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第169話 修学旅行へ

 対策室地下の模擬戦用演習場にて、相手と向き合っている。

 今の俺は刀も銃も装備しておらず、相対しているローラと同じ徒手空拳となっていた。

 とはいえ、ローラについては魔力糸補助の篭手を装備している状態のため、完全に同条件というわけではない。


 そのローラが魔力糸を構築して、それを寄り合わせてロープを作り出していた。そのロープはまるで大蛇が獲物を捕獲するかのようなうねりと鋭さを持って、そして鞭の攻撃力を備えて俺の眼前へと迫りくる。


 構築から攻撃までの流れがスムーズだ。AI補助ありとはいえ、この速さは脅威になりえる。


「じゃあ……、久々にやってみるか!」


 気合を入れて、迫る鞭を紙一重で躱す。しかし、紙一重ではいけない。それをこの武器相手にやってしまうと、すぐに軌道修正されて追撃が来る。

 通常ならば……だが。


「嘘……!? そんな細い糸で!?」


 俺は魔力糸を十数本ほど構築して、ローラの作り出した暴れまわる蛇の様なロープを絡めとっていた。


「コウの魔力糸も久々に見るねー」


「ほんとに使えたんだな。細い糸が何本もあるけど……あんなに器用に鞭みたいになってるのを止められるのもなのか!?」


 見学スペースで俺達の模擬戦を観戦している面々のうち、レイと忍がそれぞれの感想を漏らしている。


「魔力糸自体はそう難易度は高くないからの。子供の頃はよう使っておった」


 一緒に来ていた偽ロリも追加で解説を行っていた。


「うまく動かない!? どうして!?」


 ローラが自分で作り出したはずのロープのコントロールが利かないことに焦りの声を上げていた。

 俺の魔力糸、緩く張ったものと、ピンと強く張った糸を組み合わせて、ローラが構築した鞭のコントロールを狂わせ、それでできた一瞬の隙で細い糸が何本も絡みつき、動きを封じられている状態だ。


だが、この攻防はこれだけでは終わらない。


流星(シューティングスター)


 ローラの視界の外、意識外から流れ星の如く高速で迫りくる一本の糸は、俺が限界まで強度を高めたものだ。


 それがローラが魔力糸と篭手の繋ぎ目に飛来する。彼女の構築したロープは根元から切断され、模擬戦の終了が告げられる。


「コウ! 凄いよ! どうやったら細い糸のままであんなのできるの!」


 目を輝かせたローラ、そして観戦していた面々もこちらに来ていた。

 偽ロリとレイ以外は俺の魔力糸のコントロールに興味津々といった感じだったが、肝心の俺はそれどころではなかった。


「もう無理! 腕と手と指が吊る!?」


「「「はい?」」」


 俺の悲痛な叫びで呆気に取られてしまったようで、ぽかんとしてしまっていた。


「魔力糸はの、本来は女性のしなやかな筋肉で操るようなイメージでやるのが理想なのじゃよ。子供の頃ならともかく、もう大人の体格の功ではこうなってしまうぞい。特に功は生来の体質で魔力糸だろうと物質の糸だろうと操る時の負荷は関係なのでな」


「じゃあレイチェルはできないの?」


「こやつはの。糸の構築はできても、単純に不器用でコントロールが下手なのじゃ」


 偽ロリ解説で、レイは苦笑いを浮かべてしまっていた。

 その一方、俺はヤツに対して、吊りそうな腕を揉みながら文句を言い放ってしまった。


「偽ロリさん、魔力糸108の必殺技とかないのか? それ教えればいいだろ?」


「そんなにあるかい! ええじゃろ、お主が死蔵しとった技じゃ。有効活用するのは悪くないじゃろ?」


「資料とかねーのかよ。動画とか」


「ワシ、子供達の動画は可愛らしいのと恥ずかしいのしか残しとらん」


 そんなの残すより、ローラの役に立ちそうなのを残しておいて欲しかった、そう言っても無駄だなと、溜息をつきながら休憩に入った。








 


「あー生き返るー」


 休憩中にスポーツドリンクを飲みながら、椅子に座ってリラックス。来週にあるイベントに思いを馳せて愉しみ半分、お困り半分といった状態となっている。


「来週は修学旅行かー。京都も久々だなあ」


「行った事はあるんだな」


「うん。仕事で。あんまりいい思い出はないけど」


「そうなのか?」


 忍も興味があるらしく、話しに乗ってくれていた。


「京都はなあ……。古い術者の家系が結構あってさ。プライドも高いのなんのって。協力をお願いした時も、ちくちく嫌味を言われてさあ……」


「うえー……。マジか……。俺一人だったらキレてるな、それ」


 俺の遠い目をしながら当時を思い出して疲れたような顔をしてしまったので、色々と察してくれたらしい。


「あとさー……。京都って千年前の高名な術者が張った都全域を覆う結界が、今も作動中なんだよ。ちょっと弄れば、どうなるか分からないような訳わかんないのが」


「結界とか得意な功がそれ言うのか!?」


「あれはヤバい。変態的なブラックボックスだ。あんなの見てたら具合も悪くなる」


 俺なんて意識しなくてもその結界が視えてしまうので、それを解析しようなんて考えた日には、頭の中パンク。糖分が欲しくなる脳疲労付きでうんうん唸りながら就寝になってしまうこと請け合いだ。


「京都ってそんななんだ? そういえば、まだ行った事が無かった気が」


「美里さん。さっきいった通りで古い家系も多いから、相当マズいのじゃないと対策室(おれら)の出番ってないんだよね。ついでに派遣されるとしても、師匠(せんせい)とか本当に上の人達だったり」


 その師匠(せんせい)に同行した小学生の頃でさえ、俺はともかく師匠(せんせい)にまで嫌味を言っていたのだ。プライドの高さは筋金入りと見ていい。


「腕が立つ人が多いのは事実なんだけどね。多分、沖縄で会った芦埜(あしの)さん……柳玄さんの方も京都出身のはずだから」


「あ。そうなんだ。だからコウも知ってたの?」


「あの人は個人としては裏社会で有名だったりするけどな。それとは別に芦埜っていえば、京都では名の知れた術者の家系なんだよ」

 

「はえー。じゃあイオリさんも?」


 ローラの問いに首を縦に振り、肯定する。問題は京都にも師匠となれるような人間はいるはずなのに、わざわざ上京して柳玄氏に師事している理由だ。


「じゃあ、あの娘ってお嬢様なんだ。誰だっけ? そのお嬢様を地面に転がして胸の部分を思いっきり踏みつけたのって」


 レイがからかうように、にやけながら先日の伊織さんとの戦闘のあらましを語っていた。


「踏みつけたのは、鳩尾みぞおちの部分! 誤解されるようなこと言わないで!」


「ところで功にぃ? あの時に柳玄さんの蹴りへの反応が一瞬遅れたのは?」


「のおこめんとで良いですか?」


 実はちょっと柔らかい感触に違和感を覚えたからとか言ったら、怖いことになりそうである。


「んー……。でもさ、その芦埜(あしの)の仕事でも対立しちゃったし、何かされない?」


「ま、流石にただの修学旅行で面倒事になるはずはないし、他の生徒もいる。ついでに京都に行ったのも小学生の頃だから、誰も俺の事なんて覚えてないって」


 レイもゴタゴタになるのではと、ちょっとは心配しているらしい。

 俺的には京都を楽しんでくる予定なのだ。そんな俺の緩い顔を眺めていた皆さんは、何故か微妙な表情となっていた。


(((……なんか……今、すっごい大きなフラグが複数本どころか平野一面に立ってしまったような気が……)))


 そんなおかしな雰囲気となってしまった演習場にて、偽ロリだけはいつもの調子であった。


「功、とりあえず土産は地酒な。京都にもいい蔵元があるんじゃよ~」


「だから俺は二十歳じゃねえっての! 酒を買ったりしたら怒られるっての!」


「そこはこっそり私服で……の?」


「できるか!」


 偽ロリの無茶な注文を鋼の意思を持って、きっぱりとお断りして数日後、俺はクラスのみんなと共に修学旅行へと赴いたのであった。


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