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第125話 魂穿ち

「ああ! ほんとにムカつく! 何なんだよ、あのでっかい傷のヤツは!?」


「でもよ……。アレ、普通の傷じゃないぞ……。グリズリーってマジかもしれねえ……」


「あんな可愛い娘が四人も一緒とか……、世の中理不尽だ! せっかく沖縄まで来たってのによ!」


 その一行は、最初にねーさんをナンパして、俺達が揃っていた時にも、ウチの女子達に声をかけてきていた男達だったらしい。

 ナンパが失敗してお(かんむり)だったようだ。


 そこに偶然、通りかかったサングラスをかけたオールバックの男が一人。男が彼等とすれ違う。


「ああ……。君達……、そちらは私有地だから、近づいちゃダメだよ」


 それだけ言うと、男は自分が宿泊しているホテルに戻るべく足を動かしていたが、チラッとすれ違った一行へ目配せをする。


(さっきの彼等……、相当機嫌が悪いみたいだなあ……。この辺に集まってくる霊とおかしな事にならなければいいが……。まっ、私の知ったことではないか)


 先ほどの男の言葉を耳にした若者達は、顔を見合わせてニヤリと笑う。


「なあ……。この先って幽霊が出るっていう廃ホテルだろ? 行ってみねーか?」


「止めとけって。さっきの人にも注意されただろ」


「いいや行くね! これであの娘達に廃ホテルの話をしたら、意外と度胸あるとか興味もってくれるかもしれねーだろ! 行くぞ!」


 その言葉で、発案者の若者以外はやれやれといった感じだったが、その廃ホテル目指して歩を進めて行った。









 夜の廃ホテルでの神葬祭を終え、金城家へと戻り就寝しようとしていた。


「じゃあな、羽衣(うい)。おやすみー」


「ええ。おやすみなさい、兄様」


 そんな挨拶をして、部屋の布団に寝転がり二時間ほど経った頃、廃ホテル周辺方向からおかしな術の気配を察知してしまい、飛び起きてしまう。

 部屋の窓から廃ホテルの方向を確認すると、その場所に常人では視認できないで壁の様な術で廃ホテルの四方が囲まれている。


 結界!? しかもホテルを囲う様に……だと!?


 これはマズい事になりかねないと、足早に現地へと向かおうとしていた。


「おい! どうした!?」


 家の庭先には、忍とお祖父さんがおり、俺が血相を変えて家から飛び出してきたので、特に忍は驚いていたようだ。


「誰かが廃ホテルに結界を張ったみたいだ。俺はすぐに向かう。お祖父さん、すいませんがウチの連中、とくにレイチェルねーさんを叩き起こして現地に向かわせてください!」


 俺の頼みに力強く頷くお祖父さんだった。続けて忍も俺に同行しようと並走していた。


「あれ、そんなにマズいのか!?」


「ああ……。今まで廃ホテルに霊が集まるようになってたのが幸いして、人的な被害が出なかったんだ。もし、あの結界のせいで霊がホテルに入れなくなると……」


「どうなる?」


「悪さをするような(やつ)なら、偶然通りかかった人間に憑りついて、おかしくなるかも……」


「どこの誰だよ!? 余計なことをしたのは!」


 思い当たる人間は一人だけいるが、彼の所に行くのは今回の件が済んでから。そう自分に言い聞かせて現地へと最速で辿り着く。

 すると、どこかで会った人達が狼狽(うろた)えている様子が遠目でも確認できたのだった。


「おい! どうしたんだよ!? 落ち着けって!?」


「ああああああ! うるさいうるさい! あいつら全員許さねえええええ!」


 暴れている一人を取り囲んで、どうしたら良いかが分からないまま、振り下ろされた拳に当たらないように離れているのが数人。


「忍、視えるか?」


「ああ……。昔、道場前で迷惑かけてたヤツと同じだ。あの人に影みたいのが重なってる」


 どうして俺の嫌な予感というのは、こうも当たってしまうのか。しかも今回はかなり迅速にだ。


「さて……どうするか……。とりあえずあの人を気絶させてから、お祓いするか……」


 その腹積もりで、彼らの近くへと足を進めて行く。


「ああっ!? グリズリー男!?」


 だからグリズリーって、なんでやねん!


 思わず心の中で、しかも関西弁でツッコんでしまったが、今はそれどころじゃない。彼らに対して、何があったのかを問いただしてみる。


「何をしようと……。いえ、何がありましたか?」


「あの廃ホテルに向かっている最中に……、あいつがいきなり暴れ出して……何が何だか分かんねえよ!」


 こっちからすれば、わざわざ廃ホテルに何しに行ったのかも気になるところだが、そんなこと、今は気にしてはいけない。


「とりあえず……、あの人、気絶させますよ? あの状態だと取り押さえるのも骨ですから」


「あ……ああ……」


 憑りつかれている男の友人達は困り果てていたようで、こちらの提案を飲んでくれていた。

 そうして俺達と憑りつかれている男が対峙すると、あちらはご本人と憑りついている霊がまるで歩調を合わせたかの如く、俺に対して文句を捲し立てて来た。


「てめえらかあああ! お前ら……羨ましすぎるだろうがあああああ!!」


 何が羨ましいのか知らないが……、最近、こんなん多くない?


「よし。投げて絞めて気を失って貰おう。この後は……、金城家に運んでお祓いだな」


 それを聞いた忍は俺の一歩前に出る。そうして顔半分見えるくらいに振り向き、一言。


「悪い。俺にやらせて貰えないか? もし駄目なら、功に任せるからよ」


 その振り向いた瞳には強靭な意思が宿っていた。それに黙って頷くと、忍は正拳突きの構えを取る。


「ふううう……」


 先日、道場で仁悦(じんえつ)氏と対面した際と同じ呼吸をして、集中力を高めている。

 その一方で憑りつかれている男は俺らが気に食わないとばかりに、こちらへ激突せんとする勢いで迫りくる。

 ヤツが振り回している拳が忍の顔面を捕える刹那――


「はっ!」


 忍の拳は男の胴に触れる一寸先で止まっていた。しかし、俺には男に憑りついていた霊の叫びがはっきりと聞こえていたのだ。


『があああああ!? 痛い!? 痛いいいいい!!?』


 その慟哭と共に、男に憑りついていた霊は剥がれ落ちるように、彼から離れる。すかさず自分の術で拘束を行い動きを止める。

 念のため、憑りつかれていた男を確認すると傷一つなく、気絶しているようだった。


 ……仁悦(じんえつ)さんの技を間近で見た時から、考察はしていたが……。これがあの正拳突きの本質か……。


 金城家に伝わる打撃――『(まぶい)穿(うが)ち』、自身の闘気で裏当てを行う妙技。その闘気は人体に一切の傷をつけることなく、憑りついた霊を剥がすことが可能だという。

 それを怪異に対して行えば、奴らには防御すら不可能な打撃ともなるらしい。


 マジかよ。あんなの俺だってできない……。

 

「とりあえず、お疲れさん。それとそっちの」


 忍の肩に手を置き労いながら、逃げ腰だった男達の方を向く。


「は……はい!」


「この人には怪我が無いから、連れてってくれ。もし心配なら、救急車を呼んでやる」


 彼らは訳も分からずにポカンとしていたが、俺の提案にこくこくと頷く。

 十数分後、呼んだ救急車に男達は運ばれていった。


 その更に十分後、ねーさんがこの場へと到着する。 


「おまたせー! うわっ!? この結界、すごっ!?」


「ねーさん、やっておしまい!」


「おっけー! 誰だろうね~。こんなの張ったのは」


 ちょっとばかりふざけた口調だが、ねーさんが廃ホテルに張られた結界へと触れる。

 すると元から術の壁など無かったかのように、結界が霧散していった。


「なあ……。勝手にぶっ壊して良いのか、これ……」


「やりそうな人は予想着くけどな。こっちが動いている時に、こんなのするのはルール違反もいいとこ。ま、報告は入れとくけど」


 あの芦埜(あしの)さんの顔が頭の中に浮かぶ。彼への連絡は後日にするとして、今日に関してはもう休みたい。


「とりあえず帰ろうか。何かいらなく疲れた気がする……」


「だね~。あたしも叩き起こされたから……眠い」


 そんな会話をしながら、沖縄の金城家へと戻って行ったのだった。

 

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