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第65話 お祭り二日目の昼

 玉子を三個ほど割り、ボウルへと落とす。箸で卵白と卵黄をかき混ぜながら、調味料を加え、均等に混ぜ合わせる。

 フライパンを熱して油を引いた後、少しずつ玉子を流し入れて形を整えていく――


「はいよ。大人用の玉子焼き。お待ち」


「この男!? 本当にワシが持って来た秘蔵の純米大吟醸を玉子焼きに加えおった!? これ酒好きならば怒るぞ!」


 みんなが美味しく食べられるように調理したというのに、この苦言である。

 ちなみに純米大吟醸とは、酒米を50%以上削り、手間暇かけて醸造された日本酒らしい。雑味が少なくすっきりと滑らかな味と偽ロリは語っていたことがある。


「ほんの少しだし良いじゃないか。美味しい朝食になれたんだから」


「大人用ってことは……、未成年わたし達はダメなの?」


「アルコール飛んでるはずだから問題はないが……、多分……婆さんが食わせないぞ? ありゃ泣きながらでも全部食いそう」


 ローラが俺と偽ロリのやりとりを目撃し、酒入りの玉子焼きに興味を持ったようだが、一応は未成年用の酒を入れていない玉子焼きも用意してある。


「ほれ。こっちは未成年おれたち用のやつ」


 そう言いながら、酒抜きの玉子焼きをテーブルに差し出す。

 テーブルの上にはその他に、ご飯と味噌汁やアジの干物、ボイルしたソーセージなども並び、その周りにはこの家の住人と俺達、そしてアイドル一行が座っている。


「「「いただきまーす」」」


 その声と共に、全員が朝食を口にかっこんでいた。


「……皆さん、結構いい食べっぷりですね?」


「これでもねー。歌って踊るのは体力いるんだよー。レッスンでも本番でも」


「そうそう。なんだかんだで体が資本だからね」


 これは分かる気がする。

 俺だっていつ来るかも分からない対魔戦闘のために日々の訓練は欠かしていない。彼女達はステージの上に立つ日のため、レッスンを積み重ねているはずだ。


「やっぱりご飯作るの上手ー!」


「……なあ、ねーさん? そういや家に来てから、あんま飯を作ってないよな? だから基本的に俺が作ってるんだが」


「あははー。ピザは得意だよ。それ以外は……ね?」


 そんな雑談をしていたのだが、この中の一名は無言で朝食を頬張っていた。


「まき? どったの? 一言も喋らないで」


 キラ☆(きらぼし)撫娘なでしこメンバーの一人が、まききちゃんの様子を見て心配そうに話しかけていた。


「えっ!? あの……思ってたより美味しいなあ……って」


「あー。あのお兄さんの第一印象が悪かったから意外だったとか?」


「そこまで印象が悪いわけじゃ……」


 彼女は俺の方をチラッと向いて、困ったような表情を見せていた。だが、それを見逃さなかっらたしい羽衣ういが俺の取り皿へおかずを山盛りで差し出して来ていた。


「兄様、今日もハードスケジュールですから、沢山食べてくださいね」


「お、おう……」


 俺の隣にいて、これ以上アイドルを見させてなるものかという気迫を感じる。


 そうして朝食後、アイドル達と付き添いの社長さんとマネージャーさんも今日の日程をこなすため、お別れとなった。


「本当にお世話になりました。では私達はこれで失礼します」


「また縁があったら飲もうかの」


 一礼して別れの挨拶する社長さん達を見送るその間際――


「よかったらこれどうぞ。余り物で作ったので、休憩時間にでも」


 そう言いながら、人数分のおにぎりと簡単なおかずが入った保冷バックを近くにいたキラ☆(きらぼし)撫娘なでしこメンバーの一人、通称りりーさんへと渡す。その瞬間、彼女に付きまとっている……おそらく人間の物ではない念を捕まえてそのまま握りつぶす。


(ふむ……。まあこんなところかの)


(さりげなーく、うまくやったねー)


 偽ロリとねーさんが安心したような表情を浮かべていると、社長さんが俺達の方を向いて口を開いていた。


「そういえば、君達の名前を聞いていなかったね?」


 その問いに答えるように、ねーさんが自己紹介をしていた。


「あたしはレイチェル・ミアーズ。こっちは……」


坂城さかきこうです。ま、声が掛かっても都合がつくとは限りませんが……」


 その言葉に少しばかり困ったような顔をした社長さんであったのだが、もう一人、呟いていた人間がいた。


「さかき……こう……。か……」


「推しが俺の名前を憶えてくれた! ひゃほーい!」


 俺が歓喜していると、少しばかり、否、かなりドン引きしていた偽ロリがツッコみを入れてしまう。


「この萌え萌え小僧なぞ、最前列ヲタ芸男で覚えておけば十分じゃよ」


「はーい……。最前列ヲタ芸男でーす……」


 その一言にその場の全員から笑いが零れてしまう。


「くくっ……。それでは……我々はこれで失礼しますね」


 芸能関係者一行は最後に全員が一礼して、神屋家を後にしていった。








 その後、俺達は祭りで各々の役割を果たしていた。俺は神主代行として、羽衣ういと来客――大体が町の大人達との対談。

 そして、ねーさんとローラ、偽ロリの巫女さん売り子チームはというと――


「あのお姉さん、きれいー!」


「あっちの子も可愛い!!」


 外国人が巫女さん衣装で売り子をしているのが珍しいらしく、大盛況となっていた。


「すいません。あの人達の写真撮っても――」


「済まぬが、それは遠慮願いたい。そちらの注意書きにも書いておるじゃろ?」


 その珍しさから写真や動画撮影を試みる者も続出しているが、お客さんからは老婆の姿に見えている偽ロリがやんわりと注意を促していた。


「交通安全のお守りくださーい!」


「は、はい! こうつう……これはかない……。こっち!」


「まあ、慣れて来たようじゃな。……ワシの所に客が少ないの?」


 ローラさん、苦労しながらなんとかお客さんを捌いている。その隣の偽ロリはどこか不満げだ。

 実際、そう見せているとはいえ、お客さんが老婆と美少女小学生のどちらからお守りを売ってもらいたいかと考えれば妥当な状態となっているのかもしれない。


「お姉さん、習字が上手ですねー!」


「そうでしょ? これでも小さい頃は日本で色々と覚えたんだよ~。御朱印だってこの通り!」


 ねーさんは売り子と並行して御朱印を書いている。こちらも金髪美人巫女さんが達筆な字で書いてくれるとあって、長蛇の列となっている。

 色々と済ませて、少しだけ休憩に入った俺が売り場を尋ねると、少しばかり涙目になってしまっていたローラが助けを求めるような目をしていた。


「なんだこの行列は!?」


(お願いー!! 手伝ってー!)


 そう目で訴えかけるローラの隣で、俺もお客さんを捌くことにした。どことなーく、ローラ目当てのお客さんががっかりしているような気がする。


「こちらも空いていますので、お急ぎの方はどうぞ。御朱印もできますよ」


「昨日、演舞してた人だー」


「こっちでもいっか」


 そうして営業スマイルをしながら位置について接客を始めると、数人はこちらへ来てくれていた。

 とはいえまだ数人なので、ローラの負担がそこまで減ったわけじゃない。


 さてどうするか……。


「悪い、ばあさん。折り紙を持ってきてくれないか?」


「はいよ」


 そうしてお客さんを捌きながら待つこと数分。偽ロリが百枚を超える折り紙を俺の前に置いた。

 俺の担当している列の売り場に並んだお客さんに、ちょっとした芸を見せてみる。


「これは、おまけです。どうぞ」


「えっ!? 早っ!? これ何!?」


「百合の花の折り紙です。曲芸みたいなもんですね」


 瞬く間に折り上がる折り紙による驚愕の声は、ローラの方へ並んでいた行列の何割かを俺の方へと移動させることとなった。


「あの折り紙の早さって……、コウもできたの!?」


「あれも修行の一環でな。できると色々と便利なのじゃよ」


 隣のローラには彼女が日本に来た頃に、折り鶴の折り方を教えたこともあったのだが、ここまで手早く折れるとは思っていなかったようだ。


「はい。こちらは鳩。それでこれは蓮の花、うさぎさんも折れますよ。できる物なら折りますのでリクエストをどうぞ」


 俺の説明でお客さん達のリクエストが殺到してしまう。


「カエルってできる?」


「うさぎさん欲しいー!」


「トンボは作れる?」


 などなど、彼らの希望に応えていく。そうして数時間後。


「ようやく落ち着いてきたねー。つっかれたー!」


「みんなお疲れ」


「コウが来てくれなかったら、大変だったかも」


 売り場のみんなをねぎらい、気づけばもう夕方近くとなっていた。

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