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第58話 進路相談のち、温泉

 我が家の女性達三人が温泉につかっている間、俺はというと羽衣ういへの用事を済ませることにした。おそらくは三人とも長湯になるはずなので、時間的には丁度いいはずだ。

 当の羽衣ういはというと、俺達を出迎えてくれた時の着物姿ではなく普段着を着用している。こちらの服も昔のイメージとは違い、オーソドックスな女子の服装といった感じだ。


「ほれ。俺の通っている学校のパンフレット。あと受験用の問題集」


「ありがとうございます。中高一貫校なんですね?」


「知らなかったのか……。ある程度は調べてるもんだと思ってた。まあ、基本的に中学から高校へはエスカレーター式だからな。高校からの受験組もいないってわけじゃないけど」


 何で俺がそこの高校というか学校を選んだかというと、お家から近くて高校受験しなくて良いから。ほんとにそれだけ。

 そして高校受験が無いという事は、その分の時間を対策室のお仕事に裂けるのだ。


「ちょっと偏差値が高いですね……」


「まあな。けど、ちょっとって言うくらいなら、今から勉強すればどうにかなるだろ」


「兄様って、中学受験頑張ったんですね!」


「いや、全く勉強してなかった」


 羽衣ういが驚愕したような表情を浮かべてはいたが、これに関しては月村さんのおかげ(せい)で。そう、小学校五年生から学校に通う前に、勉強について行けるようにと、特に理系に関しては大学レベルの数学や物理なんてのも叩き込まれたせいなのだ。


 ――曰く。『僕はお前と同じ年齢で、同じくらいのことはできた。』ということらしい。こっちとしてはいい迷惑だった。だって泣きながら覚えたんだよ?


「英語は……?」


「のじゃロリと旅してた頃、英国もアメリカも行ったことがあるからな。自然と覚えた」


 そんなこんなで受験には全くと言って良いほど苦労した経験はない。


羽衣ういも成績は悪くないみたいだし、大丈夫だって。頑張れ」


「はーい。何とかなると思います」


「別にこっちに出てくるなら同じ高校じゃなくたって良いだろ。駄目なら駄目で――」


「いえ! 絶対に兄様と一緒の高校に通いたいです!」


 めっちゃ気合が入っている羽衣ういであった。

 その後、彼女の苦手科目への対策なんてのも話したりしていると、のじゃロリ達が風呂から上がってきたらしい。テーブルの上に置かれているパンフレットを覗き込んできていた。


「高校受験の相談かの? 羽衣ういよ。こやつから色々と攻略法を聞いておけ。何だったらビデオチャットで家庭教師でも頼めばええ」


「勝手に話しを進めるな」


「うまくいけば神屋から月謝が貰えるぞい」


 ……それならありかもしれないな。一度、師匠せんせいとも話し合ってみるか。


 そんな想像をしていると、ねーさんが羽衣ういの姿をジッと見詰めて一言。


羽衣うい……、最初に見た時は誰だか分からなかったよ。昔は男の子みたいだったのに……イメチェンしたの?」


「だって……。兄様、髪が長い方が可愛いって……」


 少しばかり頬を赤くして俺の方を向いてそう答えていた。


 ……そ、そんなこと言っただろうか?


 羽衣ういの返答に対して一瞬だけ固まってしまっていたのを、偽ロリとレイチェルねーさんは見逃さなかったらしい。


(あ……、絶対忘れてる)


(こやつ、忘れておるな……)


 俺……、結構……子供の頃にやらかしてる!? ねーさんへの『僕、大きくなったらおねーちゃんと結婚する』発言といい……、何やってたんだ、昔の俺!?


「ところでの? ローラは中学校どうするのが良いかの? 功の学校を受験させるのも手じゃが……」


「あ……。公立でも良いかなって思ってたから深く考えてなかった……」


 ローラにしても夏休み前に日本に来たばかりなので、そこまで考える余裕はなかったかもしれない。


「外国人枠ってあったけ? その辺も調べてみるか」


「まあ、挑戦してみるのも悪くは無かろうて。駄目であれば公立でも良いからの」


 そんな事を言いながら、ローラの方を向いて意思を確認するような仕草をしていた偽ロリであった。


「んー……。頑張ってみようかな?」


「ローラって何気に一ヵ月で日本語の会話ができるようになってるから……、案外、今からでも勉強頑張ればいけるかもな」


  俺が軽い気持ちで、本当にかるーい気持ちでそんなのを口にしたのがマズかったのかもしれない。のじゃロリはそれをニヤニヤしながら眺めてこう言い放った。


「この際じゃから、羽衣ういとローラの受験をお主が面倒見ればよい。家庭教師、頑張るのじゃぞ」


「……俺の意思は?」


「こやつらを見捨てる気かの? そんな薄情な男に育てた覚えは無いのじゃがな~」


 もう決定事項とばかりの偽ロリ。そして期待を込めた瞳で俺を見詰める小学六年生ローラ中学三年生ういであった。

 これはもう断れないと感じてしまい、承諾することとなった。


 その後、俺の通っている学校に関して根掘り葉掘り尋ねてきていた羽衣ういであった。偽ロリ達は先に寝ると言って、とっくに客人用の部屋へに行ってしまった。








「では兄様、もう夜遅いですし、これで失礼しますね。付き合っていただいてありがとうございます」


「ああ。お休み。俺も風呂に入って寝るから」


 もう一時間すると日付が変わるといった時間帯でようや羽衣ういとのお話が終わったので、自分へと割り当てられた部屋に運んでおいた荷物から風呂セットを取り出し、風呂場へと向かう。


師匠せんせい……、頑張ったな……。絶対自分の好きにやった奴だコレ」


 リフォームされた温泉を一目し、思わず口走ってしまった。今、この家には俺とじっさま以外の男性はいない。ぎっくり腰で寝込んでいるじっさまが、この場に来ることは無いので、温泉を引いている広い風呂を実質的に貸し切っている状態だ。


「うぃ~。ここに一人だけって、なんて贅沢」


 頭と体を洗い、湯船に浸かると思わず声が漏れ出てしまった。この温泉に入れるだけでも、今回この場へと訪れた甲斐があったかもしれない。

 そろそろ日付が変わるので、風呂場から出ようかなと湯船から立ち上がると――


 ――ガラッ


 風呂場の扉が開く音が聞こえてきていた。思わずそちらを振り向いてしまう。


「コウ!? えっ!?」


「ローラ!? 男性入浴中のプレート掛ってたよな!?」


 神屋家の風呂場は温泉旅館みたいだとはいえ、男女別に分かれているわけではないので、風呂場の扉に男性または女性が入浴中には、それを示すためのプレートを表示するというルールがある。


「ごっ……ごめんなさい!? ちゃんと見てなかった!? ……えっ!? それ……」


「と、とりあえず! 俺はもう出るからな! 風呂入りたいならゆっくり入れ」


 風呂場の電灯だって付いていたのに、何でこうなるのか。ローラもタオルで前は隠れていたので良かったが……。っていうか、この状況自体が最悪に近い。他の女性陣に見られた日には、俺の人生が社会的に終了しかねない。


 俺とローラはお互いに相手を見ないように顔を背けている。俺はそのまま風呂場を後にして部屋へと向かって行った。









「コ、コウの……男の人の裸見ちゃった……」


 湯船に浸かったローラが思わずそう呟いてしまう。家の中に温泉があるという物珍しさで、あまり寝付けずにいた彼女はもう一度入ってみようと思い立ち、風呂場へと向かったのだが、特に何も確認せずに立ち入ってしまったのだ。


「うう……、プレートの話とかちゃんと聞いておけば良かった……。電気だって付いていたのに……」


 まだお子様な彼女にとっては顔から火が出るほどの羞恥心で一杯になってしまっている。


「けど……、あの……体の大きな傷って……?」


 そんな疑問を口にしていると、またしても風呂場の扉が開く音が響く。その場にいたのは――


「あっ!? ルーシー」


「何じゃ? 先客がおったとはの。もう夜遅いから誰もおらんと思って来たのじゃが……」


 ルーシーの手にはお盆と日本酒用の一合徳利いちごうとっくり、そしてお猪口ちょこが握られている。

 それを目にしたローラは首を傾げてしまう。


「そ……そのの? せっかく良い温泉じゃから、浸かりながら一杯……の?」


 いつもだと功に飲み過ぎと叱られているので、ローラにも注意されると考えたらしく、言い訳の様な態度を取ってしまっていた。


「というか……功の奴とすれ違ったが……? 先にお主が入っておったのか?」


「あうっ……。その……」


 ローラにとって手痛い指摘を言われてしまい、口籠ってしまう。渋々と事情を説明すると……。


「そんなラブコメな面白い事になっておったとはの! いやー、ワシもその場におっやなら功を思いっきりからかってやれたのじゃがな!」


「やめてー! すっごく恥ずかしかったんだからあ!」


 一緒に湯船に浸かりながら、笑いを堪えているルーシーであった。

 しかし、ローラにはそれよりも気になることがあったらしく、ルーシーへと質問を投げかけていた。


「ねえ……。コウの体にあった大きな傷って……何なの?」


 それを聞いた瞬間、地酒を飲みながらご満悦だったルーシーの表情が真剣なものへと変貌していた。

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