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第61話 予想外の来客

 とりあえず神屋のじっさまを布団に寝せて、患部を冷やしながら楽な姿勢をさせる。奥様に、このことを報告すると――


「お義父様ったら……、お客様が来て楽しいのは分かりますが、もう少しお年を考えてください!」


「すまん……。あの子供が大きくなったのが嬉しくてなあ……。思わずハッスルしてしまった……」


 寝転がりながら、頑張って受け答えをしていた神屋のじっさまであった。


「仕方ねーからジジイが無理しないように蛇が監視してやるヘビ。話し相手くらいにはなってやるヘビ」


「悪い。駄蛇、頼んだ」


 腰を痛めてしまった人物の部屋に長居するのも悪いので、祭りの準備のために外へと行くとする。







 さて、神社の敷地内を見渡すと、今夜の開催に向けてお祭りの定番ともいえる屋台やキッチンカーがチラホラと確認できる。


「やっぱり祭りの雰囲気はこうでなくちゃ」


 定番のたこ焼き、焼きそば、焼き鳥、綿あめは言うに及ばず、キッチンカーにはカレーやピザを提供する店もあるようだ。

 自分の仕事を済ませた後で楽しむとしよう。


「さて……、うちの女子達は……っと?」


 お守り等を販売する売り場へと行ってみると、巫女服が気に入ったらしいローラが少しばかり困った顔を見せていた。


「ええと……? 『家内安全』……。『交通安全』。『健康祈願』。漢字が難しい……」


「まあ、ワシがうまいことサポートしちゃる。頑張ってみい」


 日本語での会話については問題ないらしいが、漢字についてはまだ覚えていない物が多いようだ。

 というより、ひらがな、カタカナ、漢字を用いる日本語は海外の人間からするとかなりの難易度となるらしい。


「お札も絵馬も色々あるよね~」


「レイチェルも日本離れてたのに……何で普通に漢字読めるの……」


「んー……? 読めないと真司にいいだけからかわれるの! 僕は英語なんて8歳でマスターしたぞ? 日本語くらい軽いだろ……って!」


 何であの人は俺やねーさんをいじって遊びたがるのか。


「でも……、わたし達が巫女さんの服とか着ちゃって良いの? その……宗教的に……」


「いいんじゃない? 日本って色々とちゃんぽんだし!」


 まあねえ……。もう少しすればハロウィンもあるし、12月にはクリスマス。その数日後には初詣で神社仏閣を参拝。改めて考えるとかなりのちゃんぽんである。


「三人ともそっちは頼んだ。奥様達だけだと手が回らないと思うから」


「お主もな。神屋に恥をかかせるでないぞ?」


「ああ。確かに気合入れないと!」


 偽ロリの言う通りで、ここで俺がミスったりしたら師匠せんせいだけでなく神屋家に迷惑が掛かる。

 気分を一新して祭りに挑まねばと、そう考えていた。すると……ローラが変わった一団を見つけたらしく、首を傾げていた。


「あれ……何だろ? お祭り前なのに……お参りに来たのかな?」


 そちらを向くと、中学生から高校生らしき女の子数名と、付き添いっぽい大人も二人ほど辺りを見回している。

 その大人の方、少しばかり髪が長く無精髭を生やした男がこちらに近づいてきていた。


「失礼。この神社の方ですよね? お祭りの準備で忙しい中で申し訳ありませんが……、撮影をさせてもらってもよろしいでしょうか? 手早く済ませますので」


「撮影? ここでですか? というか俺だと判断できない――」


 師匠せんせいからは前もって聞いていたとはいえ、ここに来るとは思っていなかった。というか、後でこっそり見に行こうとしていたのだが……。

 

 じっさまは動かせないし、ここは念のため奥様に確認をしに行こうとした、その時にあちらの女子の一人が俺を見て大声を上げてしまった。


「ああっーー!! いっつも最前列でキレッキレのヲタ芸してる人だー!」


 その声に合わせるように、近くに来ていた男性が俺と彼女達を交互に見ていた。


「……もしかして、地元のファンの方? できればあまり騒いでほしくないんだけど……」


「いえ、都心から出て来た今回だけの神主代理です。その、彼女達アイドルグループ『キラ☆(きらぼし)撫娘なでしこ』ですよね? 実はデビューした時から推してまして……」


「そうか……。若いのに大したもんだねえ……。しかし、こんな所でファンとかち合ってしまうとは……」


 俺達が小声でヒソヒソと話していると、現アイドルの子達も販売コーナーまで歩み寄ってくる。


「外人の巫女さんだー!」


「この小さい子も巫女さん!?」


 などなど、ねーさんとローラに釘付けになってしまった。普通ならこんな巫女さんを見る機会は無いだろう。


「こっちは俺の曾祖母と再従姉妹はとこの二人です。同じく祭りの手伝いで来てます」


「おや、もしかして……お婆さんも日本人じゃない?」


「ですね。英国出身です。こっちはアメリカ人で小さい方はフランス人です」


「国際色が豊かだねえ。時代を感じるよ」


 臨時巫女さんの国籍を知った男性は感慨深そうにしている。そしてアイドルの中の一人はひときわ目を輝かせていた。

 アイドルらしく可愛らしい顔立ちでぱっちりとした瞳。少しばかりウェーブか掛ったセミロングで背丈はその辺の女子と大差はないが、間違いなく美少女と称して良い娘だ。


「ほんっと可愛い! いいな~。わたしも巫女服着てみたい!」


 ステージ上の笑顔とは違い、とろけるような締まりのない顔となっている彼女に対して思わず声を掛けてしまう。


「すいません! 貴女のファンです! 多分、貴女が生まれる前から愛してました!!」


「は……はいぃ!?」


 俺の雰囲気がさっきまでとはガラッと変わってしまったので、あちらは呆気に取られてしまっている。


(((多分?)))


 俺と彼女――通称まききちゃん以外の全員が変な表情を浮かべているが、その中にあってレイチェルねーさんだけが、目にも止まらぬ動きで俺の右腕を組む形で止めに入っていた。


「あははー。ごめんねー。この子もそろそろ演舞の練習とかあるから連れてくね!」


「ねーさん!? 後生だから! サマーライブ行けなかったからもう少しだけ!」


 俺がどうにかこの場に残ることを懇願していると、今度は左腕にも誰かが腕を組んでいる感触があった。


「さあ兄様。わたしと演舞の打ち合わせをしましょう。不穏な気配がするから来てみれば、これでしたか!」


羽衣ういまで!? 本当にもう少しだけ!」


「ダメです。兄様にはアイドルではなく、わたしがいます。ご不満ですか? 本当の兄様になるという話まであったというのに……」


 そうして、ねーさんと羽衣ういが目を合わせて意思疎通を図っていた。二人の認識としては俺を無理矢理にでもこの場から遠ざけることで一致したらしい。


 売り場コーナーにいた人間は、俺が二人にズルズルと引きずられて行くのを見守っていたのだが、最後に羽衣ういが口にしていたことをローラが気になったらしく、偽ロリへと質問をしていた。


「本当の兄様……って?」


「ん? ああ。昔な、あやつを神屋が引き取るという話もあったのじゃよ。それならば、あの二人は義理の兄妹になっておったな」


 その説明を終えると一般人からは老婆の姿に見えている偽ロリが、キラ☆(きらぼし)撫娘なでしことその関係者に頭を下げていた。


曾孫ひまごが済まなかったの。なにせ知り合いの老若男女問わず布教しまくっているくらいでの」


「いえ、こちらも突然の提案をしてしまい、すいませんでした。見たところ歴史のある神社の様でしたので、風情があるここをバックにするのもありかと考えてしまいまして」


 付き添いの男性がそう答えると、今度はまききちゃんが俺について尋ねていたようだ。


「あの……、引き取るって?」


「うむ? 聞いておったか。ワシも子にも孫夫婦にも先立たれての。あやつの身の振り方で昔に色々あったのじゃよ……」


「そ……そうですか……」


 その言葉と共に、その場の全員が何を言ったらいいか分からなくなってしまったが、偽ロリがあっけらかんと口を開く。


「まあ、あんな面白いのに育つとは思わんかったがの! はっはっはっ!」


「コウって、ルーシーの事をハテンコウ? ってよく言ってるけど……、本人もかなりハテンコウだよね?」


 先日の小学校での一件や小学校時代の俺の話を聞いて、そういった感想を持ったらしいローラであった。


「そりゃあ……もうの。ワシの血筋じゃし! ついでに育てたのもワシじゃからの」


 ローラにとって凄まじい説得力をもつ説明であった。

 暗い雰囲気から一転して朗らかな空気に変わり口を開きやすくなったらしく、アイドル達の付き添いの男性がもう一度頭を下げて挨拶をしていた。


「重ねて、先ほどは申し訳ありませんでした。こちらでの撮影はできれば程度の話でしたので、我々は退散させてもらいます」


「ん? そうかの。ここの人間に確認を取ってみようと思うとったが?」


「いえ。見たところ思っていた以上に皆さんもお忙しそうですし、邪魔になってしまっては、こちらとしても気まずくなります」


 そういう事なら良いかと、今度は偽ロリがローラの肩をポンっと叩いていた。


「ほれ。芸能人に見惚みとれておってはいかんぞ? これから売り子を頑張らねばいかんからの」


「はーい。でも……、ほんとに綺麗な人達だから……つい」


 そんなやり取りの後、アイドル一行は神社を後にし、ローラは商品の種類を覚えたり作法について色々と指導を受けていた。


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