第9話『冒険の終わり』
遠くから見守る俺の目の前で。
ついに、マルシャナの剣が魔王の胴体を貫いた。
俺が生み出したものであるその剣が、魔王の心臓まで届き、ついに魔王を消滅させたのを、俺はこの目にしっかりと焼き付けた。
きっと、俺は今の光景を生涯忘れないだろう。
……永い、永い冒険の旅だった。
あの娘が魔王を討伐してくれたこと。
そして俺の作った剣があの娘の力になれたこと。
そのことが武器屋として、そして一人の男として、とてつもなく嬉しいぜ。
マルシャナに駆け寄ってよくやったと褒めてやりたい。……ずっと一人で戦ってきた彼女を強く抱きしめたい!
……そんな衝動を、柱の陰でぐっとこらえる。俺は、ただの武器屋だからな。
魔王を倒した余韻がまだ抜けきらないのか、マルシャナはしばし呆然としていたものの、やがて剣を高く掲げた。
俺が作った剣に向けて何かを囁いているのが分かる。とても優しげで、そして誇らしげな表情だ。ひょっとして、ねぎらいの言葉でもかけてくれているのだろうか。だとしたらこれ以上ない喜びだ。
先ほど抱きしめたいなんて思ってしまった自分が恥ずかしいぜ。俺にとっての報酬は、それだけで十分だ。
……おっと、まずい。このままだと鉢合わせしちまう。場所が場所だし、さすがに今回は、通りすがりの行商人です、と言っても信じてもらえそうにないからな。
急いでここから離れるとしよう。
じゃあな。
村でまた会おうぜ。
ただの武器屋として、笑顔でお前のことを出迎えることにするよ。