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「一人かい?先程までアラン・フロイドと一緒だったと思うけど」
「はい、アラン様はお兄様と一緒に公爵様の元へ」
テリー卿はわざとらしく考えた後、手を差し出してきた。
「彼が戻るまで私のダンスにお付き合い頂けないか?」
格上からの申し出に断われる訳もなく、仕方なく手を取った。
テリー卿は侯爵子息だけあってダンスの腕は良かった。が、それだけだった。
少しでも距離を取ろうとしても直ぐに引き寄せられてしまう。
意味ありげな視線を送ってくるのも気持ち悪く、早く曲が終わらないかな?と考えていた時
「もう少し君と二人きりで話がしたいな。どうかな?場所を移動しないか?」
「お戯を・・テリー卿も他にエスコートされるご令嬢がいらっしゃるのでは?私もアラン様を待たなくては!?」
言葉を続けようとした瞬間、足の力が抜けてしまいテリー卿に向かって倒れてしまう。
何が起きたのかわからない。
腕を上げようにも上がらず、気付けばテリー卿に抱きかかえられていた。
意識はあるのに身体が動かない・・
「すみません、連れが体調を崩してしまいました。」
そう言うと公爵家のメイドが
「こちらに休憩室がございます。どうぞ」
と誘導する。
私は抵抗すら出来ずそのまま連れて行かれてしまった。
「ねぇアイル。あれマーガレットさんじゃなくて?」
「どこ?えっ!何でマーガレットとフレドリックが!アランはどうした!」
アランを探している内に、二人の姿を見失ってしまった・・
取り敢えずフレッドに言わないと!
アイルはイエインをその場に残し、慌てて公爵家の元へ駆けて行った。
部屋を案内してくれたメイドを帰しソファーへと降ろされた私は、今だに身体に力が入らずにぐったりとしていた。
そんな私を見たテリー卿は
「アイツの欲が表れたドレスだな。マーガレットには似合わない色だな」
力が入らないが目だけでも威嚇すると、そんな私を見て笑い出す。
何が可笑しいのか?そして私に何をしたのか!
訳が分からないが今の状況が良くない事を、身体が感じていた。
私の髪をほどき、一房取ると自身の唇を当てる。
「ねぇマーガレット。なぜ身体が動かないか知りたいかい?」
頑張って顔を横に振る。聞いてはいけない気がしたからだ。でも、そんなの気にせずに私の横へ腰掛けると、私を抱きしめた。
「私の身体から甘い香りがするだろう?これはね、女性にしか効かない媚薬の一種でね」
彼の手がドレスのホックへと手が伸びる。
顔を上げようとしても後頭部を押さえられている為、上げる事が出来ない。
「さあ、マーガレット。俺に堕ちろ。フローラは簡単に堕ちてきたよ。」
フローラの名前に一瞬身体に力が入る。
「コンラッドには君を連れて来いと頼んだんだけどね・・姉の方を連れてきたんだ。
フローラは少しでも高位貴族と近づきたかった様でね」
私の首元にキスをしながら囁く。その声が頭の中を這う。
「親が決めた相手なんかより、君のが良くてね。ああ、君からも甘い香りがしてきたよ・・」
(いやだいやだ。この人はこの香りでフローラにも手を出した。そして妊娠させたんだ!卑怯者!)
力いっぱい睨むもなぜか嬉しそうな顔をしている。
私を抱き上げるとそのままベッドの上に寝かされてしまった。
テリー卿は私を覆い被すように上に乗る。
「ああマーガレット。君を俺の物にしたと知ったら、フレッドもアランもコンラッドも、悔しがるんだろうなぁ。」
クスクスと笑う顔が歪んでいて気持ち悪い。
お兄様たちへの復讐のために私を利用するの?
(ああ、初めてはアラン様が良かった。汚れてしまう私ではもう、アラン様の側にはいられない・・)
悔しくて悲しくて、私は声も出せずに涙を流した。
泣いている私を見てもテリー卿の手は止まらない。
「マーガレット、そんな顔で見られたら余計に君を抱きたくなるよ」
ドレスを脱がされ下着姿にされた私は、ただ涙を流すだけだった。
そんな時何処からか私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。呼ぶと言うよりも・・
「マーガレットどこ!返事をして!!マーガレット!私よ、フローラよ!お願いだから返事して!」
フロイド領にいる筈のフローラの声がする。
なぜあいつが!と舌打ちと共に呟く。
「マーガレット!」
コンラッド様の声もする。
私は動かない腕を頑張って動かして、ベッドの横に置いてあった水差しを落とした。
ガラスの割れる音が響くと足音がこちらに向かって来たのがわかった。
更にグラスも落とす。
テリー卿も足音がこちらに向かっていると気付き、
ベッドに横たわる私を抱き上げると同時に扉が開いた。
そこにはフローラとコンラッド様と一緒に、アラン様の姿もあった。




