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第123話 龍脈矯正シミュレーション

 金城家へと戻った俺達、特に俺はすぐさま持って来ていたパソコンの電源を入れて、龍脈を追加した地図のデータをそちらにも移す。


「これと……、こっちのシミュレーターを起動させて……と」


 普段とは違う事務仕事をしている俺に、他の面子は興味津々といった雰囲気だ。


「これがさっき言ってたシミュレーター?」


「うん。月村さんと美弥さんが共同で作成したアプリ。本来であれば龍脈を熟知している家系とかじゃないと分からない事をコンピュータ上で再現できる」


 どこに楔を打ち込めばどんなことが起こるか……とか。普段と違う方に気を誘導すると、何年後に何がありそうか等まで計算して、安全な手順を導き出せるものなのだ。


「……なあ? 月村さんって、やっぱ凄いのか?」


「凄いことは凄い人なんだよ~。性格がアレなだけで。その性格がね~」


 忍が感心したように画面を見ながらそう口にすると、ねーさんも微妙な表情を浮かべながら肯定を示す。


「さて……頑張るか……」


 俺が画面に向かった一時間。主に操作をしている俺の嘆きが金城家に木霊する。


「ここに術で楔を打ち込むと……、地殻変動が八十年後に起こる!?」


「こっちだと……干ばつが起きて農作物被害がああああ!?」


「もう別方向からのアプローチで……、こっち側に気を流すと……。何で三百年後に大津波が襲ってくるんだよ!? このアプリおかしくねえか!?」


 などなど、俺の悲鳴を周りで聞いていた面々もアドバイスなど出来るわけもなく、お互い顔を見合わせながら困りに困っている。


「ええい! こうなったら坂城家家訓、立ってる者は長命偽のじゃロリ魔女でも使えだ! るーばあはどこだー!?」


「ルーシーなら朝からご当地の良い酒を探してくるのじゃーって、どこか行っちゃったみたいだよ」


「あんの偽ロリなにやってんだ!?」


 ローラの証言により、現在この家には偽ロリはいないという事実が判明した。こんな時は経験がものを言う様な存在がいた方が良いというのに、この惨状だ。


「おーい。何だよその家訓は? 意味わかんねえぞ……」


「俺が今、この場で作った家訓。坂城家は俺だけだし、初代だから俺が家訓と言えば家訓になるんだ!」


「煮詰まりすぎだろ。少し休憩して頭冷やせ」


 こちらの返答に呆れつつ、忍はオレンジジュースらしきものを差し出してきた。どうやら沖縄限定ご当地ドリンクであるらしい。

 オレンジの酸味と甘みが口に広がり、疲れ切った脳に糖分を補充してくれる。この仕事のためにある様なジュースだった。


「ぷはあ……。生き返る~」


「とりあえず……、俺らもやってみて良いか? これに関してはド素人だけどな。素人なりに気付くこともあるかもしれねえだろ?」


 忍の発言に部屋にいた面々は顔を見合わせ、こくんと頷いている。みんな、このシミュレーターに挑戦する気らしい。







 ――二時間後、俺以外の全員が力尽き、死屍累々の様相を呈してしまっていた。


「……何で、少しいじっただけで……バッタが大量発生してサトウキビが大損害になるんだよ……」


「ねえ……。わたしそこまで悪い事した? ハリケーン並の台風直撃って……」


「わたし……、小さな島が一つ沈んじゃった……」


 などなど、忍、美里さん、ローラも散々な結果となってしまったらしかった。それ以外にも項垂(うなだ)れているのがまだ二名程。


「……ごめんなさい。海底火山を大噴火させて、ごめんなさい……」


「あははー……。まさか……五百年後に巨大隕石直撃するとは思わなかったなー……。はあ……。おかしいでしょ! 何であたしだけ隕石!?」


 特に羽衣(うい)とねーさんの結果は前の三人よりも悪かったらしく、二人共このシミュレーターに挑戦する意欲が奪われてしまっていた。


「なあ……。こういったのは専門家(みやさん)に助言貰った方が良いだろ……」


「そうなんだけどな? 本当にマズくならないと助けてはくれないぞ。自分で考えるのも仕事のうちっていうスタンスだし。ちゃんと教えるべきところは教えてるから……って」


 その教えを受けた俺でさえ、この結果なのだが。

 忍と再度、顔を見合わせて、双方溜息をついてしまう。


「よし、基礎に立ち返るか……。まずはあまり気の流れていない場所、つまりは影響の少ない場所へ余裕のある量を流して……、それを慎重に繰り返して――」


 全てにおいて、早急に結果を求めてはいけない。ほんの少しをコツコツと積み重ねていくのが、どんな事をやるにしても重要だと。それはこの龍脈を別方向に流れさせるのも変わらないと、そう教わったはずだ。


 そうして更に一時間半後。ようやく目に見える結果としてシミュレーター上へと現れてくれた。


「……ふ、ふふふ。どうだ。龍脈の流れを廃ホテルを避けるようにしつつ、廃ホテル下と同じく少し気が溜まりやすい場所に行きつくようにしたぞ……。あとはそこに簡易でも良いからお社を立てれば……」


 パソコンを開いてから悪戦苦闘の数時間。どうにか今回の案件の解決ができそうと安堵していた。俺の脳みそはパンク寸前となってしまっているが。


「龍脈の流れが変わった際の被害も軽微だし……、頑張ったね!」


 ねーさんも満面の笑顔で頭を撫でてくれていた。そんなほんわかな雰囲気となっていた場にて、気の抜けるような苦情が耳に入ってきていた。


「さっきからうるせーヘビ! これだとゆっくり眠れねーヘビ!」

 

 それは部屋に置いていた駄蛇刀に宿っている駄蛇からの苦情であった。どうやら俺らがシミュレーターで四苦八苦している最中でも構わずグースカと眠っていたらしく、騒音で起こされてしまったかの様に不機嫌な顔を見せている。

 

 みんなには霊体な駄蛇の声が聞こえないので、ローラが実体化を行って、その声が分かるようにする。


「ヘビさん、おはよう。もう夕方近いよ」


「じゃあ、おそようヘビ。なーに騒いでるヘビ?」


「んっとね――」


 ローラが駄蛇に対して、全員が部屋に集まって頑張っていたことを説明する。

 すると駄蛇がおかしな指示を出していた。


「娘っ子、ヘビが咥えるための棒を持ってくるヘビ。その、しみゅれーたーとやらをやってみるヘビ」


「あのなあ……。これ、龍脈の矯正。地面の魔力の流れを変えるヤツ。食っちゃ寝ばかりのお前ができるはずないだろ……」


 疲労から元気にツッコみを入れる余力も無かったのだが、駄蛇は構わずに棒を咥え、それを使って器用にカタカタとキーボードを押して操作している。


「まずは……最初の画面をこぴぺヘビ。それで、一番最初には、ここに術での楔を打つヘビ。次は逆方向の――」


 ヤツは龍脈が記された地図を一目すると、全く迷うことなくシミュレーターを進めて行く。そうして十分後――


「ほれ、できたヘビ。何か問題あるヘビ?」


「……何で龍脈いじった時の被害が全く無いんだよ!? しかもちゃんと矯正できてるし!?」


「小僧は無駄が多すぎヘビ。精進が足りないヘビ」


 待て!? ちょっと待て!? 俺らのこの数時間に及ぶ阿鼻叫喚は何だったんだ!?


「まだだ! 最終的には美弥さん達に確認してもらうから、何か粗が見つかるかもしれない!」


 現実を受け入れられず、勢いのまま月村家へ連絡を取る。あちらも俺達を待っていたらしく、俺と駄蛇が作成したデータを送り、確認をお願いすると俺にとっては驚愕の返答が返ってきていた。


「功君のは……100点中95点といったところね。普段ならこれでも良いのだけれど……」


 ビデオチャット上の美弥さんが少しばかり目を逸らしている。そして、画面には写っていない場所からは、旦那さんである月村真司さんの大爆笑している声が画面越しでもはっきりと聞こえていた。


「レーイーチェールー! ぶははははは! 何で初回から人類滅亡トリガー引いてるんだー!! 山勘(やまかん)で、いい加減にやっても、こうはなーらーなーいーぞー! あはははははは! もう才能だろこれ!」


「うっさい真司! 静かにしろー!」


 レイチェルねーさんのシミュレーション結果が凄まじくツボに入ってしまったらしく、最初は大爆笑だったのが、現在は笑いすぎて呼吸困難一歩手前みたいにひーひー言っている。


「……静かになったから、本題に戻るわ。蛇君の方だけど」


 それを聞いて思わずゴクッと唾を飲み込んでしまう。自分でも気が付かないうちに緊張してしまっていたらしい。


「非の打ちどころがないわ。力が弱まっているとはいえ、流石は山神の神格を持つ存在といったところね」


「当然ヘビ。蛇にとっては大地の気を読むことなんて朝飯前ヘビ」


 美弥さんからも太鼓判を押され、俺の方を向きドヤ顔をしている駄蛇であった。


「小僧、蛇に言ことはないヘビか?」


「今回は……蛇さんの案を採用させていただきます……。ご協力、ありがとうございました……」


 そこまで口にすると、駄蛇は満足したようにうんうんと頷いている。いつもぞんざいに扱っているので、さぞや気分が良いのだろう。


 俺と駄蛇のやりとりを画面越しに確認していた美弥さんは、苦笑いをしながら励ましてくれていた。


「そんなに気を落とさないでね? 功君のだって、及第ではあるんだから」


「そうだぞ。ぶっあはははははは! レイチェルと比べれば月とスッポンどころの差じゃないからな! あーははははははっ!」


 呼吸困難から復活した月村真司さんが、またもや大爆笑している。こちらではねーさんが拳を握り、パソコンの画面を叩き割らんとばかりに激怒している。


 俺達全員でそれを止めて、ビデオチャットは終了したのだが、程なくして玄関の方からガラッと扉を開ける音と偽ロリの上機嫌な声が響き渡って来た。


「今、帰ったぞーい! いやー。良い酒が手に入ったのじゃ。それと頑張っている子供達には、差し入れをたーんと買って来たぞい」


 そんな事を言いながら、俺らが仕事をしている部屋へと足を踏み入れた偽ロリは、その様子、特に俺を一目見て固まってしまった。


「駄蛇に負けた駄蛇に負けた駄蛇に負けた駄蛇に負けた駄蛇に負けた駄蛇に負けた駄蛇に負けた駄蛇に負けた……」


「ど……どうしたのじゃ!? あやつ……」


 俺が壁に片手をつき、ブツブツ呟いているのが異様な光景に映ったらしい。忍達が事の次第を説明し、るーばあにも励まされつつ、差し入れのお菓子をやけ食いしたのであった。

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