第149話 意外な再開
芦埜さん達とのやりとりから数日後、夏休みももうすぐといった時期に差し掛かっていた。
日差しは日ごとに増していき、歩くだけで汗が頬を流れていく。
そんな中、例の記事についても一件落着となったので、まききちゃんが所属している芸能事務所へと向かっていた。
「みんな試験もクリアしたし、記事についてもどうにかなったから、打ち上げとか。社長さん、かなり気を使うタイプだよな」
「良いじゃない。おめでたい事は祝っちゃえば。全員でやった方が楽しいしね」
「そうですよ。裏でも色々とありましたけど、少しくらい楽しんだって罰は当たりません」
俺と一緒に事務所へと向かっている女子達も、打ち上げについてはノリノリのようである。
忍や美里さんも一緒だが、先日の呪いの一件は報告を受けたらしく、微妙な顔をしていた。
「ねえねえ、あの……アシノさんと一緒にいた娘。なんかコウが親し気に接してた感じが……」
「ん? ああ……。なーんか昔の羽衣みたいでな。親近感が湧いたというか……」
その一言に、当の羽衣は愕然としていた。
「兄様のわたしに対するイメージってあんなだったんですか!?」
「あの男の子っぽいところとか……まんま昔の羽衣を大きくしたような感じだな」
「今は?」
「とても女の子してると思います」
それだけ言うと、羽衣さんはとても上機嫌になりました。
そうして雑談しているうちに、事務所へと到着。入り口でインターホンのスイッチを押すと、あちらも俺達が来たという事で快く迎えてくれた。
「よく来てくれたね。今日は楽しんでいってくれ」
「これ、差し入れです。飲み物とか、簡単なおかずとかですが」
そのまま事務所内へ通され、打ち上げ会場になった応接室に入室する。そこには大きいテーブルと、その上には料理やお菓子等が所狭しと並べられ、アイドル達も揃っていた。
本日の主賓は未成年ばかりなので、お酒は無しだ。
「ローラちゃんだー! いらっしゃーい!」
「マキハさん!? ぐるじい……」
今日のまききちゃんは絶好調らしい。あの記事の件も片が付き、力一杯ローラを抱きしめている。
「まき、その辺にしなさい。さて、全員揃ったところで……、始めよっか!」
まききちゃんと同じアイドルグループメンバーのあゆさんが音頭を取るようだ。
「まきやみんなの試験突破とインチキ記事解決を祝って……」
「「「かんぱーい!」」」
乾杯の後、各々がテーブルに並べられた料理に舌鼓を打ちつつ雑談をしていた。
「あ、このピザおいしい!」
「でしょ~。あたしが作ったんだよ。ピザだけは得意だから」
レイお手製のピザも好評の様で、見る見るうちにテーブルから無くなっていく。
「これでスケジュールも心配ないし、お仕事頑張るぞー!」
「俺もバイト頑張るぞー」
まききちゃんと俺、双方が夏休みの予定で気合を入れていると、その様子を見たローラが首を傾げていた。
「コウとマキハさんって……、たまにシンクロするよね? 前に喫茶店でもどっちが会計するかで、わたしに振って来たし……」
「あれだろ。どうせファンだからだ! とか言う気だろ」
忍がそんな予想を立てていたのだが、当の俺はというとワナワナと振るえていた。
「ま……、まさか俺のファン活動はシンクロの域にまで達していたか!?」
「待て! そこまで達するのはおかしいだろ!」
「そうだよ! むしろ心配になるからね!」
忍と美里さん、俺の返答に思いっ切りツッコミを入れている。その様子を見ていたレイが俺の傍へと来て料理を差し出して来た。
「あはは~。コウは多芸だからね~。やれちゃったんじゃない?」
「お姉さん、それもう多芸ってより超能力の域だよ」
「うーん……。あたしの考えている通りに動いてくれたりもするからね。できるできる」
それは戦闘中のコンビネーションの話だろう。いきなり何を言い出すやら。
そんな雑談混じりで楽しい会場で三十分くらい経った頃、関口社長が打ち上げ会場に姿を現した。
どうやら仕事が一段落したらしい。
「みんな、やってるね。ウチの娘達もこれから忙しくなるから、英気を養ってくれ。……っと、撫娘メンバーも揃ってるし、丁度良いから紹介したい人物がいるんだ。さ、入って」
関口社長に促され、後ろにいた人物が姿を現す。
その人物、夏なので薄着ではあるのだが、ショートカットで勝気な雰囲気の女の子だった。
その娘は小さく深呼吸して、自己紹介を始めた。
「初めまして。芦埜伊織っていいます。これからこの事務所でお世話に――」
自己紹介をしながら、彼女が会場にいる俺達に視線を向けると、あちらはフリーズしてしまった。
それはあの夜、呪い人形の件に関わったメンバーも同じようで、その沈黙から三秒ほど過ぎると、応接室内に大声が木霊した。
「「「ああああーーーーーー!?」」」
お互いに相手を指差して驚いている様子に、社長さんもポカーンとしながら口を開く。
「知り合いだったのかい?」
「えっと……、叔父の仕事関係で先日知り合って……」
芦埜さんが叔父……!? つまりはあの人の姪だと!? 先生って呼んでたから普通に弟子だと思ってたよ。
「知った顔ならここに参加しても良いだろ? 打ち上げ兼、歓迎会ということで」
「うんうん。これからよろしくね。伊織ちゃん!」
まききちゃんが彼女の手を引っ張ってテーブルの近くまで連れて行った。
「なあ……。あんた……、もしか――」
「わたし、南木真紀葉。アイドルだと、まききって呼ばれてるよ!」
「そして、俺はまききちゃんファンクラブ会員ナンバー1のお兄さんだ」
そう言いながら、会員証を伊織さんの眼前へと差し出す。
「うわ。マジで番号が一番だ。アイドルオタクなのは知ってたけど、筋金入り過ぎる……」
「それだけ古参のファンなのだよ、はっはっは!」
嫌悪感たっぷりの表情でドン引きしながら、批判されてしまう。先日の戦闘では色々あったのでそれも込みなのだろう。
「あれ? 伊織ちゃんも撫娘に加入なの?」
まききちゃんが首を傾げなら、そんな疑問を口にしていた。
「いや、彼女はアイドル志望じゃなくてね。アクションとかスタントをしたいそうだ」
「女の子なのにスタント!? 凄い!」
もしかして、関口社長はアクションができる人物を探していたのではないだろうか。俺やレイも、神社で出会った時はそんな感じでスカウトしていたはず。
「まあ、これからはこの事務所のメンバーだ。みんな、よろしく頼むよ」
そこまで言うと、伊織さんも参加となった打ち上げ&歓迎会にて、彼女は俺の隣に来て小声で雑談を始めていた。
「あんたらがいるとは思わなかった」
「こっちのセリフだよ。あの時にかち合ったのって……」
「これから世話になる人達の迷惑になったりしたらマズいだろって。先生が」
つまりはあの時点で、この事務所の所属になるのは決まっていたわけだ。
「それに……、お前は表の仕事も覚えておくべきだって。将来、選択肢があった方がって言われた」
裏社会とも繋がっているなんて噂がある芦埜柳玄のイメージからはかけ離れた言葉。少なくともそう感じざるを得なかった。
誰にも聞こえないくらいの小声で話していると、まききちゃんが何故か俺へと詰め寄って来ていた。
少しばかり機嫌が悪いように見受けられる。
「そういえばお兄さん! 女たらしは駄目ですよ!」
「へっ?」
何でそんな事を言われるのか全く訳が分からない。その中で羽衣とローラに目をやると、ローラは視線を逸らし、羽衣は鳴っていない口笛をひゅーひゅーと吹いていた。
「いいですか? ローラちゃんっていう許嫁がいるのに、羽衣さんにも言い寄られたりして、どっちつかずはいけません!」
「……どこでそれを?」
「こないだ、二人が家に来た時に聞きました!」
なんか、おかしな話になってる気がする。そして俺の隣にいた伊織さんは、先ほどとは比べ物にならないゴミを見るような目で批判を始めていた。
「あんた……、最低だな。そんな関係の娘がいるのにアイドルオタクしてるとか、ありえない……」
「ちょっと待って。何か誤解がある気がする! うん! 多分、解釈違い的な何かが……」
この場にそれを知る人物だけなら良かった。だが、ここには他のアイドルメンバーや、事務所の関口社長もいるのだ。
当然、特に恋愛話に興味津々なアイドルメンバーの他二人は食いついて来てしまった。
「お兄さんとローラちゃんてそんな関係だったの!?」
「もしかして、あの写真以上のスクープじゃ!? まき、ちょっと詳しく教えて!」
「わたしもそこまで詳しいわけじゃ……」
まききちゃんの一言で、その興味の視線とトークが俺の方へと向く。
「お兄さん? ちょーっと詳細教えて。ね?」
「誰にも言ったりしないから!」
「それ、絶対誰かに言いふらすヤツですよね!?」
そんな俺の叫びは空しく、彼女達がこの話題に飽きるまで、怪異等の話を交えない様に語るしかなかったのであった。




