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第150話 ご両親来日

 夏休みも始まり、ローラさんが最近ソワソワしている。理由については明白だ。勉強会でも明言していたが、あと数日でローラのご両親が来日するのだ。


 そして俺はというと――


「どうしよう……!? どうやって挨拶すれば良いんだ!?」


「何故お主までテンパっておる?」


「お前のせいだよ。勝手に許婚とか決めて来た破天荒ロリさんの!」


 そう。最初にローラさんが来日した際、もしローラに術者としての才能が皆無であった場合に俺と婚姻させて、一生守らせるとか約束してきたらしい。


「コウがそうなるって珍しい……、仕方ないのかなあ?」


「レイ……、どうしよう!? いきなり、ウチの娘に手を出そうとした不届き者とか言われたら!?」


「それは無いと思うけど……。そんなだったら、また日本には来させないでしょ」


 レイの言う通りだ。冷静になれ俺。ローラのご両親は少なくとも俺の事を嫌ってはいないと思いたい。


「コウ、大丈夫だよ。パパとママはちゃんとコウが一生懸命わたしを守ってたって知ってるから」


「お、おう……。まずは挨拶だな。Bonjour, enchanté de faire votre connaissance(こんにちは。お会いできて光栄です)……」


「そこでpère(パパ)mère(ママ)って付けても……」


「何言わせようとしてるんだ!? 俺の親じゃないだろ!?」


 そのやりとりを近くで見ていた偽ロリとレイは凄まじく微妙な顔となっている。


「うーむ……。功が面白い事になっておるが……。まーだ踏ん切りがついてなかったんじゃな、あやつ」


「仕方ないんじゃない? 境遇が特殊だし、親って存在とどう接すればいいか分かんないんだよ」


「端から見れば、神屋あたりとは親子に見えるのじゃが……」


  俺のアタフタ具合でそんな感想を持ったのとは別に、ローラについても別の感想を持ったようだ。


「ローラもさりげなく、パパ、ママなんて呼ばせようとしてるし……」


「正月の一件以来、随分とアグレッシブになったのー。レイチェルもうかうかしておれんじゃろ?」


「あたしはねー。コウが18歳になっちゃえば二人共成人だから、ローラや羽衣(うい)に先んじて色々と攻めていけるんだよ」


「お主の場合、もう少し女子力を高めた方が良いと思うぞい。生活態度を含めての」


 そんなこんなでローラさんのご両親が来日する当日を迎えた。









 お家の面々全員で、空港のロビーにてローラさんのご両親が現れるのを、特にローラは今か今かと待ちわびている。

 それに呼応するように俺もロビーをウロウロしてしまっていると、不意にローラが大声を上げた。


「パパ! ママ!」


 両親の姿を見つけてそこに向かって全力で駆け寄るローラさんの姿があった。

 父親と思われる男性はローラを受け止めて抱き上げながら、くるくると何回か回っていた。


「ははは。少し、いやかなり背が伸びたなあ。画像越しでは話していたけど、本当に久しぶりだ」


 ……まずは、ぼんじゅーるだ。ぼんじゅーる? 


「ふつーに日本語話してる!?」


「言うとらんかったか? ローラの父親、外交官として日本にいたこともあるぞい」


 全く聞いてない。この偽ロリ、割と大雑把なんだよ!


「あれ? あのコウのイケメン動画には字幕付けたんでしょ? あの人達を説得するのに使ったヤツ」


「あー、あれの。やはり完璧を求めた結果、ああなってしもうて。まあ、普段使いの言葉ではないのでな。一応、付け加えた程度じゃよ」


 はははー、みたいな雰囲気で偽ロリはそう説明していた。挨拶頑張ろうとか考えてた俺の緊張していた時間を返して欲しい。


「パパ、ママ、あのねあのね! こっちに来て!」


 ご両親を引っ張って俺達の方へと連れてきているローラさんであった。


「久しいの。と言っても、ワシにとっては新年早々にあったばかりじゃが」


「ええ。貴女にもちゃんと礼をしなくては……と思っていました」


「よせよせ。ワシは自分の責任を果たしただけでの。礼なら、こやつら……特に、功にせい」


 そう告げると、ローラのご両親は俺の目の前に来る。そして、パパと呼ばれていた男性は握手のために手を差し出してきていた。


 ぱっと見では三十代半ばくらいで、金髪と茶髪の中間の様な色合いの髪を持つ御仁だった。


「ぼくはジャンという。坂城君、それとも功君がいいかな?」


「功で構いませんよ。初めまして」


 その返事と共に自分も手を出して握手を交わす。心なしか、握られている手が痛い気がする。


「ところで……ローラとの仲はどうなっているのかな? 君の事は娘から色々と聞いてはいるが、実際に会うまでは不安でね。ホテルも手配してあるし、まずはそこで君の事を教えて――」


 いきなり尋問コースではないだろうか、これ。


 少しばかり恐怖を感じていると、後ろからジャンさんが、ぽかんと頭を叩かれていた。


「積もる話もあるでしょうけど、いきなりだと怖がられますよ。ごめんなさいね。ローラの事になると少し周りが分からなくなるんです」


 にっこりとしながら俺の緊張を(ほぐ)すような雰囲気で話しかけてくれたのは、ローラの母親だった。

 ローラと違い髪は長いが、ローラが大人になるとこんな感じになるのでは……、思わせるような、そんな面影を持つ方だった。


「イリナです。初めまして」


「坂城功です。こちらこそ――」


 名乗った際、イリナさんは少しだけ首を傾げていた。そのまま、俺の名前を呟いていた。


「さか……き?」


 その光景をニヤニヤしながら見守る偽ロリが眼に入ってしまう。ヤツがこんな態度を見せるのは、何かある。


「ごめんなさいね。色が少し変わってしまったから」


 色? 何のだ? 名前を名乗った時に何かが変わった。いや、()()()()()()()()()()()()()()


「あの婆さんの子孫は貴女の方でしたか。親子二代で変なのを引き継ぐとか、運が悪いですね……」


「私の場合、ローラ程じゃないのよ~。でも不思議よね。私達、出身も人種も違うのに繋がりがあるんだから」


 この人の場合、日常生活の支障にならないくらいのものか? 読心の類かとも思ったが……。色と言葉……。いや、感情の揺らぎ?


「相手の感情を色で見る共感覚?」


「せいかーい。と言っても、そんなに便利な物じゃないのよ。せいぜい嘘か本当か分かるくらい」


 軽く手合わせて、ぱちぱちと拍手しながら、にっこりとするイリナさんであった。


 共感覚――ある感覚刺激が違う感覚刺激を引き起こされる現象。音を聞くと色が見える、または味や香りに触覚を感じるなどだ。


 この人の場合は、相手が発した感情の揺らぎが色彩で視えるタイプらしい。


「だからローラが実体化の力を発現しても、受け入れられたんですか……」


「そうねえ。それもあるけど……。それよりも、あなたの事も知りたいわ。どんな子なのか気になってしょうがなかったの」


 そう言いながら、イリナさんは俺の手を取ってグイグイと引っ張っていた。


「さっき夫が言った通り、ホテルも予約しているから、そこでゆっくりお話しましょ」


 どうやら彼女の興味は自分とは違う異能を引き継いでしまった俺に向いているらしい。


「いや、ちょっと待ってください! それより――」


「功よ、気にせずに行ってくるのじゃ。女性のエスコートは男の役目だからの」


「おい、俺が気付いてないとでも――」


「じゃから、こっち(・・・)はワシとレイチェルに任せい。お主は気が済むまで語り合うと良い。なにせ、義理の両親になるかもしれんからの」


 ニヤニヤしながら、からかう様にそんな言葉を口にしていた偽ロリだったが、気にするなという態度で、俺もそれに従うしかなかった。


「分かったよ。後でちゃんと詳細教えろよ!」


「あいよ。まあ、ワシとて面倒ごとにする気はないからの」


 そこまで言うならと、俺はローラ、そして彼女の両親と共にホテルへと向かう事となった。










「すまんの。本当はお主も行きたかったじゃろ?」


「そうだねー。けど、あたしも気になるしねー。せんせー……、室長からは何も聞いてないし、アポも無しで来るとかどんな奴だろ」


 ルーシーとレイの視線は、ローラのご両親と同じ便で来日したらしい一人の男へと向けられていた。

 二人はゆっくりとその男の方へと足を進めていた。


「さてと……。お主、フランスの対魔組織の人間じゃな? 神屋に用件があるなら取り次いでやるが?」

 

 鋭い視線を向けながら、ルーシーは男に対してそう言い放っていた。

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