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「アラン様!お忙しいのみすみません。お兄様に無理を言われたのでは無いですか?」
「そんな事ないよ。殿下の用事もあったし、フレッドさんは別件で忙しくて手が離せなかったんだ」
それなら良いけど・・
アラン様もお兄様の仕事を引き継ぐのに忙しいはずだし、お手間を取らせても・・
そう考えてたら
「マーガレットは直ぐ帰らないといけない?今から休憩を取るんだけどもし時間があるなら一緒にお茶でもどうかな?」
「えっ?良いのですか?ぜひ!」
勢い良く返事をしてしまい恥ずかしい。
アラン様は殿下の用事を済ませたら直ぐに向かう、と言い残し走って行った。
私は先に王宮内にある休憩施設へと向かうが、途中綺麗に咲いている花に目が止まりそちらへと足を動かした。
(ここにいればアラン様も気付くわよね?)
そう思いながら花壇の一角にあるベンチへと腰を下ろした。
王宮の専属庭師が手入れしているからか、見たこともない花々が咲いており王都に来た時にアラン様と待ち合わせたあの図書館を思い出した。
あの時からまだそんなに時間は経っていないのに、色々な事が起きたなぁ。
お兄様は公爵家に婿入りが決まり、フローラも子供を産んだ。ただその子がコンラッド様の子では無いかも知れない。
そしてコンラッド様もその事を知っているとしたら・・学園時代に何かがあったのか?
一人で色々考えていたから後ろに誰かが立っている事に気づかなかった。
「フローラ?なぜ君がここにいる?」
私の事をフローラと呼ぶ。
そんな人は私の周りには誰一人としていない。
私は恐る恐る振り返ると・・
「あれ?すまない人違いだ。私の知り合いに似ていたから声を掛けてしまった」
その男性は黒髪・・茶色目で、フローラが産んだ子供の色と同じだった。
「あっ、あの・・」
初対面の男性に声を掛けられ戸惑っていたら、それを察したのか
「私はテリー侯爵家の者だ。フレドリック・テリー、聞いた事は無いかい?」
「失礼致しました、テリー侯爵子息様。私はゾーロイ子爵が次女マーガレット・ゾーロイと申します。」
慌てて格上の方に対する礼をとると、テリー侯爵子息は私をマジマジと見てきた。
声が掛かるまでは顔を上げることは許されないため、そのままの姿勢を保つが・・辛くなってきた。
そろそろ良いかしら?と思ったとき
「!!」
腕を引っ張られたと思えば顎を指で上げられた。
一瞬目と目が合ったが咄嗟に指を外しまた下を向いた。
驚きのあまりドキドキが止まらない。そのドキドキは、アラン様に見つめられたドキドキとは違いまるで獲物を見つけたヘビに睨まれている様な感覚だった。
「失礼致しました。テリー侯爵子息様。」
「そんな堅苦しい呼び方はしなくて良いよ。君はフローラ嬢の妹かな?」
「はい、フローラは私の姉でございます。姉の事をご存知で?」
そう問いかけると「ああ、良く知っているよ」と
意味ありげな顔で言ってきた。
もしかしたらフローラの産んだ子の事も知っているのかしら?
「あの、フローラとはどんな」
「君はフローラとはあまり似ていないのだね?でも、君の方が賢そうでやはり君のが良いな」
テリー卿の手が私の方へ伸びてきたが、身体を動かす事が出来ずに固まっていると、
「テリー卿!私の連れが何か?」
間に入り込んだアラン様が私を庇うように立ち塞がってくれた。
私は無意識にアラン様のジャケットを握りしめたが、震える手は止めることは出来なかった。
「君はコンラッドの弟の」
「アラン・フロイドと申します。」
「ああ、君のことはコンラッドから聞いているよ。兄と違い優秀だと。彼は領地へ行ったままかな?」
「・・はい。兄はここのマーガレットの姉フローラと結婚し、出産もありそのまま領地に滞在しております」
「出産?」
テリー卿の顔が一瞬曇ったような気がしたが直ぐに戻し、また私の顔を覗き込むように
「確かフレッドの婚約が決まったと聞いた。おめでとう!まだ暫くは王都にいるのかな?会えたら声を掛けても良いだろうか?フローラの話も聞きたいし」
まずそんな日は来ないだろう!と
「断る理由がございません」
格上の社交辞令だと思い答えると、テリー卿は笑顔で去って行った。
私はアラン様に縋るように立ち尽くした。




