第14話 お仕事のち、お昼ご飯
外ではスズメの鳴き声が聞こえ、横ではローラさんがまだ寝息を立てて、お眠り真っ最中。
おかしいな? 俺はなぜ一睡もできていない? というか起きて朝食準備するのに部屋出て大丈夫だよな? これで俺がいないとなったら、泣き出したりしないだろうな?
数秒程、あれこれと考えた後でローラを起こした方が良いという結論に至り、彼女の体を揺らしながら声を掛ける。
「ローラ、おい朝だぞ」
「う……ううん? ふぁ……」
目を擦りながら、まだ夢うつつのローラが起き上がる。
「朝飯作るから、俺は行くぞ? 自分の部屋行って着替えてきな?」
「うえ? きがえ……」
ローラさん、寝ぼけたままで自分のパジャマのボタンを外そうと――
「ストーップ!! 俺いるから! 着替えは自分の部屋!」
「うみゃう……。おきがえ……ここ……にある……」
ローラの指差した方を見ると、綺麗に折りたたまれた彼女の服が置いてあった。どうやら昨晩のうちに用意していたらしい。
「……準備……いいんすね……」
「うぃ……ばっちり……」
まだ半分夢の中ながらも受け答えをしながら着替えを始めようとしているローラだが、このままこの部屋にいるわけにもいかず、すぐさま立ち去る。
「へやの……まえ……に……すぅ……」
もう指示通りにするしかないと、自分の部屋の前でローラが着替え終わって出てくるのを待つことにする。が、心中穏やかではなかった。
……み……身がもたない!? あの娘、無防備すぎないか!? 小学生ってあんなもんか!? いや来年中学生だよなローラ……。
数分後、着替え終わったローラと一緒に居間へと行き、朝食を取った。そして皿を洗っているとスマホのコール音が鳴り響いた。発信先を見ると『神屋師匠』となっている。十中八九仕事だ。
「……もしもし?」
「ん? なんだ? その美少女につきっきりで思春期真っ只中にも関わらず何もできずに悶々として一睡も出来ていないような声は?」
「何で現状を見ているかのような発言してるんすか!!?」
「前室長さんから事情は聞いている。お前の事だから、霊視ができるようになるのが、どういった意味なのか理解していなかっただろ?」
「……からかうだけなら切りますよ。ご想像の通り、あまり……、特に精神的な余裕がありませんので」
少しばかりイラついた声を出してしまったが、あちらもそれを察したらしく、真面目な声色へと変わっていった。
「すまない。仕事だ」
「すいませんが、今の状況をご存じでしたら夜間はきついですが……」
「いや、そこまでじゃあない。場所も近くだし、昼間でも可能な案件だ」
師匠から説明を受けて現地へと向かう準備をする。
「ローラ、ちょいと仕事が入った。一緒に行くか?」
「うん? 仕事……、えっ!?」
一瞬戸惑っていたローラだった。
「あー。こないだみたく危険なのと戦うとかじゃないからな? ちょっとした調査。せっかくだからサンドイッチでも持って行って外で昼飯食べるか」
「あ……、うん。そうする」
そしてお昼ごはん用サンドイッチを保冷バックに入れ、現地へと向かう事となった。玄関から出て数分後――
「ひっ!? ……うぅ……」
どうやらローラさん、視線の先にいる大怪我している袴姿の霊に怯えているらしい。すぐに俺の腕を組むような形でくっついてきた。
「大丈夫だって。そこらの連中なんて、ほっときゃ害なんてないから」
「でも……。怖いものは怖いよ……」
更に力を入れ、ガチガチになって腕を組んでくるローラであった。
「目的地は……あっちの森林公園……っと」
「早く行こ? ね? あっちの方が近道じゃないの?」
彼女が指差した方向だが、そちらはあまり人がおらず、ぱっと見は近道に見える……が。
「ああ……、そっちは駄目だ。昔の大戦中の不発弾が沢山あるとかで立ち入り禁止になってるとこだから」
「ふぇ!? そうなの!?」
「少し見てみるか?」
そうして案内した先には『KEEP OUT』の文字が書かれたロープで区切られており、文字通りの立ち入り禁止区域となっている。
「ここは変わらないな……」
「? どうしたの?」
「いや、何でもない」
そこから目的地に向けて、自然と早足になってしまうローラであった。
「もうすぐだから、頑張れ」
「はーい……。離れないでね?」
「はいはい」
十数分後、目的地へと着いた俺達であった。ぐるりと辺りを見回すと、師匠の言っていた通りで、空気が淀んでいる感じがする。
「んー? これは……昔の人が組んだ結界が歪んだかな? ローラ、何となく分かるか?」
「全然わかんないよ! そこら中に歩いてる霊がいるし……」
「その霊をよく見て、というより全体的にどう動いているか観察してみ?」
「いや! 怖いもん!!」
目を固く閉じて絶対に開けないといった鋼の意志を感じる。
これはさっさと終わらせた方が良さそうだ。
「分かった。分かったから、風景見ずに自分の足元見て歩くようにしてくれ。流石に目を瞑ったままだと危ないから」
俺の要求に渋々、目を開けている。それでも恐怖から来る震えが腕を通して伝わっていた。
「連中の動き方からすると……、おそらく中心はこの辺で……、これだと四方? それとも八方か? どこかに要になりそうな物あるはず……」
スマホで現在地の航空写真を観察しながら、歪みがありそうな方向へと進んでいく。
「あー……。多分これかな……」
そこに合ったのは、最近舗装されたであろう歩道の横にあった人の胴回りほどある大きな石だった。おそらく歩道整備のために一時的に移動させたのだと推測できた。
念のため結界の外周と思われる場所をぐるっと一周すると、似たような石が規則的に配置されていた。多分、先程の歩道横の石が本来の場所に無いのが原因だろう。
すぐさま依頼主である師匠へと連絡する。
「もしもし? 坂城です」
「早いな。どうだった?」
「結界の要になっている石が一つだけズレた場所にあります。おそらくはこれが原因です。早いとこ工事でもして然るべき場所に戻せば良いかと。航空写真使って全部で八つある要になっている石の場所を送りますから、どうやるかはそちらで協議して下さい」
スマホで作成したマップをあちらに送信する。
「ふむ。これならそこまで大規模な事をする必要はなさそうだな。ご苦労だった」
師匠が通話を切ったので、本日の仕事はこれで終わりとなる。
そして、時計を見ると昼12時近くなっていた。
「じゃあ、そこのベンチでサンドイッチ食べるか」
「終わったの? ご飯はお家じゃ駄目?」
「あのベンチの辺りなら、変なのいないから大丈夫だろ。嫌か?」
「……多分大丈夫」
俺達はキッチンカーで飲物を買い、ベンチに腰掛けたのだった。




