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第136話  月村さんへの懇願

 対策室廊下に俺とねーさんが歩いているコツコツといった音が響いている。目的地に向かうまでに、何名かの職員さんとも顔を合わせたが、目的の人物は自室に籠っておるとの情報があり、そちらへと向かう。


 ノックして、その部屋に入室した後で彼へと経緯を簡単に説明する。


「――というわけで、どうにかなりませんか? おかしな魔力性質はともかく、術者としての才能以外は何でもある月村さん!」


「なあ? お前は僕を(けな)しているのか? それとも褒めているのか?」


「俺は月村さんを尊敬してますよ。ただし、おかしな言動が自分に向かいないように牽制しているだけです」


 その返答に月村さんは、どう反応すべきかを困惑しているようだった。その微妙な表情を崩さないまま、彼は室内にある自分用の椅子へと座る。


「それで? その死神とやらをどうにかして欲しいと? はっきり言う、無理だ」


「別に死神とバトって……貰ってもいいですよ。月村さん的に捕獲して、あれこれしたんじゃないですか?」


「嫌だよ。何をやっても反応がない奴に実験とかつまらん」


 基準がそれなのか、この人は。もしかしてウチの駄蛇は反応込みで割と気に入られているのだろうか?


「真司……、どうしてもだめ?」


「珍しいな。元気だけが取り柄のお前が、目にクマまで作ってるとは」


 からかう様な口調ではあるが、ねーさんのただならぬ雰囲気を察してしまい、困ったような顔になっている。


「月村さん……、医師免許も持ってるって言ってましたよね? その子のこと、診察してもらえませんか?」


 その提案に月村さんの眉がぴくっと動いて反応をしていた。俺の言いたい事の予想がついているようだ。


「もし月村さんほどの歴史上類を見ない大天才が匙を投げるなら、俺もその子を諦めます。でも――」


「安い挑発だな。こういう時はどうするか、分かっているだろう?」


 その言葉を聞いて、俺は一瞬だけ目を閉じる。それから静かに月村さんに向かって頭を下げて、自分にできる精一杯の誠意を現していた。


「お願いします。ルーシーは奇跡が起きない限りは無理と言っていました。もし……、その奇跡を起こせるとしたら、月村さんしかいません。俺にできることなら何でもします。だからお願いします!」


 その必死の懇願に、ねーさんも続けて月村さんに頭を下げている。


「お願いします。真司……、あたしに出来ることなら、何でも協力するから!」


「まったく……、最初からそう言えば良いんだ。丁度、スケジュール的には空いているからな。その子が入院する病院に連絡を取ってみようか。だが、僕だって不可能はある。その時は覚悟してくれ」


 その答えを耳にして、俺とねーさんは、ぱあんとハイタッチをしてしまう。


(本当に子供の頃と変わらないな、こいつらは)


 俺達の姿に少しばかり口元を緩めていた月村さんであった。







 その後、帰宅すると、玄関の先でウチの偽ロリが仁王立ちで俺達を睨んできている。どうやらかなーりご立腹らしい。


「二人共、さっき真司から連絡があった。ワシは止めたが……、本気でヤツとやり合う気かの?」


「ルー……、ごめんなさい。けど今回だけは譲りたくない!」


 あまりにも真剣な眼差しのねーさんに対して、ルーシーもその目を逸らすことは無かった。


「お主も同じかの?」


「ああ。まだ結果なんて出てないんだ。だったら、足掻(あが)くだけ足搔(あが)いてみるさ」


 俺達二人の顔をジッと観察するように、交互に目線を合わせている。


「はあ……。この姉弟は、こうなったらテコでも動かんからの。もう好きにせい。ただの、無理はするでない。よいな?」


 それだけ注意すると、偽ロリは俺達に背を向けて自分の部屋へと戻って行った。


(レイチェル……、自分でも気付いておるようじゃな。その子と、昔の……兇魔との戦いで傷を負った功を重ねておることに。だがの、功はもう弱い子供ではない。間違うでないぞ?)


 子供達の成長を見守る親の様な視線を感じながら居間へと行くと、ローラと羽衣(うい)も心配しながら俺らの方へと近づいて来ていた。


「コウ……、すっごくマズいのと戦うって……」


「兄様、レイチェル。わたしも行くのはダメですか?」


 二人も月村さんが偽ロリへと連絡を取った際の内容を一部ながら理解していたらしく、自分達も行くと目で訴えている。


「今回はだーめ。あたしの我儘だからね。二人共、お留守番!」


「「ええー!?」」


 二人にとっても、意外な返答だったらしい。


「じゃあ蛇も留守番ヘビ!」


「お前は同行。所有物の分際で何抜かす」


「蛇差別ヘビ!?」


 その一連のやりとりで、居間には爆笑が響き渡ってしまっていた。


「……? その羽織……?」


「ん? ああ、対策室の装備庫から持って来た。流石に銃だのは無理だけど」


 ローラの目に入ったのは、俺が自分用の装備にしている対魔用の羽織だった。


「これにもサカキの模様がある!」


「まあな……。るーばあじゃないが、自分のだって目印みたいなもんだし」


 現在はローラの持ち物になっている偽ロリ作成の羽織。これは、その偽物(レプリカ)ではあるのだが、ただのコピー品では無かったりする。

 偽ロリ作成品ほどの対魔防御は出来ない代わりに、少しばかり細工をしてあるのだ。


(さかき)……か……」


 ねーさんが羽織の右腕部分に刺繍された模様を一目して、何かを思い出しように呟いていた。


「ねーさん? どった?」


「ううん! 何でもない。真司からの連絡待ちかあ……。ちょっと退屈だねえ」


「さっきお願いに行ったばかりで、そんなに早く詳細は分かんないだろ」


 それもそうかと、ねーさんも納得していたようで月村さんからの連絡を待つこととなった。








 数日後、その月村さんからの連絡で事態が動き出す。


「功か? 単刀直入に言う。その死神につきまとわれている子だが……、予断は許さない状況だ。近いうちに手術が必要になるだろう」


「……自分でお願いしておいてなんですが……、よく病院側が了承しましたね?」


「僕の名前を知らないなら、もぐりも良いところさ。そりゃあもう、快く了承してくれたよ」


 聞けば聞くほど、何でこの人が対策室なんていう裏の仕事を生業にしているのか疑問を持ってしまう。

 そんな疑問は頭の他所(よそ)にやって、本題へと入る。


「……助かる見込みは?」


「僕が執刀して五分五分。他ならまあ、ほぼ無理だろう。だからだろうな、残念な結果になってしまっても、僕に責任を負わせられる。体のいいスケープゴートが現れてくれたってとこだ」


「俺らの我儘でそこまでリスクを負う必要は――」


「今更、怖気づくなよ。僕にとって五分五分なんてのは、成功と変わらん。余計な心配をするな」


 どういう理屈なのかは理解が追い付かないが、俺らは俺らのすべきことをしろと投げかけてくれた。


「いいか? どれだけ手術がうまく行きそうでも、死神とやらに邪魔されたら敵わん。そこはお前たちが足止めしろ」


「真司……、こっちは任せて!」


「ふ。少しは調子が戻って来たか。この猪娘の面倒は頼むぞ、功。なんたって、突き進んでぶっ壊すだけが取り柄の超特急だからな」


「誰が! 猪だー!!」


 この二人、俺のスマホで漫才し始めましたよ。絶対に月村さん、あちらで大爆笑したいのを堪えてるヤツだ。


「ねーさん、俺のスマホはぶん投げないでくれよ?」


「分かってる……。分かってるから……!」


 スマホが二人の被害者となってしまう前に、ねーさんの手から引き離す。そうして目を見合わせる。


「……行くか」


「うん!」


 俺達二人、その子がこれから手術をするという病院に向かい、死神を足止めするための準備を始めたのだった。

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