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第22話 現れるヘビ

「おい! 何知らんふりしてるヘビ! 蛇を無視するなヘビ!!」


 俺と銀髪偽ロリは、ゆっくりと足音を立てないよう竹刀袋へと接近する。手を伸ばして届く距離まで来たところで、お互い目を見合わせる。


(準備は良いか?)


 その意味を察し、コクリと頷く。


「ひ ふ み よ い――」


 布留ふることで、この場を神気で満たそうとするが、竹刀袋の中にいるやつから、文句が飛んできた。


「おおーっと! 少し待つヘビ。蛇には敵意はないヘビ!」


「む な や ここのたり――」


「やめろって言ってるヘビ! おめーさては蛇の話を聞かない人ヘビね!? てめーの神気はうぜーヘビ。いいから止めろヘビ!」


 訳わからん存在の言うことを聞く時の鉄則。

 とりあえず相手を大人しくさせて、こちらに手出しさせない状況を作ること。今回のは特に正体不明なので、念を入れる。


「ふるべ ――」


「ほんっとに止めろヘビ! やめてくださいヘビ!! お願いですヘビ。どうかその言の葉はおやめくださいヘビ……」


 もう抵抗する気はありませんとばかりの弱弱しい声になっている正体不明な自称蛇だが、俺の新しい刀に何かしようと考えるようなふてぇ野郎なので、今後こんな事にならないように、完膚なきまで完璧に祓っておく必要があるだろう。


「ゆらゆらと――」


「シクシクシクシク……、蛇は……誰にも理解されないヘビね……。仕方ないヘビ。蛇と人は分かり合えないヘビ……。シクシクシク……」


 あれだけデカい態度だったのに、泣き落としをしようとしている。普通ならばこの辺で可哀そうになって、攻撃を止めてしまう人間もいるだろうが、相手が俺という不幸を噛みしめるといい。

 何せ昔、泣き落としに屈してしまおうとした時には、るーばあから杖の尻叩きの刑にあったり、身動き取れなくされて美味しい出来立ておやつをこれ見よがしに自慢しながら目の前で食べられたり、るーばあ自慢のイングランドりょおり(料理にあらず)を口に詰め込まれたのだ。

 すげートラウマなのだよ。はっはっはっ……。はぁ……。


「ふるべ!」


「かんっぜんにガン無視決めて言霊完成させたヘビ! おめー人の心ねーヘビ! へ……へびび……」


 どうやら効果が出たようだ。念のため竹刀袋の外から確認すると邪念と思しき塊はぐったりとしている。


「どうやら、大人しくなったようじゃな。泣き落とし気にせんかったし百点やろう」


「辛い記憶は人を成長させるんだよ……」


 いらずらっぽい笑みを浮かべながらロリ婆さんは竹刀袋から刀を取り出す。すると――


「……ヘビだな」


「ヘビじゃな」


「あ。可愛いヘビさん」


 三者三様の感想を述べてしまったのだが、その蛇は刀から体が出現しており、どう考えても刀に取り憑いている様にしか見えない。

 だが問題はそんな事ではなく――


「なんじゃ? このコミカルかつ、野生の気配を一欠片ひとかけらも感じん、面白おかしい蛇は?」


「なんだろうな? 良くて魔法少女のマスコットキャラ。悪くてただのぶっさいくな蛇」


「えー。普通の蛇だと怖いから、このくらいが可愛くて良いよ~」


 ローラのみ好感触な見た目ではあるが、この蛇、動物図鑑的な蛇ではなく、アニメに出てきそうな、まるで絵に書いたようなデフォルメ蛇だったのだ。


「とりあえずだ。この謎蛇をどうにかするか」


「ちょ……ちょっと……待つ……ヘビ」


「……ひ ふ」


「また言霊唱えてるヘビ……。蛇はまだ……なにも……してない……ヘビ」


 そんなことは知ったこっちゃねーのだ。あの凄まじい怨念を持った骨のせいでこうなったのであれば、放っておくと俺やルーシーはともかくローラに影響が出かねない。


「ねえ? この蛇さん、そんなに悪い感じはしないよ? 霊視を覚えてから視えたルーシーより怖くないから……」


「ほうら! 娘っ子もこう言ってるヘビ! 蛇は悪い蛇じゃないヘビ!」


 ローラはコミカルな見た目に騙されているのかもしれないが、この手の奴は油断してはいけないのだ。ついでに怖いと言われた偽ロリは少しばかり落ち込んでいる。


「いいか? こっちもだが、西洋にだって言葉巧みに人と契約して好き放題するタチ悪いのがいるんだ。正体不明なのは警戒するのがセオリーなんだよ」


「正体不明とは失礼ヘビ! 蛇こそは、あの超有名ですっげえでっかい八岐大蛇……の……分霊わけみたまヘビ!」


「何で、少し間が開いた?」


「だって……蛇は十万分の一くらいの分霊わけみたまヘビ。そこまで強くないヘビ」


 自称なのかマジモンなのかは分からないが、八岐大蛇に関係しているらしい。


「その、そこまで強くない蛇を鉄に混ぜてガンガンと神気を打ち込んでくれたおかげで、こんなにきゅーとな見た目になってしまったヘビ! 責任取るヘビ!」


 責任を取れ……か。こいつの言が真実ならば、俺にもその責任の一端があるということだ。


「なら仕方ないな。責任を取るか」


「そうヘビ。蛇を崇め奉る――」


「こいつ、溶鉱炉に溶かして溶鉱炉ごと厳重に封印しちまおうぜ」


 瞬間、蛇の時が止まってしまっていた。俺が生み出した以上は俺がケジメをつけるべきだろう。そして俺の横にいるルーシーは、感心した表情を浮かべている。


「ほんっとに容赦なくなりおったな。彌永いよながと神屋に預けたのは正解じゃった」


「こいつ……、ガチで人の心がねーヘビ! だが蛇は蛇だけにしつこいヘビ! たとえ溶鉱炉に落とされようとも、あいる! びー! ばっくヘビ!」


 溶鉱炉から復活するとは思えないが、もう一段階上を目指すか。


「……硫酸で溶かして、中和させた後で封印するか。刀本体がなくなればどうしようもないだろ。刀は勿体ないけど」


「こいつ……やべーヘビ! 蛇に恨みがあるヘビか!?」


「別に恨みはない。タチ悪そうだから徹底的にやった方が良さそうだってだけだ」


 せっかく良い刀を手に入れたと思ったら、変な蛇が取り憑いてるし、もっと普通の霊刀はどこかにないもんか。


「ねえねえ、さっきから溶鉱炉とか硫酸とかどうしたの?」


「ん? ローラは言葉は聞こえんか。あの蛇な、刀ごと処分するという話になっとるんじゃよ」


 との言葉を耳にしたローラは刀を背にして、俺達の前に立ちはだかっていた。


「駄目だよ! 可哀そうだって! やめてあげて!」


「娘っ子……。いいやつヘビね……。褒美に蛇頬ずりしてやるヘビ! すりすり〜」


「うえぇ……。ざらざら!? って言葉が聞こえる!?」


 蛇肌の感触に驚いているローラだったが、それ以上に言葉が聞こえていることに途惑っている。


「るーばあ、あの蛇?」


「ああ、ローラの力で実体化しておる。お主はこういう時は不便じゃな。当り前に視えるから違いが分からんか」


 実体化ということは、ローラに手出しをできてしまうということだ。これはマズい!


「ローラ、すぐに離れ――」


 そう……、俺の制止はもう遅かった。


「蛇はこんな冷血小僧じゃなくて娘っ子の刀になるヘビ! さあ! 蛇を手に取るヘビ! ぺろぺろヘビ!」


「くすぐったいって! へびさん、やーめーてー。きゃー」


 ローラの頬を舐めて、少しばかりふざけ過ぎている蛇の首根っこをギュッと握り、刀ごと持ち上げる。蛇は苦しそうだが、関係ない。


「おい、てめえは八岐大蛇とか言ってたよな? ローラをクシナダヒメの代わりに喰う気か?」


「へ……へびび……、ぐるじ……。へびいじめ……はん……たい……へび」


 蛇、現在首吊り状態真っ只中。どうにかしようとバタバタしているが、実体化が解けても首を握ったままの俺に違和感を感じたらしい。


「小僧、何で……蛇を掴んだままで……いられる……ヘビ!?」


「生まれつき。運がなかったなぁ、所有者が俺で」


 このままトドメを刺そうと考えていると、ルーシーからストップが入ってしまった。

 この偽ロリも蛇に対しては警戒していたはずなので解せない。


「ちょい待ち。のう……、この蛇、ローラの持つ霊の実体化の練習台にできんか?」


「……マジで言ってんのか?」


 ルーシーの信じられない発言に思わず、威圧的な気を放ってしまう。近くにいたローラも感じ取ったらしく、ビクッと体を震わせていた。


「不可抗力とはいえ、自分の結界内に侵入されて、警戒するのは分かるが落ち着けい! ローラ本人にも自分の力の制御を教えていかねばならん。そういった意味でうってつけじゃよ、こやつ」


 確かに言いたい事は分かる。だが、コイツでもなくとも良いはずだ。


「こやつ、偶然じゃろうが、功が鉄を打ったせいでかなり弱体化しておる。単体で何か出来る力もないはずじゃよ。それにの……、万が一の場合はワシがおるよ」


 つまるところ、ルーシーがどうにかするので、この蛇は見逃せということだ。


「分かったよ。とりあえずは……な」


 これで話がまとまったかと蛇は俺を凝視して、尊大な態度をとってきていた。


「これから蛇のことは大蛇様と呼ぶヘビ。でねーと夜な夜な金縛りの刑ヘビ」


「んなもん効くかバーカ! てめぇなんざ駄蛇だへびで十分だ」


「蛇を宿した刀を使う癖に敬意くらい払えヘビ!」


 こいつとは絶対に馬が合わない。その予感を噛みしめながら、この駄蛇刀の所有者になってしまった俺であった。

人物?紹介

駄蛇。出雲で見つかった推定八岐大蛇の骨を混ぜて打った刀に宿ったヘビらしきもの。

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