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第132話 師の想い

「貴方がルーさんやレイチェルと出会ったのは……」


「確か六歳の頃でしたか。当時は児童福祉施設にいましたから、俺の……、要は霊だの何だのが視える俺の噂を聞きつけたみたいです」


 その辺、対策室の情報網も侮れない部分もあるのだが。


「あの娘にとってはね、本国は自分を爪弾つまはじきにした土地っていうのが、深層心理の中にあるとワタクシは見ています」


 真剣な眼差しを崩さず、真っすぐに俺の目を見てそう言い放つシスターに、ただ耳を傾けるしかなかった。


「ねーさん、その辺りは割とあっけらかんとしてましたから……」


「まあね……。でも……、そんな時に出会ったのが弟君なのです。そりゃあ、可愛がるってもんですよ。あのブラコン」


「最後、一言多い気が……」


「実際、かなり重度なブラコンですよ。子供の頃の結婚の約束を引っ下げて、日本まで来ちゃいましたから」


 その発言に思わず彼女から目を逸らしてしまう。


「まあ……、先日ルーさんと飲んでいた際に聞きましたが、弟君もかなりのシスコンの様で」


「あんの偽ロリ、何話してんだ!?」


「いやー。だって……、調査していた怪異がレイチェルと敵対してしまった時のために、有事の際に使う対魔装備一式の使用申請って……、戦争でもする気だったんですか? ぷぷぷっ……」


 シスター・アンジェリカも俺から目を逸らし、笑いそうになるのを必死に堪えている。


「いえ、失礼。もしかしたら、レイチェルには日本の風土の方があっていたのかもしれませんね」


 そう口にしながら、シスター・アンジェリカは駄蛇の方を向いていた。


「日本は不思議な国ですね。この蛇、神話では凶暴なモノとして語られているのに、同時に神として祀られてもいる。この蛇だけではありません。人を害した存在でありながら、祀られているものは少なくないと聞きます」


 彼女は感慨深そうに駄蛇を見詰めていた。


「八百万の神……でしたっけ? そういった全ての物に神が宿るという考え方、それが基盤としてあるのでしょうね。色々なものを受け入れられるのは」


「そんなもんでしょうかね? 実感は湧きませんけど」


「レイチェルにとっては、ルーさんはもちろん、弟君も。一時的にしろ家族のように暮らしたミスター神屋のお家の……、日本での日々は代えがたいほどのものだったと思いますよ」


「だから、ねーさんの聖気修業を免除していたんですか?」


 その指摘をすると、申し訳なさそうに目を逸らしてしまったシスターであった。


「弟君の見立てでは全体の二割程度とはいえ、その神気は……あの娘が大切にしている日々そのものでもありますから。少しだけ甘くなってしまいました。その分、闘気を使った格闘戦だのはワタクシの全霊を持って叩き込みましたが」


「俺の事をマゾだの言ってる割に、そちらだってサドじゃ……」


「師からの愛の鞭です。ただ、くだんの結界破壊を考えると、やはり術の修業をさせておくべきだったと、ワタクシも反省しています」


 もしかしなくても、本気で反省しているから、かなり無茶な方法を使って日本に左遷……、もとい栄転させてもらったのかもしれない。


「……ねーさん引っ張って来ます?」


「それには及びません。見たところ、レイチェルも真面目にやっているようですし。成長した弟君の姿が自身を見詰め直すための切っ掛けになったようですね。ワタクシがあれこれ言うより、余程効果的だったようで。少し悔しいです」


 ちょっとだけ悔しそうな表情を見せるシスター・アンジェリカであったが、更に続ける。


「この場合、想定以上もいいところですが。本来、戦闘向きではない弟君の闘気出力を全体の魔力出力を底上げさせることで補うとか、ミスター神屋達は脳筋の極みですか?」


「どこぞの偽ロリは、力技も研鑽を積んだ力には違いないとか言ってましたよ」


「あー。ルーさんなら言いそうですねえ……。まあ、これは弟君が補助役だからこその底上げでもありますか。地味~な収斂(しゅうれん)でも地道に続ければどうなるか、才能はあれローラさんも間近でそれを見ていたからこその、あの結果なのかもしれませんね」


 熟練の、特に名の知れている術者ほど、その地味な訓練についての有用性を理解してくれるので、こちらとしても話しやすい。


「そろそろローラのとこに戻りましょうか。泣きそうになってるかもしれませんから」


「ですね~。術者は一日にしてならず、ですからね。あれでもまだ序章ですが」


「やっぱ、おっかねーです。シスター」


「その年で対策室あそこの正規職員になれる実力がある弟君が言わないでください」


 そうして応接室に戻ると、ローラが泣きそうな顔で俺を見詰めている。


「とりあえず、その本は貸しますからね。弟君も読み聞かせでもさせてあげてください。ついでに家での指導もお願いします」


「はーい。了解でーす。……って、俺が教えていいんすか!?」


「言葉を発する意味はどちらでも同じですから。お願いしますね」


「おっけーです」


 そう返事すると、一人っきりでひたすら本を読んでいたローラさんも嬉しくなってしまったらしく、腕を組んでくっついてしまった。










 その後、家に帰り、夕飯後にローラとソファに座って、教会から持って来た本を二人で読んでいた。


「|Au commencement 《はじめにかみは》Dieu créa (てんちを)|le ciel etla terreそうぞうされた


 俺の読んだ内容に合わせてローラもそれに復唱する。


「コーウー……。これって覚えなきゃいけないの?」


「覚えるだけじゃダメだけどな。フランス語だから、まだ分かりやすいだろ?」


「そうだけど……、今までと違いすぎるっていうか……」


 どうやらローラさんは、この読み聞かせにご不満なようだ。


「ねー。そうだよねー。退屈だよねー」


 そのローラにレイチェルねーさんは、自分もそうだったとばかりに、というより仲間ができたような感じで嬉しそうにしている。


「功、きっちり説明してやれい。そこのサボり娘にもじゃ」


「サボってないもーん。こっちの修業は免除されてただけですー」


 偽ロリも、やれやれといった感じで俺へと解説をするよう求めてきていた。


「あのな? 言葉ってのは原初の魔法でもあるんだよ」


「そうなの!?」


「そう。声はただの音だけど、言葉には意味がある。|それを本気で相手に聞かせようとすれば《・・・・・・・・・・・・・・・・・・》、それは俺の祝詞や、あちらの聖句にも繋がるんだ」


「本気でって?」


 少しは興味が出てきたらしい。良かった。


「言った通りさ。それの極致を一度ローラは見てるだろ?」


 その説明にローラは、はっとした表情をしていた。どうやら覚えがあるらしい。


「ルーシーが狼さん達にしたの?」


「そゆこと。アレは無理だとしても……だ。相手に対しての言葉は普通の人間が使っても暗示や催眠術として作用する場合があるように、俺ら術者の言葉は霊や怪異の存在そのものに干渉が可能となる。それのテンプレが俺の祝詞やシスターの使う聖句だったりする」


「むむむ……」


「だから相手にも伝えられるくらいに意味を理解して、言葉として発しなきゃなりません」


「はーい」


 その説明を終えると偽ロリは、嬉しそうにな表情となり、にっこりとしている。


「今までとは違い……、というより戦闘用ばかりを見て来たからの。こういったのに違和感を感じるのは仕方ないかもしれん」


「そう! それ!」


「しかしの。年中戦闘ばかりすることはないのじゃ。除霊だの、お祓いだのそういったのをできる方が、のちに有用となる場合もあろう。のう? レイチェル?」


 ちょっとだけ嫌味を込めて、ねーさんの方を向く偽ロリに、当のねーさんは口笛を吹きながら目を逸らしてしまった。


「じゃあ、今度はあたしの訓練手伝って! 使い魔のコントロール試したいから」


「はいはい」


 ねーさんの提案に従い、彼女の訓練へと参加したのち、就寝をしたのであった。



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