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第143話 カメラマンへのおしおき

 南木(なぎ)家を訪ねたローラが自宅に帰ってきたころ、俺はというと自室で人を待っていた。

 実際、()という表現は語弊があるかもしれない。その人のためにお家の結界も今は張っていない状態なのだ。


 とりあえず俺はというと、自室にて(くだん)の記事についての反応をウェブとSNSで読み漁っている状態だ。曰く――


『マジか……信じてたのに……』


『彼氏がいたとか嘘だろ……』


 などといった否定的な意見もあれば、違う書き込みも見受けられる。


『学生なら恋愛くらい普通だろ』


『相手は誰だろうな? タレントか?』


『男の方、顔は写ってないからなあ……。誰か分かる奴いる?』


 顔がはっきりと分かるように写っているまききちゃんとは違い、一部では俺の身元を特定しようとするような書き込みも散見される。


「デビューしたてから去年とかなら、まだ良かったんだろうけどなあ……。結構な速さで人気が出ちゃったから……。う~む……」


 とはいえ、書き込んでいるのは一部の主張の激しい者や野次馬根性の者が大半のはず。それ以外はまだ静観していると思いたい。


「いっそ、コラボで一緒に仕事していた神主さんでーす、で顔バレしちまうか……。あの日にみんなで事務所にいたのは証明できるわけだし……」


 とはいえ、それをするには試験勉強していた日についてを第三者でも分かるようにしておかなければならない。顔バレだけしても炎上が更に大きくなる可能性だってある。


「ローラも一緒に三人で写っている写真があればな……」


 あの道端で撮られたのであれば、何枚かはあるはず。俺が気付かなかったという事は、それなりの距離から望遠レンズを使用していたと考えられる。


「データ消されていたら、望み薄だけど……」


 そんな思考をしていると、窓の外に気配を感じた。ここは二階なので普通の存在ではない。


「坂城君、お待たせだよ」


「すまないな。おかしな依頼しちまって」


「探偵になったみたいで楽しかったよ、気にしないでくれ」


 この窓の外に浮かんでいる幽霊は、昔から記事を書いた出版社周辺を縄張りとしている方である。

 今回は、あの写真についての調査をお願いしたというわけだ。

 幽霊なので自由に侵入し放題。会話だって聞き放題なのである。


「どうでした? 記事にされた写真を撮ったカメラマンの情報とか、もし他の写真があればと思ってたんですが」


「そうだねえ。まず、そこの出版社だけど、編集長が最近変わったらしいよ。自分の実績が欲しかったのだろうね。あの記事を載せるのに踏み切ったって感じだったよ」


「その編集長の出世のために利用されたんすか、俺ら?」


「まあ……生きていると大変だよねえ。しがらみとか、出世欲とか」


 幽霊さんが言うと何故か含蓄のある言葉に聞こえてしまう。


「カメラマンの方は?」


「うん。むしろ、そちらが問題だね。そのカメラマン、良い噂は聞かない人物だったよ」


 幽霊さんの説明では、カメラマンの名前は山下実というフリーのカメラマンらしい。割と手段を選ばずに有名人を付け回して撮影をしているような人物であるようだ。


「運が悪かったね。前の編集長なら、そんな人物の撮った写真を使う事も無かったのだろうけど」


「今の編集長の出世欲のせいで、出版に踏み切っちゃったと」


 ほーんといい迷惑だ。俺も運の良い方じゃないけどさあ……。


「出版社には他のデータとかありそうでした? 提出されたのは、あの写真だけ?」


「みたいだよ。流石に他の写真があったとしたら、出版社側も問題行動になるからね」


 ……と、いうことは、まずはカメラマンの方を突っついてみるとするかな。その前に確認したいことがある。


「すいません、この家の周辺にそれっぽい人はいませんでした? 視線は感じなかったんでいないとは思いますが」


「そこは大丈夫だよ。こちらも周囲を見渡しながら来たけど、カメラ持っていそうな人間は見当たらなかったよ」


 どうやら、そのカメラマンにとって、俺とローラは偶然、あの娘と一緒にいただけの二人程度の認識の様だ。


 これからどうするかを思案していたところ、自室のドアをノックする音が聞こえたので、その人物を部屋へと招き入れる。


「コウ、行ってきたよー」


「お邪魔しますね、その(かた)は?」


 まききちゃんの家に行っていた二人も、こちらに合流したので、あちらの様子を確認しつつ、羽衣(うい)に頼んでいた事についても聞いてみるとする。


「どうだった? あの娘の周辺でおかしな視線とか感じたか?」


「なんとなく……ですけど、部屋の窓の外から観察してそうな感じが……。確証はありませんが」


 あの写真で味を占めてしまったかもしれないな。ついでに、あの写真を撮った時に一緒にいたローラも、さっき南木(なぎ)の家に行ったのだから、ヤツもそれを把握して、また俺が姿を現すのを待っているのかも。


「一度で終わらせておけば、少しだけのお灸で終わらせたところだが……。これ以上やるつもりなら、相応の報いを受けてもらおうか……。ふふふ……」


「コ……、コウ? ちょっと怖いよ!?」


「兄様……、や、やりすぎないようにしてください……ね?」


 俺が不気味な笑みを浮かべていたので、ローラも羽衣(うい)も少しだけ引いていたようだった。









 羽衣(うい)達からの報告を受けた数時間後。先日、まききちゃんを家まで送り届けた際に通った道を静かに歩いている。

 日は完全に沈み、周囲は街灯の明かりが無ければ完全に闇に覆われてしまう様な時刻。どこからかの視線を感じながら、それを無視するように南木(なぎ)家の方へと向かっていた。


 物陰に隠れながらカメラのレンズ越しに、こちらを観察している男――山下実にとっては、鴨が葱を背負って来ているような美味しい状況だ。


(あのガキ……、アイドルとはそんな仲じゃあないと思ってたが……、実はそうでもないのか? まあいい、悪いが今度は顔まで撮らせてもらうか)


 遠くでシャッター音がしていた頃、まききちゃんの自宅である南木(なぎ)家を通り過ぎようとしていた。それと同時に、付いて来てくれていた数名の霊に確認を取る。


「どうです? 見つかりました?」


「狙った通りだったね。坂城君が囮になったおかげで、すぐに見つけられたよ」


「それは良かった。すいませんが、あとはお願いします。俺が言うのもなんですが、ほどほどで」


「はいよ。じゃあみんな……行こうかあ!!」


 幽霊達は意気揚々と俺を撮影したらしい人物の後の方へと向かってゾロゾロと歩いて行ったのだった。






 幽霊さん達から後で聞いたのだが、山下実さんはあの後にすぐに自室にて、俺を撮影したデータをすぐさま確認して、印刷しようとしていたそうだ。

 だが、その部屋には絶叫が木霊していた。


「なんだこりゃあああああ!?」


 幽霊さん達曰く、どう考えても隣人迷惑な声量だったようで、苦情が来たらしい。それはともかく、その原因となっているのは――


「どれもこれも……、なんだこのおかしな光の玉みたいなのや……。人影みたいのが!? こっちはあのガキの首から上が写ってねえだと!?」


 そう、彼が撮影した写真の全てが俺が協力を依頼した幽霊さん達のお力によって、見事な心霊写真へと変貌していたのだ。

 いいカモと思ってシャッターを切っていた彼の期待は無残にも打ち砕かれていた。

 それだけならば、まだ良かっただろう。本番はここからなのだ。


「はあ……。もういい。一杯ひっかけて寝るか……」


 そうしてベッドに潜り込んだ山下氏だったが、部屋の電灯を消して(まぶた)を閉じると、どこからともなく笑い声の様な音が聞こえて気がして、眠れなくなってしまったのだ。


「なんだ……!? なんなんだあああ!?」


(くすくす……。ふふふ……。ははは……)


「誰もいないはずだよな!? おい! 誰かいるのか!?」


 その日の彼は一睡も出来ずに夜明けを迎えたらしい。








 ところ変わって坂城家。俺が幽霊さん達にお願いしたことを、お家の面々と羽衣(うい)に説明したところ、特にローラと羽衣(うい)のお顔が引きつってしまっていた。


「撮られた写真は全部心霊写真になって……」


「あまつさえ……、幽霊達がその男の部屋でどんちゃん騒ぎ……ですか!?」


 現在、山下氏の住処で起こっていることは、俺らにとっては気にもならないかもしれないが、普通の人間にとって、特に霊感が少しでもあったりすると、かなりの不快感となってしまうはずなのだ。


「これで懲りてくれたら、一件落着だろ?」


 満面の笑顔でそう言い放つと、お二人はドン引きしてしまったらしく、もう何も言えなくなってしまったようであった。


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