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牛鬼戦

 現地である出雲に到着すると、もう夕方になってしまっていた。俺達の活動は基本的に夜なので、これから調査を開始することになる。


「牛鬼は伝承によると海に現れるっていうから、宿にチェックインした後で浜辺にでも行ってみるか」


「小僧、蛇にちゃんと錆止め塗っておくヘビ。潮風で刀身(からだ)が錆びたら嫌ヘビ」


「お前の手入れはちゃんとしてるから心配するな」


 海沿いに行くとので駄蛇がそんな心配をしている。一応、仕事が終わった後はメンテをお願いするつもりだ。


「とりあえず行きましょうか」


 そうして二人と一霊、一駄蛇はその地方の浜辺に向かうことになった。







 浜辺に到着すると、もう完全に日は落ちて周囲は闇に包まれている。海辺、しかも海水浴シーズンは過ぎているので、人の気配は無く明かりになるようなものも見当たらない。


「……いやがるな」


「カズさん、ここまで付いてこなくて良かったんだぞ?」


「一人で宿なんぞ、つまらん! お前らが戻るまで暇になっちまう」


 軽口を叩き合っているが、最初にカズさんが感じた通り、近くに強力な怪異の気配を感じる。

 その雰囲気に俺と羽衣(うい)は気を引き締めていた。


「すんませーん! そこの怪異(ひと)。話す気があるなら出てきてくれませーん?」


 俺の対応にカズさんと羽衣(うい)が少しばかり脱力している。どう考えても、危険な気配を出している相手に、対話を試みるのは如何なものかといったところだろう。


「一応、話し合いから入るのは大事なんだぞ。何か事情があるのなら、それを解決するのだって仕事の内なんだから」


「兄様……、そうは言ってもあちらはやる気みたいですよ」


 その言葉と同時に俺と羽衣(うい)は臨戦態勢に入る。二人共、所有している霊刀を構えて相手を見据える。


 現れたのは伝承の通りの鬼の頭に牛の体を持つ巨躯。俺達へと敵意を宿す瞳で睨みつけていた。

 その巨躯が俺達に向かって真っすぐに突っ込んでくる。


 ……速い!


 その四肢が生み出す豪快で力強い突進を紙一重で躱す……が。


「な!? これ……」


 これも伝承の通りでヤツは毒の息を吐きだすらしい。特に俺は生来の体質のため、霊的なものですら、即座に身体へと影響が出てしまう。

 体が軽く痺れてきていた。このままでは戦闘への影響が避けられない。


「兄様、下がって! 七式・『穿嵐甲迅(せんらんこうじん)』!」


 風薙斎祓(かぜなぎさふつ)、七式。穿嵐甲迅(せんらんこうじん)――自身の全身に高速の風を纏わせて目標を貫く、攻防一帯の技だ。


 これであれば牛鬼が発する毒の息も羽衣(うい)に届くことは無い。

 その一撃は牛鬼にも確実に手傷を負わせている。


「ほう……、あの娘。在りし日の神風使いを彷彿とさせるな……。末裔だから当然だが、女だてらにやるじゃあねえか」


 カズさんも感心したように羽衣(うい)を見守っている。


「小僧、毒はどんな感じヘビ?」


「痺れが少し。それと目が霞んできてる」


「それ、ヤバいんじゃないかヘビ!?」


 伝承で毒を使うと知っていたというのに、この体たらく。この状態で前に出て戦うのは無謀。なら、こちらでやらせてもらう。


 目を閉じて収斂(しゅうれん)を行い、集めた自身の神気を羽衣(うい)が使っている神気と同調させる。


昂襲(こうしゅう)ノ型!」


 怪異や霊に対する攻撃力を上昇させる補助系の術だ。それに続けて更にもう一つの術を発動させる。


磐鎧(ばんがい)ノ型ッ!」


 次は対象の周りに盾のような結界を展開させ、防御力を上げるための術。これで前線を維持している羽衣(うい)をサポートする。


「ふるべゆらゆらと――」


 布瑠(ふる)(こと)と共に周囲に展開されるは、牛鬼の突進を妨げるための結界。自宅で使っているものの簡易版ではあるが、怪異に対してはそれなりの重圧となる。


(あのガキ、自分じゃ相性が悪いと見るや、即座に娘の支援へと切り替えたか。そういや、支援が本領とか言ってた気がする……。普段そうは見えねえけど)


 カズさん、俺らの動きを観察して分析を行ってるような視線だ。


(兄様……、即座に三つの術を構築!? サポートをやらせたら一級品なのは変わりませんね)


 羽衣(うい)も一瞬だけ、こちらへと視線を向けてから牛鬼と向かい合う。


「すいませんが、あまり時間はかけられませんので、決めさせてもらいます!」


 穿嵐甲迅(せんらんこうじん)の状態のまま羽衣(うい)は牛鬼へと突進する。その身にまとった神風は牛鬼の毒を吹き飛ばしながら、ヤツの角をへし折っていた。

 

 その一撃で後退した牛鬼の隙を羽衣(うい)は見逃さなかった。


風薙斎祓(かぜなぎさいふつ)、六式。狂風(きょうふう)(まとい)ッ!」


 嵐を彷彿とさせる高速で回転している風を纏った刀身が牛鬼の顔面を捕える。


「浅かった!?」


 羽衣(うい)の放った一撃はヤツの頭から右目を斬り裂いたが、まだ生きている。

 その牛鬼は命の危機を悟ったか、結界の重圧をものともせずに海の中へと逃走してしまった。


「逃がした……。兄様、兄様!? 大丈夫ですか!?」


「吸い込んだ毒は少しだから大丈夫だ。体の中に神気を巡らせて中和させてるから、時期に具合は良くなる」


 その言葉にほっと胸を撫で下ろした羽衣(うい)であったが、俺もこのままというわけにもいかない。すぐに宿に戻って休むことにした。








「認識が足りなかったな……。牛鬼は人を海に引きずり込む……って話もある。不利になったら、すぐに逃げることだってできるか」


「思っていたより厄介のようだな。海辺に現れる奴を海中に逃がさず討伐せにゃならんか」


 俺は毒の後遺症のため布団に寝転がりながらだが、牛鬼に対しての作戦会議を行っている最中だ。


「ごめんなさい……。わたしが逃がさなければ……」


「いや、あの結界から無理矢理逃げ出せる力があるとは思ってなかった。俺も詰めが甘かったよ」


 お互いそれぞれの行動に対して謝罪するが、それはもう終わりだ。やるべき事は、あの牛鬼の討伐方法だ。会話をする気すらなく襲いかかってくるような奴なら、次に出会ったら即座に戦闘になるだろう。


「小僧、どのくらいで全快するヘビ?」


「とりあえず、一晩寝てれば大体は」


「牛頭、あの傷なら明日は出てこないと思うヘビ。傷が癒えてからじゃないと不利だと思っているはずヘビ」


「根拠は?」


「蛇の野生の蛇勘ヘビ」


 基本は家で食っちゃ寝してるお前のどこに野生が残っているのかを問い正したい気分だが、流石に具合が悪いので今日はもう休みたい。


「まあ、手傷を追ってその日に出るとは思えないから、今日はもう寝……る? 羽衣(うい)さん? 何で俺の隣に布団敷いてます?」


「兄様の看病のためです」


 にっこりと、もう当然とばかりに布団を並べて敷き始めている。


「おい、あの娘……、ガキの体調が悪いのにかこつけて……、しかも儂等がいるってのに、いい度胸してやがる!?」


「小僧、蛇は邪魔ヘビか? 押し入れに入っていた方が良いなら放り込むヘビ。蛇は何も見てないことにするヘビ」


 居て。マジで居て。何だったら耳障りな蛇ソング熱唱していいから居てくれ!


羽衣(うい)? 子供の頃ならともかく、今はマズいから自分の部屋に戻ってくれ」


「大丈夫ですよ。何もしませんから」


 そう言いながら、俺の額に掌を当てていた。


「むー。やっぱり微熱がありますね。やっかいな毒だったようです。むしろ微熱で済んで良かった……」


「何で気付いた?」


「兄様の事ですから。大丈夫な振りとか結構するでしょう? ですので、今晩はつきっきりで看病です」


 もう決定とばかりに、隣に敷いた布団に寝そべった羽衣(うい)さんであった。


「では、おやすみなさい。辛かったら遠慮なく言ってくださいね」


 そう言いながら彼女は部屋の電灯を消す。俺はというと戦闘の疲労と毒の後遺症のため自分が思っていたよりも体力を消費していたらしく、そのまま意識を失ったかのように眠ってしまっていた。

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