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第144話 教室での尋問攻め

 カメラマンへと、あれやこれやとやって数日後。ローラの修業についての相談を教会の礼拝堂にて世間話をしながら、シスター・アンジェリカと語り合っていた。


「弟君、ローラさんの調子はどうですか?」


「ぼちぼちですかね。とは言っても聖気系統は始めたばっかりですから……」


 ローラについては、こちらの修業を始めたばかりという事で、色々と質問したいこともあるようだ。


「あの……、あの内容を覚えるだけで、何が変わるんですか?」


「そうですね……。内容を覚えるだけ、というのはちょっと違います。悪霊、もっと大きな括りで言うと霊。そして、悪魔や怪異と呼ばれる存在。これらはどんな者だと思いますか?」


「う~ん……。普通の霊はともかく……、あんまりよくない人達? でもコウは幽霊さんや怪異さんとも仲良い場合もあるし……」


 ローラさん、難しい顔をして考え込みながら、頑張ってシスターからの質問へと答えようとしている。

 その微笑ましい光景に、俺とシスターはクスッと笑みを零してしまう。


「ワタクシ達の教義では、それらも神の被造物と捉えます。そして、ワタクシ達は神の代行としてその力を振るい、彼らを追い払うのです」


「悪魔は人間を騙して堕落させるーとか。よく言いますよね」


「ですね。その存在を消し去るのではなく、救うための教義がローラさんの勉強中の物なのです」


 俺達の説明に、更に難しい顔となってしまったローラさんであった。


 ……というか、そう言いながら敵さんをぶん殴るのが本職っぽいシスターが目の前にいたりするのだが……。


「弟君? 救済というのは、優しーく諭すだけではないのですよ。時には愛の鞭で反省を促すのも必要です」


「シスター、笑顔が怖いです」


 にっこりと愛想のよい笑顔を向けてはいるが、威圧感がおっかないシスターでした。

 ちょっとばかり引き気味になっていると、知らない声の人物に後ろから声を掛けられる。


「あの……、もしかしてこの写真のモデルの方ですか?」


 俺に声を掛けたのは、男女のカップルであり、手に持っているスマホには先日、ブライダルモデルをした際の俺とレイの写真が表示されていた。


「あら? この写真で来て頂けたのですか? でしたら……」


「はい……。式をお願いしたくて……」


 それを聞いた瞬間、シスター・アンジェリカの目の色が変わり、カップルの女性の方の手をギュッと握っていた。


「ようこそお越しくださいました! 応接室へご案内します! 弟君、ワタクシはこれで失礼しますね」


 そう言いながら、シスターはカップルと共に奥へと引っ込んで行くかと思いきや、俺の方を向いて一言。


「そうそう、昨日でしたか。この教会に寝不足でノイローゼになっているっぽい男が相談に来ていましたよ。心当たりはありますよね? まあ、もしかしたら……、ルーさんの方にも何かあるかもです」


 それだけ言うと、シスターは礼拝堂を後にしていった。










 その夜。うちの偽ロリこと、ルーシー・ウィザースによる動画配信――『良い子の知らない世界』の配信が行われていた。

 この配信、いわゆる心霊系の動画ではあるのだが、視聴者からの霊的な相談を聞いて偽ロリがアドバイスをするという方式を取っている。


 普通なら誰も信じないだろうが、この配信を始めてからの相談者さんが心霊現象に悩まされなくなったり、体の調子が良くなったりと、何らかの良い兆候が出ていることから、このチャンネルもかなりの登録者数となっているのだ。


 実際、世界最高クラスの魔女が回線を通じて相談者さんの身辺を視て(・・)対処法を教えているのだから、的確なアドバイスが可能となっている。


 それで稼いでいるのもどうかとは思うが。


「では……、次の相談者さんに行くぞい」


 そうして見た目少女の中身はお婆ちゃんな偽ロリはチャットの内容へと目を向ける。


「なになに? 最近、部屋の中に沢山の人がいるような錯覚に苛まれています。どうすれば良いでしょうか……。なるほどの」


 チャットを読み上げた後で、数秒だけ目を閉じて、回線を通じて意識を質問者の部屋へと飛ばしていた。


(こやつか。あの娘の写真を撮影したとかいう輩は。見たところ、もう部屋には功が手配した霊もおらぬようじゃ。そのうち落ち着くとは思うが……)


 偽ロリも少しだけ思案して、相談者への回答に移る。


「そうだの……。お主、最近……良からぬ事をせんかったか? 例えば……、虚偽とまではいかぬが、人を勘違いされるような何かを故意に……とかの」


 その質問にチャットにて、こう返答がなされていた。


『仕事の都合で……、少しだけ脚色したような物をですね……』


「おそらくじゃが、それに怒った霊が訴えておるよ」


『ど……、どうすれば?』


「簡単な話じゃな。悪い事したら、然るべき場所に出向いて、ごめんなさいじゃ。そうすれば収まるぞい。後で結果を聞かせてほしいの」


『わ……わかりました……』


 そこまでで、この相談者への対応は終了となったのだが、それから少しして、例の写真が載っていた出版社から謝罪文が出されることとなったらしい。


 それを見た読者や、まききちゃんファンの反応がSNSやネット掲示板上で飛び交っていた。


『この写真の一部を使って、それっぽく見せただけとか、真相なんてこんなもんか』


『この男、一緒にいる小さい娘の方と手を繋いでるだろ。これは酷い騙し』


『俺は最初から分かってた。これが真実だって』


『おい、嘘こけ。お前絶対疑ってただろ』


 そう、あの時にまききちゃんを送って行った際、ローラが初めての場所で迷子にならないように手を繋いでいたのだ。

 幸か不幸か、それが決め手となってくれたようだ。俺がまききちゃんよりローラに対して親密な様に捉えてくれたらしい。


 ついでにこの謝罪文に合わせて、勉強会当日の経緯について事務所側からも発表があったらしい。

 それについても色々とSNS上で言われているようであった。


『期末の勉強とか……、アイドルも大変だよな。スケジュールに関わるならなおさら』


『この男の方、勉強教えてたらしいから大学生とか?』


 写真を撮られた当日は土曜日で私服だったので、そういった予想も出ていたらしい。

しかし、ある書き込みで状況が一変してしまった。


『この小さい方の娘、彩星の生徒じゃね? 今年、外国人で可愛いのが入学したって友達から聞いた』


『えっ? マジで? あの偏差値高いとこの』


『じゃあ、男の方も?』


 などなど、日本ではどうしても目立ってしまうフランス美少女ローラさんによって、俺の身元がバレそうになってしまっていた。 


「……ねえ? これってマズくない?」


「レイ……、どうしようかな……。とりあえず学校に行ってみて反応を確認するしかないかなあ……」







 次の日、学校での休み時間にクラスメイトと他のクラスから来た数人が俺の席を取り囲む事態となってしまっていた。


「坂城……。お前、まききちゃんと知り合いだったのか!?」


「あー、いや。うん。そのな? 去年、一年の神屋さんの実家の神社で祭りの手伝いをした時――」


 彼らはアイドルグループ、キラ☆(きらぼし)撫娘(なでしこ)メンバー、まききちゃん推しの面々である。

 勿論、俺にとっても同志の様な存在ではあるのだが、その同志が隠し事をしていたので、詰め寄られている真っ最中だ。


「そ……それはズルいでござる! せめて一言あったって良かったはずでは!?」


「本当に済まなかったと思ってる。ただな? 下手に口外して俺はともかく、あちらの事務所の迷惑になるのは駄目だろ? だから黙ってたんだ……」


 俺も顎を引き、申し訳なさそうな態度を取りながらの説明だったので、彼らもそれ以上は追及できなくなってしまったらしい。

 その説明と、俺が男子数名に囲まれている状況はあまりよろしくないとばかりに、藤田さんが割って入ってくれた。


「こーら! 坂城君だって悪気があったわけじゃないんだから、そんなに責めたらダメだよ。この中にだって、ノート写させてもらったり、勉強教えてもらった人もいるでしょ?」


「うっ……」


「それに、坂城君はあのアイドルの娘と一緒でも、浮かれないでローラちゃんが迷子にならないようにしてたんだからね! その……まききちゃんって人とは、そこまで親密ってわけじゃないでしょ! どう考えても」


 藤田さん、めっちゃ感謝します!


「ああ。その通りだ。俺は一ファンとしてこれまでと変わらずにいると、ここに誓う! みんな手を出してくれ!」


 俺を囲んでいた面々が、こちらに掌を向けてくれたので、パアンといい音がするように叩く。


「まあ、仕方ないか……。坂城、悪かったな。みんなで詰め寄っちまって」


「気にするな! 同志よ!」


 どうやらみんなが納得してくれたらしく、その後の先生からあった経緯の説明もあって、学校での疑いは晴れたのでした。

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