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極式命名

 牛鬼との戦いから程なくして、俺は室長室へと呼び出されていた。どうやら羽衣(うい)に関する事であるらしく、師匠(せんせい)は嬉しい様で少しばかり難しい表情を浮かべていた。


「どうやら出雲では羽衣(うい)が世話になったようだ。改めて礼を言う」


「世話をしたのは、あのスパルタ神ですから。俺に言うのは筋違いですし……、極式を発現させたの羽衣(うい)自身です」


「それでもだ。お前が近くにいたから、娘も壁を超える事ができたと思っているよ。それと、その神は……一応はウチの源流だからな? 少しは敬うように」


 羽衣(うい)の極式に関しては、本当に俺は何もしていないので、こそばゆい気分となってしまう。

それとは別に俺自身も師匠(せんせい)には用事があったので、その件について口を開いた。


師匠(せんせい)、俺からも折り入って相談があります」


 その言葉を師匠(せんせい)は真剣な眼差しで聞き入っていたようだった。









 それから程なくして、週明けの月曜日。いつものように学校へと通っていた俺だが、そのいつもに少しだけ変化があった。


「功にぃ、来ましたよー!」


 昼休み、大体は俺のいる教室を訪れる羽衣(うい)なのだが、その姿にクラスメイト達はざわつき始めてしまう。


「あれ、羽衣(うい)ちゃんだよな? 功にぃって……?」


「それよりもだ。アレって……、まさか……」


「でもさ、それだけじゃなくて……雰囲気もちょっと……」


 彼らは俺と羽衣(うい)を交互に見比べてコソコソヒソヒソと何やら話している。


「坂城……、一つ聞きたいんだが……」


 クラスメイトの一人が恐る恐る口を開きながら、こちらに奇異の視線を向けている。


「お前……、羽衣(うい)ちゃんを振ったのか!?」


「何でそうなるんだよ!?」


「だって……なあ?」


 彼は周りに同意を求めるようにそちら向くと、クラスの人間もうんうんと頷ていた。


「あのなあ……。その髪の事を言ってるなら、昨日一緒に美容室に行ってきたんだ。変な勘違いはしないでくれ」


 そう、今の羽衣(うい)は、再開した時の長い髪を首元くらいまで短く整えているのだ。

 それもあって、クラスのみんなは変な勘違いをしてしまったらしい。


「じゃあ振ってないんだ。雰囲気もガラッと変わったよね? 呼び方とか」


 今度は藤田さんからのご質問である。彼女も興味津々といった感じだ。今までの羽衣(うい)の所作からすれば、かなりギャップを感じているはず。


「俺から言わせれば、子供の頃に近くなった感じだ」


「あ、そうなんだ。ふーん、でもさ、こっちの方が自然体って感じ」


「ほんとにな。昔の妹みたいだった時みたいだよ」


 その一言を放った瞬間、クラスの雰囲気が凍り付いてしまった。


(妹って……、どう考えても地雷踏んでるだろ!?)


(あちゃー。坂城君、やっちゃったー)


(ミスター朴念仁の称号を贈るでござる。口には出せませぬが)


 羽衣(うい)には同情、俺には批難の視線がクラス中から送られていたのだが、当の羽衣(うい)は、くすりと笑って俺と腕を組んで来ていた。


「妹でも構いませんよ。功にぃは家族だと思ってますから。ただ……」


((よ、余裕だ……。今までと違って余裕が感じられる!?))


 みんなして羽衣(うい)の態度が今までと違い過ぎるので驚愕してるらしい。その彼らを尻目に羽衣(うい)は更に言葉を続ける。


「嫁と呼んでもらっても構いませんよ? 妹でも嫁でも家族には違いありませんから」


(((失恋したから髪を切ったと思ったら……、更にアグレッシブになってる!?)))


 クラス中の心の声が一致している様な雰囲気となってしまっていたのだが、先の羽衣(うい)の発言で俺に対して思わぬ伏兵が姿を現してしまう。


「坂城、放課後……職員室な? 一応は事情を聞かせてくれ」


「先生、誤解です! 嫁とか何か勘違いしてませんか!?」


「あー……。教員にも立場ってのがあってだな。大丈夫だとは思うが念のためだ」


 という訳で、俺はめでたく職員室へのお誘いを頂いてしまったのであった。







 先生にこってりと尋問を受けた後、精神的疲労を隠しきれずに羽衣(うい)と一緒に帰宅をすると、カズさんがウーンと腕を組んで唸り声を上げていた。


「どったの、カズさん?」


「半紙と筆と墨汁が欲しい。あと幼子(ローラ)の実体化もな」


「何する気だよ。習字?」


 またおかしな事をやりたいのかと呆れているうちに、ローラも帰宅。カズさんの希望通りの道具一式と実体化した状態で俺の部屋に籠っている。


「何を考えてるやら。ま、俺は夕飯の支度でもするか」


 そうして30分後、どうやら実体化が解けたらしいカズさんが俺を引っ張って部屋へと導いていた。

 どうやら持って来てほしいものがあるようだった。それは半紙数枚に達筆な字で書かれた漢字の羅列であった。


「神風使いの娘。この儂が手ずから、貴様の極式の名を考えてやったぞ。好きなのを選ぶといい」


 そういや羽衣(うい)の極式には、まだ名前がないとかカズさんに漏らした気がする。

 せっかくなので、その考えた技名を確認してみる。


「んと……、『天嵐封魔』。……こっちは『天魔陣崩』。『静嵐護法』……?」


「儂のお勧めはこれだがな」


「なになに? 『兄様好き好き大好き嵐』……!? ふざけてんのか、これ!?」


「別にふざけておらん! 貴様の極式の説明から察するに……、あの嵐の壁は愛の告白に等しいだろうが」


 カズさんの指摘に思わず俺も頬を赤らめてしまう。


「コウ……、どうしたの? 真っ赤だよ?」


「何でもない。何でもないから!」


 ローラさんにも変な心配をさせてしまったらしいが、羽衣(うい)は自分の極式の名前候補を一枚一枚丁寧に見回していた。


「あの、これは? 『風裂天陣』……? これだけイメージに合わない気が。()くって違う気がします」


「それか? 儂の知己の字から一文字取らせてもらった。裂示(れつじ)、てめえの先祖の名だ」


 カズさんの言葉は俺が訳してるのだが、それを言いつつ俺も目を見開いてしまう。


「カズさんが兇魔に襲われた時に救援に来たっていう?」


「ああ。てめえらに負けず劣らずのお人よしだった。それに似合わずにクソ強かったがな」


 懐かしむように語るカズさんの隣で、羽衣(うい)は先程の技名が書かれた半紙を手に取る。


「これが良いです! これにします!」


 元気よく、羽衣(うい)はそう答える。

 その顔を見て、カズさんも満足そうな笑みを浮かべていた。

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