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第53話 捕獲あーんど尋問

 自宅に戻って夕食を取った後で、俺は土曜日と日曜日で掴みかけていた感覚を忘れないように目をつむり耳栓をして、就寝までの時を過ごしていた。


「コーウー? なーにやってるのー!!」


「……」


「ねえ! コウってば!」


 人型の気配が近づいているのが感じられる。背丈からすると、おそらくはねーさんだ。


「おーい! 返事してーーーーーー!!」


「……」


 何も聞こえていない俺は当然無言。それが数分続くと、不意に体が重くなったような感覚に襲われる。というか、ねーさんが抱き着いている。


「えい! 耳栓も外しちゃえ!」


 ねーさんの一言と共に、周囲の音が耳へと響いてくる。たまらず目を開けてしまい文句を言ってしまった。


「ねーさん!? こないだ抱き着かれた時より重くなってないか!?」


「そうなったのはコウのご飯が美味しいせいだから、責任取って!」


「それ理不尽!?」


 だって……、ねーさんがおかわりするからそうなったので、俺に責任はないはず。


「それと……女の子に『重い』は失礼だぞ!」


「ねーさんの場合はどっちかって言うと全身の筋肉で――」


「それも余計!」


 抱き着かれながら、ベシッと音を立てた手刀を頭に喰らってしまう。


「ふむ? くだんの忍者対策かの?」


 俺達の様子を見守っていた偽ロリが興味深そうな雰囲気で近づいてきていた。


「うん。それでさ……。折り入って頼みたいことがあるんだ」


「その顔……、下らん話ではなさそうじゃの。話してみい」








 そうして十日後、演劇稽古と気配察知の訓練を並行しつつ小学校の演劇当日を迎えた。

 稽古の間は忍者と思しき霊はこちらに干渉することは無かったのだが、小学校にいる時間は監視されているような感覚が常時付きまとっていた。

 会場である体育館には児童たちの保護者が雑談しながら自分の子供の演目を楽しみにしている。その中にあって、周りの保護者よりも世代が上と見られる老人が一人。

否、周りからは老夫婦と思われているであろう男女が一組。


「……なあ、ルーシーちゃん? 確かにオレは暇だが……、ここに来てよかったのか?」


「別にええじゃろ。功の時は出席できずに悔しがっとたそうじゃの。ならば今回出席しても文句は出んよ。それにの……」


「それに?」


「功にも頼まれてしもうたからの。できればワシの他にも、彌永いよながの様な腕利きが欲しかったことろじゃ」


 会場では六年生の演目が始まっている一方で、ほぼ人がいなくなってる校舎の中を俺と忍、美里さんが歩いていた。


 ……やっぱり俺を警戒していたか。気配は無いのに……、いや空間の中に人間一人分の空洞があるような感覚。おそらく近くに来ているはず。


「功? 良かったのか? ローラちゃんの方に行かなくて」


「あっちは偽ロリと前室長がいる。心配無用だって」


「功くん……、ちゃんと『分かる』ようになったの?」


 若者三人が無人となっている三階廊下から屋上へ通じる階段へと向かっている。


「なあ……真昼間だけど、七不思議がいる四階に行けるのか?」


「今回はちょっとだけ無理する。あそこに行けば、戦う時も周りに遠慮しなくて済むからな」


 あの四階は現実とは隔絶されている場所。伝承として存在している『迷い家』と同系列の異界だ。階段に自身で結界を張り、そこから先を外界より引き離す。


「こんなのもできるのか!?」


「結界ってのは元々は一定の領域そのものを外界から隔てるものだからな。だから人為的にそれ(・・)を作り出してやれば――」


 コツコツコツと階段を歩く足音だけが周囲に木霊する。段数を数えながら上がっていくと――


「――十三段目。幻の四階に到着っと」


 隠れている存在もこの場にいるのが分かる。なのでヤツに対しても戦闘前に問いただしておきたいことがある。


「なあ……、もしできるなら、戦わずに話してみないか?」


 おそらくは俺らの後方辺りにいるはずのなのだが、相手は無言。


「……やるしかないか」


 その一言を皮切りに俺達三人は相手を迎え撃つべく構えを取る。

 戦闘は七不思議達が夜中に待機している教室前の廊下で繰り広げられることとなった。


「功、どの辺だ?」


「美里さんの正面。3メートル先ってとこか。来る!」


 その指示に従い、美里さんが即座に防御を行う。そして攻撃が来るという事は――


「この場所にいるって事だろ!」


 かさず忍が回り込み、前蹴りを叩き込んでいた。


 二人がいてくれて良かった。俺一人だったら、感知はできても苦戦していた可能性が高い。あちらからすれば卑怯かもしれないが、遠慮なく叩きのめさせてもらう。


「戦いながらでも即座に気配を消す……、姿まで誤認させる隠形おんぎょうか。悪いけど、俺がいる限りもう通じないからな!」


少しばかり挑発混じりで相手へと語りかける。しかしヤツにとっても俺の感知をどうにかしないとならないのは自明の理だ。当然、標的となるのは――


「……俺だよな。けど……」


 敵がいたのは俺の真上。そこから真っすぐに首筋目掛けて伸びている腕を取り、自分の重心の移動に相手を巻き込んで床面へと叩きつける。


「なっ!? どうして……!?」


「アンタこそ、霊になっていても簡単に物理干渉できるって……。それ忍術か何かなのか?」


 俺自身が全身のどこにも魔力を纏っていない状態だったので、相手は感知をされても汲みやすい相手だと侮っていたらしい。

 奴には悪いが油断を誘うためにえて、その状態のままで戦っていた。


「こいつ……、生まれつき何にもしなくても霊にさわれる奴なんだよ」


 俺に投げられながら術で拘束されてしまった忍者の霊は、信じられないモノを見るような表情となっていた。


「このばくを解け! なんだこの……非常識なくらい強力な拘束は!?」


「えっ? 嫌だよ。お前には、まずやってもらわなきゃならないことがあるからな」


 そうしてジタバタしている敵さんを七不思議達が待機している教室へと引きずっていく。


「……なあ? 絵面だけ見てると、アイツの方が悪役みたいだよな?」


「嬉々として引きずってるもんね……」


 忍と美里さん、ちょっとだけ失礼な物言いである。


「さーて。これからは親交を深めるためのお話タイムだ。何でここにいる七不思議達こいつらを襲った?」


「……祓うなりなんなり好きにしろ」


 答える気はない……か。昔の隠密そのものだな。


「あの子……。あんたが守ってたんだろ? しかも分身体……、式神って言った方が良いか。あんなの使えるのなんて、生前はかなりの手練れだったはずだ」


「……」


 俺の推測に対しても無言を貫いている。こういった輩って拷問とかも無駄そうなのでどうするか。


「仕方ない。この手はあまり使いたくはなかったけど……。拘束されて脇は無理だから、足の裏にするか」


「おい、何する気だ!?」


 あまりにも神妙な面持ちになってしまった俺に、忍が警戒をあらわにする。


「ほ~ら! こちょこちょ~」


「ちょ!? やめ!? くすぐった!?」


 俺がヤツの足の裏をひたすらくすぐっている光景を馬鹿を見るような顔で眺めている忍達がそこにはいた。


((何を見せられているんだろう?))


 俺の行為に困惑してしまっていたようだが、美里さんがこちらに近づいてきていた。


「……ねえ。何やってるの?」


「足の裏のくすぐり。四六時中やられるとキツいんだぞ、これ。そしてもう死んでいる人だから死んだら終わりってことは無いんだ!」


 その回答にやっばい者を見てしまったような雰囲気を醸し出していた忍達であった。


「やめて! もうやめてくれ! さもないと――」


「あの子を護衛してる分身体なら来ないが? 今頃は体育館にいる人達が始末してるさ」


「ひゃ!? なん……だって!? ひゃはははは!?」


 そう。これを見越して、るーばあへと前もって協力を要請していたのだ。






 功達が忍者をくすぐり拷問する少し前、体育館ではローラのクラスの演目が始まっていた。


「さて……、ローラもうまくやってくれるかの?」


「しっかし……、あの嬢ちゃんにはまだ荷が重すぎじゃねえのか?」


「本人のたっての希望じゃからなあ……。ワシらがいればどうにかなるじゃろ」


 そうして、もう一つ静かな戦いの火蓋ひぶたが切って落とされていた。

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