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第120話 魔力性質講義

 廃ホテル内の霊達を神葬祭で送った後、ローラの疑問に答えるべく術者が扱う魔力の性質についての説明を行う事となった。


「さて、まずは問題です。そこら辺にプカプカ浮いてる『魔力』の粒と、俺や羽衣(うい)が使う『神気』の違いは何でしょう?」


「粒が集まって……、それが多いか少ないかの違い?」


 ローラも俺の質問に困ったような表情で答えている。ノーヒントではこんなもんだろう。


「残念。次、忍のターンです!」


「確か……、月村さんが言ってた気がするな……。空間にある魔力は……、何にも染まっていない、『ただの力』で取り込む人間によって色々変わる……とか」


「はい。せいかーい! 取り込む人間がどんな修行をしてきたか、またはその人間の生まれつきの資質。空間中の魔力は取り込まれた瞬間に、その人間の性質へと染まっていきます」


 元々は無色ともいえる力だが、使う人間によってそれを千差万別に変えていくのだ。


「なので、例えば俺や羽衣(うい)みたく、神道系の修業をしていると『魔力』は『神気』へと変化します」


「あれだね。食べ物だって、元々は自分とは違うものでしょ? それを食べて消化して自分自身に作り替えて行ってるような感じ」


 ねーさんがうまい具合に補足で説明を足してくれていた。


「なので、俺や羽衣(うい)、神屋師匠(せんせい)なら『神気』。ねーさんや彌永(いよなが)さんなら、『闘気』が強く出てる。それは忍と美里さんもかな。魔力の性質はまだ色々あるけど、まずはこの二つに絞って説明していく」


「まずは神気。これは対魔・対霊での直接戦闘でも使えない事もない……が、(けが)れを祓う事を得意とする性質だな」


「真っ黒だったヘビさんの骨が綺麗になったのも?」


「そういった性質によるもの。その延長線上で魔から身を護ることも得意なんだな」


 ローラの質問に答えると、その説明に講義を受けている面々は感心したような雰囲気となっている。


「次は闘気ね。これは読んで字のごとく、直接戦闘を得意とする性質ね。特に東洋だと武術と気って密接な関わりがあるでしょ? 美里のお父さんから、二人は空手を習っていたのもあるけど、武術をやっている人だと闘気になりやすいの」


「な……成程……。どっちが強いとか弱いとかあるのか?」


「んー……。それってね。陸上と水泳の100メートル競技の選手はどっちが凄い? みたいな比較だから、あんまり意味ないの。それぞれの得意分野が違うだけだから」


 主に闘気を扱っているレイチェルねーさんが、そのような解説を行う。忍も比較については納得したようだった。


「あれ? さっき功くんは神気や闘気が強く出てる(・・・・・)って言ってたけど、その言い方だと?」


「うん。人によっては魔力の性質が一つだけじゃない場合もある。例えば俺だって武術はやってるだろ? だから俺の場合は、神気と闘気の複合で割合では神気の方が高いってこと。それは個人の資質や修業内容で千差万別になる」


「ちなみに割合的にはどんな感じなの?」


 美里さん、今回の講義には興味津々の様である。


「俺は神気が七割、闘気が三割ってとこかな? ねーさんだと闘気八割、神気二割。羽衣(うい)は神気が六割、闘気が四割くらいか」


「結構違いがあるね?」


「まあな……。って、ねーさんが神気? 昔は一緒に神屋家で修行してたから、今まで気にしてなかったけど……聖気じゃないのか!? あっち(アメリカ)での修業は!?」


 俺の指摘にレイチェルねーさんはバツが悪そうに目を逸らしている。


「……基礎だけじゃなく、本格的な修行もサボってたな?」


「あっちは、あたしに合わないの! どっちみち、全体の二割だからそんなに影響ないでしょ!」


 いきなり飛び出た『聖気』のワードに俺とねーさん、羽衣(うい)以外はポカンとしている。


「ええとですね……。『聖気』は欧米でポピュラーな宗教の力です。『神気』と同じく神聖な系統になりますが……、性質がかなり違うとか」


「すまん。話が脱線した。そんなわけで、同じ系統の力を使う人間同士でも、個人によって違いが出てくる」


 羽衣(うい)がうまいことフォローしてくれた一方、ローラが首を傾げていた。


「わたしには霊視をしても、みんな同じにしか視えないけど……」


「それはね。コウだから。この子は普通の術者なら感覚的にしか分からない他人の魔力性質を五感で理解できるの」


 その解説で俺の顔を眺めていたローラさんであった。そこから更に、ねーさんが説明を続ける。


「でね? コウって他人への強化(バフ)が得意でしょ。それって本来は難易度が高いんだ。他人の魔力性質に同調させる必要があるんだけど、コウはそれを五感で理解して合わせることができるからね」


「はえー……。ちょっと頭がパンクしそう……」


 ローラさん、この講義については後日、改めてゆっくりとやった方が良さそうだ。

 彼女を少し苦笑いしながら眺めていると、今度は忍が質問を口にしていた。


「さっき、室長と彌永いよながさんのは聞いたけど、月村さん夫妻は?」


「美弥さんはレア。『流気』、流れる気って書くけど、本来はドラゴンの龍って書く『龍気』だ」


「何か聞くからに強そうな……」


「凛堂家は龍脈、要は地面に流れている力を利用してきた家系だからな。本来なら数人がかりでやる大術式で利用する物なんだけど、それを個人で使える。瞬間的な出力なら、あの四人の中ではトップのはず」


 その一言で、忍と美里さん両名とも、普段はにこやかな表情を崩さない美弥さんも、やっぱりただ者ではないと再認識したようだった。


「でな? 月村真司さんの方だが……」


 俺が少しばかり言い淀んでしまったため、みんな不思議そうな顔となっている。


「分類不能なんだ……。あの人」


「「「は……?」」」


 忍、美里さん、ローラの三人の声がハモってしまう。あまりにも意外な答えに呆気にとられたようだ。


「出力は弱いのに、当たった瞬間にこっちの力に傷を入れて脆くされる」


「レイチェルに似てるの?」


「いや、ねーさんの『霊体霧散』は、魔力使ってない。けど月村さんのは紛れもなく魔力の干渉」


 演習の時、偽ロリの使い魔を俺の結界と一緒にぶち抜いたのは、この性質によるものだ。


「出力そのものは弱いから、銃弾に力を込めるのが効率良いって本人も言ってるしな。なんつーか、術とか怪異に対する毒みたいだよなあ、月村さん魔力」


 偽ロリ曰く、そういった特殊な魔力性質を持つ人間も稀に産まれてくるのだとか。


「月村さんは、アレだ。前世は異世界で魔王やっていて、勇者に敗れてこの世界に転生してきたとかじゃないか?」


「どっちかって言うと、敵幹部のマッドサイエンティストじゃない?」


「いやいや、あの人なら敵の親玉を倒したあとで、高い所に陣取って高笑いしながら、実は自分が黒幕って暴露するぞ」


 俺とねーさんの月村さん談義を聞いていた面々は、顔が引きつっていたらしい。


(((この二人にここまで言わせる月村さんって……一体……)))


 ある意味、対策室で一番謎な人物、月村真司。彼の異様さについての議論はまた後にして、もう少し解説を続けるとする。


「月村さんの話はもう終わりで。んでもって、同じ魔力性質でもその人の鍛錬の度合いに寄っては、特徴が出てくる場合もある」


「例えば?」


彌永(いよなが)さんだな。あの人のは『闘気』ではあるけど、より剣術に特化した、いわば『剣気』って評しても問題ないくらいの代物。刀での戦闘では怪異に対して凄まじい斬れ味になる」


 ここまでの説明でローラには、覚えがあるようで何やら思い出しているようだった。


「そういえば、小学校の演劇大会の時、イヨナガさんが手刀でお化けを斬ってた」


「あの人のはもう闘気自体が刃物みたいなもんだからなあ……。その辺の相手なら素手でも負けないと思う」


 演劇大会では偽ロリと組んで、にんさんの式神を相手してくれていたので、そのシーンをローラも思い浮かべたのだろう。


「どうやったら、そこまで行けるんだ?」


「一朝一夕だと絶対に無理。数十年の鍛錬と研鑽の果てに辿り着く極地だよ、あれは」


「鍛錬あるのみか……。先は長いな」


「ほんとだよ。まあ、凛堂師範には長い目で鍛えろ……とはよく言われてたけど」


 そんな発言で一同が俺の方を注視する。どうやら少し気になってしまったようだ。


「急に力を欲して無茶をすると、『()』は『()』、(すなわ)ち鬼へと転じる……ってのは師範の受け売りだけどな。目的があって力を欲するはずが、力を持つことが目的になって、ついにはその力に振り回される。そうはなるなってさ」


「だから、ローラもゆっくりで良いから、色々覚えていこうね! 焦ったらダメダメだよ」


「はーい!」


 ねーさんから話を振られたローラは元気よく返事をしている。


「欲を持のは悪い事じゃないけど、その欲に憑りつかれたらいけないよ。くらいで覚えとけば良いさ。さて、簡単だけどこんなとこだな。もういい時間だし帰ろうか」


 明日は廃ホテルに再度幽霊さん達が集まらないように、対策室側と相談もしなければならない。そして何より、偽ロリが酩酊して迷惑かけてなきゃいいなと願いつつ、沖縄の金城家へと皆で戻って行った。

 

 

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