!?」
俺と駄蛇がうんうんと頷くと力なく膝をついてしまった幽霊であった。
そんなことをしていると偽ロリまで姿を見せていた。
「何じゃ~? 会ったことのない霊じゃな? ワシが旅に出てから知り合った奴かの?」
「うん。俺史上、月村さんに匹敵する変人」
「ほう。お主にそこまで言わすか。まあ上がって貰え」
確かに玄関で立ち話もなんなので、彼を居間まで案内する。
「それでこいつは誰なのじゃ?」
のじゃロリの質問にスッと立ち上がり、ニヒルな表情をしながら自己紹介を始めた。
「かつての名前に意味などなく……、今は世界を流離う流浪の霊……、カズさんと呼ばれておる」
別に誰も呼んではいないのだが。
「別にオワさんでもダンさんとかでも良いがな。魔王の名乗った時期もあるぞ」
そこまで話し終わったところで、自分の正体バレバレだろうな~。有名人は大変だな~。みたいな感じで俺らをチラチラと期待を込めた目で観察していた。
補足としてカズさんの言葉はローラが実体化させた駄蛇がちゃんと伝えている。そのカズさんだが、この家のメンバーを見て気が付いたことがあったようだ。
「おい、この家……住民が異人ばっかじゃねえか! 儂の威光とか微塵も意味ねーだろ!」
「俺が悪いみたいに言うなよ!」
思わず反論してしまったが、イギリス人とアメリカ人とフランス人にとっては、変な侍っぽい男にしか映らないだろう。ワンチャン、偽ロリだけは察するかもしれないけど。
「カズさんとやら、どうやらこの功が世話になったようだの。保護者として礼を言う。ありがとう」
「貴様……、まともな生き方をしておらんな? こいつの何なのだ?」
カズさんの目が真剣な物へと変わる。一目でこの偽ロリの特異性に気が付く辺り、やはりただ者ではない。
「ワシの名はルーシー・ウィザース。こやつら三人の先祖に当たる。今年で236歳になる魔女じゃよ」
「なんだあ……。見た目だけ若いババアか」
「……お主こそ……見たところ、数百年前の人物の様じゃが? ならばワシより年取っておらぬか?」
カズさんの『ババア』発言に笑顔を装いながら、怒りを抑えているのが見え見えの偽ロリであった。
「これでも儂は50になる前に死んでいるから、年齢はそこで止まっておるが? 肉体持ったまま200歳とかマジ引くわー」
「は? そちらこそ生まれがワシより早いなら立派なジジイじゃろ!」
このままではマズい。下手に偽ロリが何かしようものなら家がどうにかなっちまう。
「二人共、やめろー!! カズさん、いきなり尋ねてきて喧嘩しに来たわけじゃないだろ!」
俺の制止を聞き入れてくれたらしく、二人は少しばかり顔が引きつっている。
「なに、一人寂しくしているかと思うて来ただけだがな」
それでトラップ引っ掛かっていたら世話ない。
「せっかく日ノ本に戻ってきたのだ。少しくらい厄介になるが良いか?」
「まあ……、俺は構わないけど……」
そう答えながら偽ロリの方を向くとカズさん対してそっぽを向いていた。
これは……ひと騒動起きそうだなあ……。
そんな事を考えてしまい、これからを想像しているだけで疲れてしまったのであった。
人物紹介
カズさん
世界を旅する戦国時代の霊。本人曰く、謀反にあって気が付いたら霊になっていたので今までのしがらみは胸に秘めて世界を見たくなったらしい。
とある縁から数年前主人公と出会い、久々に帰ってきた日本で遊んでいる。




