第101話 新学年の始まり
元旦からのフランス産怪異の襲来から約三ヶ月経ち、その間に俺の先祖こと若作り偽ロリのルーシー・ウィザースがフランスから連れて来たローラや、師匠の娘である羽衣が俺の通う学校を受験して、見事合格したりと色々あった。
本日はその入学式が行われている最中だ。在校生の俺が出席することなないのだが、うちの偽ロリと師匠が保護者として出席しているはずだ。
ちなみに……、対策室責任者の師匠は有給休暇をとって入学式に出席しているため、今日はその部下である月村さん夫妻が対策室を取り仕切っている状態だ。
そんな月村さんから俺宛にメールが届いていた。
『功、今日だけでも学校休んで手伝ってくれないか?』
その救援要請にこう返しておいた。
『学生の本分は学校生活です。それを蔑ろにはできません。がんばってー』
今頃、研究畑が本業の月村さんは右往左往していることだろう。奥さんの美弥さんも、うちのレイチェルねーさんもいるからどうにかなるはずだ。
そんなのを頭の中で想像していると、今年も同じクラスになった藤田さんから休み時間に声が掛かった。
「ローラちゃんと千佳、今頃は入学式か~」
「千佳ちゃんも受験してたのこないだ初めて知ったぞ」
「それね。坂城君、三学期はじめは入院して学校来なかったし……、言いそびれてた。っていうか……、不発弾撤去補助のバイトって何? それで何で雷に打たれてるの!?」
新年早々に俺が入院していたのはそういう事になっているらしい。真実はフランス怪異との戦闘であり、勿論そんなことは公表できないので、このように学校には伝えているようだった。
「臨死体験でひいばあちゃんが川の向こうで手を振っていた気がする……」
「ひいおばあさん生きてるでしょ!? 縁起でもないって!」
うちの偽ロリは藤田さん達みたいな一般人には俺、ローラ、レイチェルねーさんの曾祖母という事で紹介している。だって、八代前の先祖が生きてますとか、どんな冗談だって話になる。
「今日、新入生は入学式とクラスでのオリエンテーションだけのはずだから、あっちは昼過ぎには終わるだろ。俺らは新学年関連で色々とありそうだけど」
そうこうしているうちに昼休みになる。すると――
「兄様! 入学式終わりました!」
二年生の教室の扉を勢いよく開けた羽衣さんがその勢いのまま、俺の眼前へと迫っていたのであった。
「何で来たー!? 俺らは午後もあるんだぞ!」
「だって……、会いたかったから……」
少しだけ目を逸らし、顔を伏せている羽衣と俺に対して周囲の視線が集まる。彼女はこの学校の制服に身を包んでおり、俺からすればかなり新鮮味のある服装となっている。
「誰? 兄様って? 一年生だよな、あの娘」
「坂城の知り合いの割に……、去年は来なかったし……誰だ?」
などなど俺達を見てヒソヒソ話に華を咲かせている人間多数。変な噂になるといけないので、ちゃんと紹介しておくべきだろう。
「彼女は……、俺の保護者の娘さんなんだ。ひいばあさんがずっと日本にいるわけじゃないから、その人の世話になってる」
「ほー。親がいないのは知ってたけど……、何でその娘、中等部にいなかったんだよ?」
「父親は都内で仕事してるけど、出身地は別なんだ。だから高校受験して春からここに通うことになったんだよ」
その回答にうんうんと頷く者もいたが、余計なことを口走るヤツもいた。
「つまり坂城を追いかけて来た……、押しかけ女房!?」
「そんな……女房なんて……まだ早いです……」
「「「まだ!?」」」
頬を赤らめて、そんな発言をしてしまった羽衣と俺に奇異な視線が集まる。
「羽衣さーん。こっちはあと少しで先生くるからな? 怒られる前に退散しなさい」
「学校終わるまで……待ちますけど……。一緒に下校したいです」
「そんなのならこれから先、いくらでもできるだろ」
ぽんぽんと羽衣の頭に触れて退室するように促す。どうやら説得を受け入れてくれたらしく、俺の教室から退散してくれた。
「ふーん。へえ……」
「藤田さん? 何か?」
「いつもより優しい顔になってたから。そんな顔もするんだなあ……って」
そんな自覚はないのだが、外から見るとそう感じてしまったらしい。
「それで? あの娘とはどんな関係だ! 吐け!」
「だから! 俺の保護者してもらってる人の娘さんだって!」
「そんなので、わざわざこの学校を高校から受験して、しかも入学式当日にこの教室に来るとか無いだろ!」
その分析に周りはそうだそうだとの声が上がっている。
「お前はドルオタだと思って安心してたってのに! あんな可愛い娘といい関係だったなんて!」
「いや待て!? ドルオタは否定しないけど、俺のクラスでの評価ってどんなのだよ!?」
その問いに俺以外のクラス全員が目を合わせ、数人が口を開いていた。
「千羽鶴を徹夜で折る変な奴」
「バイトで雷に打たれて奇跡の生還したヤツ」
「アイドル推し活に全力投球する尊敬すべき漢でござる」
そんなクラスメイト達の評価を聞いて愕然としてしまったのだった。
「くっ……!? 俺はもっと普通の人間だと思ってたのに!?」
「普通っていうかねー……。外国人の親戚が何人もいて、マルチリンガルなうえ、小学校で演劇指導する高校生ってなかなかいないと思うよ?」
藤田さん、容赦なく止めを刺しに来やがった。小学校の演劇指導の件はローラと同じクラスの妹さんから聞いていたらしい。
「だがそれでもだ! 俺はこの高校生活をエンジョイしなければならないんだ! なぜならこの瞬間は、今この場にしかないのだから!」
(((そういうとこがおもしれー奴なんだよなあ……)))
その場の俺以外の全員の思考が一致している気がする。
そうしていると先生が教室へと入ってきていた。
「よーし。全員着席しろー。新学期初めの説明始めるぞ」
その指示に従い、俺の周りにいたみんなが自分の席に着席し始める。その中にあって、先生は俺へと視線を向けていた。
「坂城……、噂で聞いたんだが……、お前を追いかけ――」
「先生までそんな事を言ってるんですか!?」
「事情はお前の保護者さんから聞いてはいるけどな。高校からここに通う人間は珍しいから、みんなが飽きるまでは耐えろ」
自分が凄まじくいじられている気がする。
「さて、じゃあはじめは――」
担任の先生から二年生としての心構えだの、後輩への接し方、進路をそろそろ考えておくように等々の説明がなされた。
そして今日の日程も終わり、下校時刻となった。校門の方へと向かうと、羽衣とローラの姿があった。
「二人共……、もしかして待ってたのか?」
「うん。色んな所を周ってたんだ。羽衣さんと一緒に」
「大変でした……。外国人が珍しいのか……、行く先々で声を掛けられまして。ナンパみたいのも数人……」
少しばかり目を吊り上げてした羽衣ではあったのだが、頭の中に心配事も浮かんでしまう。
「う……羽衣さん? その人達に……喧嘩売る様な事はしてないよね?」
「わたしは何も。軟弱な男はお呼びではありません……としか」
「それが喧嘩売ってるって言うの!」
こう……。所作は女性らしくなったようでいて、喧嘩っ早いのは子供の頃と一緒というか……。気が強いというか……。
「大丈夫ですよ。一睨みで退散しましたから」
本当に大丈夫なのだろうか……。後日、変な話にならなければ良いなと思いつつ三人で家路についたのであった。その途中――
「ねえねえ。この制服どう?」
「ローラ、今朝もそれ聞いてきただろ。良く似合ってるってば」
「えへへ~。良かった~」
ローラさんは今日一日、とてもご機嫌でした。




