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第151話 イリナの感覚

 空港を後にした俺とローラ含むロベールさん一家は、その空港付近でタクシーを拾い宿泊先であるホテルへと向かっていた。

 その流れて行く景色とドアミラーやバックミラーを視界に入れながら、周囲に気を回す。


「コウ? どうしたの? お外ばっかり見て」


「ん。さっきな、多分……同じ便で海外……、フランスの術者が来てた。もしかしたら、ローラのご両親をつけて来たのかもって思ってな」


 その一言でローラとジャンさんは目を見開いて驚いている。

 しかし、イリナさんだけは落ち着いた様子であった。


「ああ……、やっぱりね。隠れようとしてる感じの色を出してた人がいたのよ~」


 おっとりとした間延びしたような声だけを聞くと信じられないかもしれないが、彼女は自身が生まれ持つ感覚でそれを察知していたらしい。


「けど……このタクシーの後を追ってる感じはないし……。単身で来たのかなあ?」


「ねえねえ、コウ。ルーシー達が空港に残ったのって……」


「とりあえず相手方の真意が何か分からないからな。対策室(うち)に用事なのか……、それともお二人を陰ながら護衛しているのか」


 けど、追っている感じがない以上、後者ではない可能性が高い。


「随分、険しい顔をしている。何か理由が?」


 ジャンさんの指摘に少しばかり難しい顔をしてしまう。


「あー……、そのですね……」


「私達の事は気にせず……ね?」


 イリナさんにそう促され、少しばかり気まずくなりながら口を開く。


「その、新年早々にこちらにフランスの怪異達が大挙して押しかけたのは、ご存じですよね?」


 その問いに黙って頷くローラの父母に対して更に続ける。


「その時、生き残っていた者はあちらに送り返しました。それとは別に対策室(うち)も、連中の来日を防げなかった件については抗議をしています」


「ふむ……。ぼくはその辺を詳しくは知らないが、その後はどうなったんだい?」


「あちらは沈黙を貫いていました。要は言い訳も何もなし。偽ロ……、ルーシーとは昔に相互不干渉となっているらしいので、そのせいなのか。ただ、欧州といっても範囲が広いですし、国によっては対応も違うらしいので、今回はどうなのか……と」


 それが今になって何かのアクションをして来た。しかも、このお二人の来日に合わせてだ。

 偶然であれば良いが、そうでなければ目的はなんなのか。


「まあまあ、功くん? って呼んでいいかしら? 難しい事を今考えていても仕方ないわ。まずはホテルにチェックインして荷物を部屋に置きましょ」


「え、ええと……。何というか……大らかな方ですね……。ローラのお母さんは」


「ママ、大体はこんな感じなの。細かいことを気にしないというか……」


 ローラさんも苦笑しながら、俺のイリナさんに対する印象に同意している。


 そんな会話を続けながら、ホテルへと到着しチェックインを済ませて部屋へと通されたのだった。

 いち高校生にはどう考えても縁が無いような豪華ホテルなので、思わず身構えてしまう。


「お父さんが元外交官って……、ローラさんはお嬢様だったんだなあ……。もしかして結構偉い人?」


「そこまでじゃないわよ~。さ、お話しましょ」


 そうして室内に設置されているテーブルの椅子へと腰掛ける。

 俺とローラが並んで座り、テーブルを挟んでジャンさんとイリナさんが向かい合っている状態だ。


「まずは礼を言わせてほしい。娘を日本で匿ってくれたこと。そして守ってくれていたこと。本当に感謝しているよ。ありがとう」


「それはまあ、俺だけでやったことじゃないですから……。礼ならローラを受け入れる体制を作った師匠(せんせい)にでも言ってください」


 その言葉を口にすると、あちらは顔を見合わせてクスリと笑っていたようだった。

 その様子に首を傾げていると、イリナさんが説明してくれた。


「ごめんなさいね。ルーシーさんの言っていた通りだなって。ビデオチャットで話した時に、素直じゃないが奥ゆかしくて可愛いところもあるんじゃよ~って」


 あの婆さん、俺に隠れて連絡取り合ってやがったな。


「子供の頃はもっと素直じゃったが、どこでどう捻くれてしもうたのか……とか」


「それは半分以上、あの婆さんのせいだと思います! あの人がいなくなってから……色々ありましたから……」


 ガキの頃、俺が入院してる間に出立の準備して目覚めてすぐにいなくなるとか。その後だって修業しながら仕事もこなして、それに慣れて来たと思ったらローラを連れて戻ってくるとか。あの偽ロリの行動は読めない部分が多いのだ。


「でもね。ローラをまた日本に滞在させるきっかけは、ルーシーさんの取ったあの動画のおかげなんだから」


 それを耳にして、頭を抱えてしまった俺であった。俺の黒歴史記録が増えたヤツなんだから。


「あ、あのね? あの動画の中の功くんは、本心からローラを気遣って守ってたっていうのが、ちゃんと分かったんだもの。そんなに落ち込まないで。ね?」


「よく自分でもあんなの言ったもんだと、後で悶絶してました……。しかも動画にされて永久保存版にまで……」


「あはは……。でもね。格好良かったと思うわよ。うん」


 すっげえフォローされてるよ。


「そんなわけで、娘の希望も叶えることになったのさ。イリナの感覚で太鼓判を押されてしまっては、ぼくも反対できなかった」


 相手の感情を色として捉えて、真偽を見抜く共感覚者。その人物の前では虚偽は通じない……か。


「あの……イリナさんは、産まれた時からその感覚が?」


「産まれた時からかは分からないけど……、物心がついた時にはもう視えていたわ。功くんはどうだったの? 霊とか見えたり話せたりするのよね?」


「俺も一番古い記憶からそうでした。多分、産まれた時からです」


「そっかあ……。似た者同士なのね、私達」


「こういった感覚は五感に根差しているからか、オンとオフの切り替えは基本的に出来ないらしいですよ。俺もそうですし、そちらもですよね?」


 その問いに静かに頷いてくれたイリナさんであった。その彼女だが、俺を見ている様子はどこか嬉しそうなのだ。


「何ていうか、こうして話してみると初めて会った気がしないの。昔から知ってる感じ」


「ローラやレイ……、もう一人うちにいるルーシーの子孫ですが。二人と違って俺達は特殊な感覚を継いでいますから。どこかで通じ合う部分があるのかもしれません」


「そうそう! 人と違う部分をすぐに分かるところとか。やっぱり繋がりがあるんだなって」


 俺の事情を知っている大人で、ここまで話しやすい人って師匠(せんせい)達以外では初めてかもしれない。


「あの……」


 思わず頭に浮かんだ疑問を口に出そうとしてしまったが、躊躇(ためら)ってしまう。

 その様子を察したのかイリナさんは、掌をポンとして楽しそうに語り合っていたのを切り上げる様にこう言った。


「ねえ、町を見て回った後でお食事しましょ。功くんも一緒にね」


「え、ええと……。案内はともかく、その後は親子水入らずの方が……」


「だーめ。せっかく会えたんだもの。ね?」


 何だろう? 親しみやすい気はするが、距離感が他人のそれじゃないような?


「なあ? イリナさんって、こんな感じなのか?」


「うーん……。いつもはもっと、かしこまってる気が……」


 頭に浮かんだ疑問をそのままローラに投げかけてしまった。

 実の娘であるローラも珍しい光景であるらしく、不思議がっている。


「それだけイリナの感覚で視ると、君は心地良いということだよ。下手に気を使う必要が無いくらいにね」


「パパ、そうなの?」


「イリナの共感覚は、たとえ初対面でも相手の考えを感じ取ってしまうからね。だから警戒すべき人間には、初見でもそれ相応の態度を取るのさ」


 その理屈で言うと、俺はまったく警戒する必要が無いと思われていることになる。


「もしかして、俺ってそんなに馬鹿正直な人間って事ですか!?」


「違うわよ〜。人間、誰だって嘘くらいつくけど、それだって種類があるでしょ。相手を騙して傷付けようとする人もいれば、必要に迫られてそうしている人も。功くんは後者よね〜」


「……えっと、自己紹介で分かっちゃいました?」


「そうね。まあ、何となくは。子供の頃から色々あったみたいね~」


 うわー……。これは……下手すれば俺より厄介な感覚じゃ……。


「ええと……。何ていうか……」


 あの婆さんの変なの引き継いで大変でしたね。なんて口に出そうとしてましったが、あちらは愛想の良い笑顔で先に言葉を返されてしまう。


「やっぱり違うわね~。気味が悪いとか怖いじゃなくて、共感が先に来てる。だから話しやすいのね」


 その一言で、彼女にもこれまで色々な事があったのだろうと容易に予想できてしまった。


「さ、行きましょ。せっかく日本に来たんだもの。色んな所に行きたいわ~」


 イリナさんはウインクしながら俺達に催促する。俺、ローラ、ジャンさんは顔を見合わせてクスリと笑いながら、その提案の通りに町へと繰り出していった。 

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