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第55話 そして記者へ……

 小学校に現れる怪異について解決し、ローラのクラスの演劇も大盛況。一件落着となり、俺達はまたしても深夜の学校に出現する幻の四階を訪れていた。


「――というわけで、この忍者のにんさんは、この学校の七不思議の一員となってもらうことになりました!」


「「「何で!?」」」


 ローラと忍、美里さんが戸惑いながら疑問の声を上げる。


「別に良いじゃないか。落ち武者がいて忍者がいちゃいけない法はないんだし」


「大体な……、この忍者が加わったら……七不思議じゃなくて八不思議になっちまうだろ!」


 素晴らしい指摘をしてくれていた忍であったが、そんな問題なんて些末な事なのだ。


「そもそも、もうすでに八つ以上あるからね。七不思議。今更一人増えたって関係ないさ。HAHAHA!」


 トイレの花子さん

 時速100キロのテケテケ

 夜の校舎を徘徊する人体模型

 プールに引きずり込む子供の霊

 三階建ての校舎に現れる幻の四階

 目玉が動くモナ・リザの絵画

 夜中に勝手に鳴る音楽室のピアノ

 無人の家庭科室で飛び回る包丁

 深夜に走る二宮金次郎の肖像

 校庭に現れる落ち武者の霊


「そこに戦国時代の忍者が加わったって、誰も気にしないよ」


 そんな説明をしていると人間三人は呆れかえってしまい、もう反論する気も失せてしまったようだ。


それがしが迷惑をかけた。これからはこの学校で大人しくしていることにする……」


「……おい。その忍者震えてるぞ? 何やった!?」


 にんさんの様子がおかしい事に気付いた忍が恐る恐る疑問を口にする。


「俺は何もやってないぞ。強いて言えば、拘束しながら市街地まで引きずってっただけで……」


「それ、十分怖がられる理由になるから!」


 美里さんの言い分も分からなくはない。しかし、にんさんが恐怖を感じている原因は俺ではないのだ。

 そして、その恐怖の対象からの叱咤が飛んでくる。


「コラ! 新入り! ネタが足りてないわヨ! 昔、諜報活動をしてたんなら得意でショ!」


 そう、今のにんさんは……。


「このアタシの『花子新聞』の記者にうってつけの人材なのだから、学校中駆け回りナサイ!」


 トイレの花子さんこと花ちゃんの部下として、『花子新聞』のネタを集める記者として活動することになったのだ。


「忍者を花子さんに売りやがった!?」


「人聞きの悪い事言うな。昔取った杵柄きねづかを、現代の生活に生かしてもらおうとしただけだぞ」


 良い就職先が見つかって安心と思っていたが、人間三人は少しばかり引いてしまっている。


「それにほら。にんさん、七不思議達には迷惑かけちゃったし、その分を体で払うってことで」


「コウって……、実は結構性格悪い?」


「いやいや、そんなことない! これが偽ロリなら日本各地の地酒一覧欲しいから、実際に行って確認してこいとか言い出すぞ! 学校だけで済んでる俺は十分優しいって!」


 そんなのはインターネット活用すればいいのでは? と思われそうだが、あの酒好きロリならやる。地元でしか販売していない限定品とか絶対欲しがる。


「……育ての親に似たのか」


「……そうみたいね」


「なあ? 何で納得した顔してんの?」


 凄まじく誤解されてしまっている気がする。俺はあそこまで性根が悪くはない……はず。


「……コウ、やりすぎたら駄目だよ?」


 ローラさんにまで注意されてしまった。悲しい。








 次の日。学校を終えて自宅に戻った後で、例のクラスメイトに破かれた羽織を見ながら偽ロリとローラで盛り上がっていた。何故かというと……。


「直してくれて、この刺繍ししゅうもありがとう!」


「うむ。どうじゃ? ワシの修繕は完璧じゃろ?」


 二人の間から羽織を覗き込んでみると、破かれた左腕部分が修繕されているうえに、何かの植物の刺繍ししゅうがされている。あれは確か……。


「月桂樹?」


「正確には月桂冠で、頭ではなく腕を一周する腕輪の様なイメージの刺繍じゃな。ローラの物になったのだから良いじゃろ」


「意味が分からん」


 模様に関しては熟練の技なのか、そこらの服飾よりもセンスのあるデザインとなっている。しかし、何で月桂樹なのか。そんな疑問を察してか解説を始める偽ロリであった。


「勉強不足だの。Laura(ローラ)の語源はラテン語で月桂樹を由来とするLaurus(ラウルス)。これの女性名じゃよ」


「なら、その刺繍ししゅうするなら、せめて右腕の方は無くしてくれ」


「別にええじゃろ。外すのめんどいしの」


「それだと黒板に相合傘あいあいがさを書かれてる気分になるから!」


 俺の一言に悪戯っぽくニヤニヤしている偽ロリと、首を傾げているローラであった。


「なんじゃ~? ワシが夜なべして縫ったさかきの模様が気に食わんと?」


「サカキ? コウの苗字と同じ?」


「うむ。漢字は違うがの。名前をそのまま刺繍ししゅうするよりセンスがあって良いじゃろ?」


 自信満々に胸を張り、そう答えた偽ロリの一方で、ローラはというと……。


「そっかあ……。これサカキって言うんだ……。あれ? じゃあ並べて読むと、ローラ・サカキ? サカキ・ローラ?」


「だから止めてくれって言ってんだよ」


 これだとローラがうちの子になったみたいじゃないか。


「そんなの気にせんでええ。なぜなら……」


「なぜなら?」


 何だろう? 凄まじく嫌な予感がする。


「もしローラが術者として才能皆無であれば、最終的にお主に嫁がせようと思うとった。近くで守るには好都合だしの。ちなみにこの子の両親は承諾済みじゃからな」


「おい! それは初耳だ!」


 この偽ロリ、ローラを日本に連れてくる前にどんな事をやってきてんだ!?


「まあいい。ローラの才能なら、そんな約束は反故ほごになるだろ」


「それでも数年は掛かるからの。それまでは、お主が守ってやれい」


「へーい。それと俺の知らないうちに、人の将来を左右する話を進めんな!」


 俺とルーシーの会話に耳を貸さず、羽織の両腕に刺繍ししゅうされている双方の模様を見比べながら、ほんわかした雰囲気を漂わせている。


「サカキ・ローラ……。えへへ……」


「ローラさんや。正気に戻りなさい」


 自分の世界に入り浸っているローラさんに入魂の手刀をパシッと脳天に見舞ってやる。


「はっ!? ごめん! 何だっけ?」


「覚えてなくていいよ。偽ロリがおかしな事をしてたってだけだ」


 その一言を聞いた偽ロリが俺へと文句を飛ばしている。


「おかしなとは失礼じゃな! 合理的かつ的確な判断じゃろ!」


「俺の許可は!? 真っ先に説明する義務があるだろ!?」


「下手に意識されても困る……。いや待て。それはそれで面白かったかもしれんの」


「人をおもちゃにしようとすんな!」


 こうして、夕食の準備に取り掛かるまで俺とルーシーの口喧嘩が続いていたのだった。。

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