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 (あたま・・痛い・・)


 乗り心地の悪い乗り物に乗せられているのか?振動が身体に伝わってくる。

 身体を動かそうとしたがどうやら両手足を縛られている様で、思う様に身体を動かす事が出来ない。


(ここは・・)


 目を凝らすも周りは暗く何も見えない。

 ただ、奥の方から女性の啜り泣く声が聞こえてくる。少しすると目が慣れてきて、どうやら荷馬車の中の様だ。


「!!!」


 起きあがろうとしたら、両手足が紐で縛られていた。一瞬何か訳がわからず焦ったけれど、冷静になれば自分が攫われたのだと思い出す。

 諦めてまた寝転ぶと


「お気付きになられましたか?しっ!大きな声はお控えくださいませ」


 声がした方へ顔を向けると、両手を縛られた一人の女性が私の側に座っていた。


「貴女は?」

「その前に、貴女様はご貴族様ですか?」


 ああ、おそらく後ろで啜り泣いている方達は平民なのだろう。自分の身分を隠してこの馬車に乗っているのかな?と察した。


「私はゾーロイ男爵が娘、マーガレットと申します」

「そうでしたか。わたくしはフィッテ男爵が娘、サラと申します。どのような経緯かは分かりませんが、ゾーロイ様は途中からこの馬車へ乗せられました。覚えておいでですか?」


 私は頭を横に振る。

 この異様な雰囲気にフィッテ令嬢に疑問を投げかけた。

 乗せられている女性は何なのか。この馬車は何処に向かっているのか?


 と。フィッテ令嬢も首を横に振り、


「わたくしは婚約者に騙されてこの馬車へ乗せられました。わたくしがよほど邪魔だったのでしょう」


 顔を伏せながら言葉を続ける。

「おそらくこの馬車は人買い。そして向かっているのは娼館か、異国・・」

「なっ!?」


 フィッテ令嬢の言葉に、喉を潰された気持ちになった。



 どれくらい馬車に揺られたのだろう。きっと家族は心配しているのだろうな・・

 それよりも頭の中を整理しないと・・


「フィッテ嬢、サラ様とお呼びしても?」

「ええ、ぜひ!わたくしもマーガレット様と?」

「もちろん!サラ様は先ほど騙されたと言われましたが・・経緯をお聞きしても?」


 サラ様は少し考えていたが


「あまり良い話ではありませんが・・」


 と、話始めた。


 サラ様の話を纏めるとこうだ。

 サラ様は前妻の娘でお母様が亡くなり父親が再婚。後妻が連れて来た娘は何故かサラ様と一歳も離れておらず、しかも父親に似ていた。

 後妻と娘は浪費がひどく、あっという間に財産が食い尽くされた。

 サラ様には婚約者がいたが義妹に奪われた挙句、自分は指定された場所に向かったら拉致されて今に至る・・


「もともと両親は政略結婚。父と義母はその前から恋仲だったそうです。結婚後も繋がっていて義妹も・・でも、婚約者にまで裏切られていた事はつら・・い・・」

「サラ様はその方のことが?」

 

 私の問いに泣きながら頷くサラ様。

 サラ様を慰めようと近づくと、身体から嗅いだことがある香りがした。

 忘れられない香りに あの事件 を思い出してしまい、気分が悪くなる。

 そんな私の様子にサラ様は両手を縛られながら心配してくれる。


「サラ様・・その、お気付きですか?サラ様から香るその匂いに・・」


 私の言葉に一瞬身体を強張らせる。ゆっくりサラ様を見ると、全身が震え顔から血の気が引いている。

 暗闇でもわかるほどの動揺に言葉を失う。


「なせ・・なぜマーガレット様が・・」

「・・私もその香りで攫われた事があるのです・・」

「・・・・」

「サラ様・・?」


 様子がおかしい、もしかしてサラ様もあの時の被害者なのかも!そう思い全身を使って慰めるが、震えはおさまらない。


「マーガレットさま・・わたし、婚約者に騙されたと言いましたよね?」

「・・・ええ」

「わたし・・あの方に、あの方の借金の代わりに・・無理やり体を・・」


 泣きながら話してくれたサラ様を、私は体を使って包み込む事しかできなかった・・



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